女子高出身、工学部卒の私が男の子の母になって開いた悟り
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記事 リコ(ライティング・ゼミ)
ピーポーピーポー。
遠くにサイレンが聞こえた
救急車だ。
やばい。救急車がきた。
友人の家に向かう途中、スマホで地図を確認しようとしていた私は、すぐにその作業を中断した。
スマホをカバンの中にしまい、いつでも走れる準備を整える。
サイレンの音は次第に大きくなる。
やはりこちらにくる。
通りの向こうに救急車が見えた。
「ぴーぽきた!」
興奮気味の子供の声。
案の定、救急車に魅せられて道路に出そうになる。
私は彼の手をしっかりにぎり答える。
「そうね、救急車ね」
救急車は目の前を通過し、やがて見えなくなった。
1歳の次男は今、救急車が大好きである。
不謹慎な話だが、外を歩いていて救急車を見つけると目を輝かす。
彼は、大好きなものには好奇心のままに突進する。
そのまま突進されては命がいくつあっても持たない。
救急車の音が聞こえたら手をつなぐ。
これが我が家の鉄則である。
欧米では赤ちゃんにハーネスをつけるのは一般的な光景であるという。
日本にもその文化が入ってこようとした数年前、「動物じゃないんだから」の一言が炎上を招いたことは記憶に新しい。
私自身はハーネスを使用したことない。
しかし、もし使用している親御さんがいたとしても、非難する気持ちはない。
どんな人になってほしいか、どんな学校にいかせるか、どんな習い事をさせるか。
母になって子供について考えることは多い。
しかし私が切に思うのは、大きな怪我をせず、生きて元気に成人してほしいということ。
2人の男の子を持つ母である私の、これは切実な願いだ。
1人で生きていけるように教育の機会を与えるのはもちろん大事だが、学習は大人になってからだってできる。しかし命にはかえられない。
まだ小学校にもあがらない我が家の男子2人は、とにかくよく動く。
好奇心のままに動く。
いったい何歳になったら落ち着いてくれるのか。
いつになったら気を休めることができるのか。
これは2人の男の子に恵まれた私が、1日に3回くらい思う疑問であった。
私は女子校出身だ。高校時代は女子に囲まれて育った。
でも、大学は理系だった。工学部の男女比は10対1。
その環境変化の狭間の受験戦争で、母に言われた言葉。
女の子なのに理系にいくなんて。
家族に反対されつつ、180°違う環境に身を置いたことのある私は、人よりジェンダーについて考える機会が多かった。
そのせいか、男だから、女だからという決めつけには少し過敏に反応してしまう。
男は青、女はピンク。
ゴレンジャーの例を出すまでもなく、これは世間の常識だ。
私は青が好きだ。
今でも服を選ぶときは、気づくと寒色を手に取ってしまう。
最近になって、私が青を手に取ってしまうのには少し複雑な理由があるかも、と思う。
私には弟がいる。
私の家では、弟の持ち物は青、私の持ち物はピンクを割り振られることが多かった。
弟のベットのシーツは青、私のベットのシーツはピンク。
弟の歯ブラシは青、私の歯ブラシはピンク。
家の中での青とピンクは、単に弟のものと私のものを区別するためのラベルとしての意味しか持っていなかった。
それでも、本当は青の方が好きだった私は、選べるときはすべて、青を選んだ。
それは、純粋に青が好きという気持ちだけが理由ではなくて、男の子に期待されているものと女の子に期待されているものはちがう、という空気に対するささやかな反発だったのかもしれない。
女子高で強い女子に揉まれ、大学で男性社会を生き抜いた私は、男女差について、実に楽観的に、理想的に考えていた。
出産だけは女性しかできない。
でも、逆にいえば、それ以外の点では、男女差というより、個人差の方が大きいと。
性差を甘く見ていた。
そう感じるようになったのは、長男を生んでからだった。
長男を産んでからよく利用するようになった施設がある。
児童館の子育て広場だ。
家から目鼻の先にあるのだが、子供ができる前はそんな施設があることすら知らなかった。
子育て広場は小さい子供を育てている人なら誰でも無料でできる公共の施設だ。
たいていはお母さんが、ときにはお父さんが、子供を連れてやってきて、そこにあるおもちゃで一緒に遊ぶ。
子育て広場にはたくさんのおもちゃがある。
家のおもちゃに飽き飽きしてしまった子どもにうってつけと言うわけだ。
私はそこで、ある大きな勘違いに気づいた。
私はそれまで、女の子だからお人形を、男の子だからプラレールを与えられるのはおかしいと思っていた。
そうではなかった。
子育てひろばには、車や電車といった、いわゆる、男の子のおもちゃもあるし、おままごとグッズやお人形といったいわゆる、女の子のおもちゃもある。
男の子のおもちゃも女の子のおもちゃも雑多に並んだその状態で、やはり男の子は車のおもちゃを選ぶことが多いのである。
確かに車を選ぶ女の子もいる。
お人形を抱く男の子もいる。
でも、全体の傾向としてみると、やはり男の子は車や電車を選ぶことが多い。
多分大きくなると、子供のおもちゃの選択には、少し社会的な要素が加わる。
例えば、女の子はおままごとセットで遊ぶように期待されていることがわかってくる。
そうすると、その期待に沿ったり、あるいはその期待に反発して、逆に車を選んだりする、ちょっと複雑な反応が見られる。
私がわざと青を選んだように。
でも、1歳の時点での好みの差は、きっと、本能的なものだ。
子育てひろばでいろんな子を見ていると本当に面白い。
男の子は1歳の時点で乱暴だ。固いおもちゃもポイポイ投げる。対する女の子は物を投げない。
男の子は走りまわるが、女の子はどっしりすわっている。
確かに、おとなしく遊ぶ男の子もいるし、走り回る女の子もいる。
でもこうして、たくさんの赤ちゃんを一度に眺め、全体の傾向として捉えれば、やはり男の子の方が走り回るし、女の子の方が落ち着いている。
そんな様子を眺めていた、保育の道30年のベテラン先生は言った。
男の子と女の子の差、本当に不思議ですよね。
そして、子育てひろばで出会った男の子のお母さん同士は、同病相憐れむ的目線を交わし、疲れた微笑みを浮かべ、走り回る子どもを見守る。
男の子の子育ては、確かに手がかる。
そう、確信した私ではあったが、内心一縷の望みを持っていた。
それは先輩ママの助言だった。
一足先に出産した友人の子どもは今、小学4年生だ。
彼女曰く、3、4年生になると、大分手もかからなくなるよ。
そうか、そうか。
小学校も後半戦になると、落ち着くのか。
そう思っていた私の望みを粉々に打ち砕いたのは、私の上司だった。
ある時、私は山本さんという背の高い男性の上司に、ある分析装置の使い方を習っていた。
山本さんはとても頭がキレる人で、私が尊敬する上司のひとりだ。
その日私が使い方を習っていた装置は、サンプルを電気で加熱して組成を分析する装置だった。
山本さんはサクサクと説明し、一点注意した。
「ここ、高電圧がかかってて、触ると感電する。火傷するから、絶対触れないよう気をつけて」
その説明を聞いた私は、違和感を覚えた。
さらさら説明していた山本さん。なんだかそこだけ、すごく真剣に注意したのだ。
私は何気なく言った。
「触っちゃったらどうなりますかね」
山本さんはいった。
「痛かったよ」
……痛かった?
「今『痛かった』っていいました?」
「うん」
「!? 触ったんですか??」
「うん」
「えー! なんで!?」
「俺にもわからないんだけど、なんか、見てたらさ、触ったらどうなるんだろうって思って、止められなかったんだよね。火傷した。いやーあの時は上司にも話せなかったねー」
……この人、アホか?
一瞬そう思った私は、アホの二文字を頭の中からゴシゴシ消した。
いやいや、山本さんはかしこい。
それは一緒に仕事をしている私が、とてもよく知っている。
知識だって豊富だし、思考力もある。現にそれが認められて、海外の大きな開発案件だって任せられているではないか。
そして、山本さんは電気系統にも結構強くて、どのくらいの電圧で、どのくらいの電流が流れていると危険なのか、よく知っていたはずだ。
なのに好奇心を止められなかったのだ。
ちなみに彼はオーバー40だ。
私は山本さんのお母さんに思いを馳せた。
山本さんのお母さんは、山本さんを育てるのにさぞハラハラしたことだろう。
そして、お母さん! 彼、まだバカなことやってますよ!
男子は好奇心を、抑えられない。一生。
諦めがついた出来事だった。
よく知られているように、ヒトの性別は、受精の瞬間に決定する。
でも、この時点では、男女の脳に差はないそうだ。
差が生じるのはその後の妊娠初期。
男の子の赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で、「アンドロゲンシャワー」を浴びる。
「アンドロゲンシャワー」は、男の子の体の中で、男性ホルモンが分泌される現象で、これにより、男の子は男の子の体になり、男の子っぽい脳になる。
脳の性差は、この胎児期に浴びるアンドロゲンによって、ほぼ決まることがわかっているそうだ。
そう、男女の脳の差は、ホルモンの差で生じる。
それは、血液型占いなんかよりもずっと確かな、性質の差だ。
男女平等にこだわっていた私は、ようやくスタート地点に立った。
違いはある。これはこれで認めなければいけないのだ。
「にゅーにゅー! にゅーにゅー!」
次男がコップを高々と天にかかげさけぶ。
我が家の朝食で毎日見られる光景である。
「ハイハイ」
私はそういいながら冷蔵庫に向かった
牛乳パックを片手に食卓に戻ると、朝食のパンが床に散らばっている。
見れば次男がポトリポトリとパンを床に落としている。
こら、ご飯を床に落とさないでっていってるでしょ、という怒声が喉元まで出かかった。
こらえて彼をみると、彼の目は、パンの落ちる様子を真剣に見つめていた。
怒るのをやめて、私は代わりにこういった。
「落とすとどうなるかなって、思ったんだね」
好奇心が満たされた次男はニッコリした。
ニュートンかよ、と心の中で突っ込みをいれながら、空になったコップに牛乳を注ぎながら私は思った。
確かに、君と私は脳が違うみたいだ。
それは認めよう。
それなら、その違いを、とことんまで楽しんでやろうではないか。
しかし、このパンはどうするのか。
いつの日か、彼らも私たち女性脳との違いを認めてくれる日がくるのだろうか。
さぁ、君たちも手伝って。
私はそういいながら、長男と次男に手伝わせ、床に散らばったパンを拾い始めた。
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