怪我の功名とはこれのこと
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:井出崎小百合(ライティング・ゼミ6月コース)
森の中に子どもたちの楽しそうな声が響き渡ります。
夢中になって遊んでいるのは、手作りの竹シーソー。
竹シーソーとは何だろう?と思われるかもしれません。
これは、子どもたちが自分たちで考え出した独自の遊具なので、
ネットで検索しても出てこないでしょう。笑。
竹シーソーの構造はいたってシンプルです。
大きな木の幹が二股に分かれた部分に、太くて長い竹を横に渡し、
その両端に子どもたちが乗ってシーソーのように遊びます。
私たちの保育園では、長期休みの際に、卒園児である小学生たちを預かっています。
夏休み中、小学生が全力で外で遊んでいる風景は、
見ているだけでこちらも幸せな気持ちになります。
そんな姿を見ながら「子どもはこうでなくっちゃ!」と思います。
こんな風に夏休みの40日間を過ごす小学生は、
日本ではもう、絶滅危惧種かもしれません。
竹シーソーは、そんな遊び上手な小学生たちが突然始めた遊びです。
去年は、たまたま落ちていた長い竹を使ってシーソーにしていましたが、
今年は、昨年のことを覚えていて、夏休み初日に程よい竹を見つけに行き、
自分たちで切り出し、枝を落とし、シーソーを作っていました。
子どもたちはとっても楽しそうなのですが、実はとてつもなく危険な遊びです。
跳ね上がると片方の竹の高さが2mくらいになります。
その上に子どもたちが乗っているのですから、
下が柔らかい土とはいえ、落ちた時のことを考えると
見ている大人たちは怖くて仕方ありません。
ただ、うちの園では、よほどのことがない限り、
大人が頭ごなしに遊びを禁止することはありません。
その上、子どもたちはとっても楽しそうです。
大人と子どもたちの知恵比べが始まりました。
危険でも、そのドキドキが楽しすぎてやめられない子どもたち。
危険すぎて、何とか子どもたちが自主的にやめる選択をしてほしい大人たち。
「木がかわいそうじゃない?」と子どもたちに優しく諭してみたり、
怪我をした子が出るたびに「怪我をしてどんな気持ちだった?」とか、
「怪我をしないようにするにはどうしたらいいと思う?」とか、
話し合いを開いて注意を促してみたりしましたが……。
子どもたちも、そういう場のいなし方をよく知っています。
その場では、「正解」のようなおりこうさんの返答をするものの、
実際のところ、遊びの楽しさが勝り、どうしてもやめてくれません。
そのうち、毎日のように
「落下した」「あごを打った」「頭を打った」「背中を打った」「指を詰めた」といった
ヒヤリハットの報告が上がってきて、
このままでは大きなけがに繋がるのではないかと
私たち大人は気が気ではありませんでした。
しかし、ひと通りみんながけがをすると、子どもたちにある変化が起こりました。
それは、子どもたち同士のコミュニケーションが格段に増えたのです。
「こっち持ってるから、降りていいよー」
「降りるから、ちょっと待ってねー」
「待って待って、ゆっくりねー」
といった具合に、声を掛け合うことで、怪我を防ぐようになったのです。
怪我をすると、コミュニケーションが増える。
これはすごい発見でした。
子どもの成長過程において、怪我は避けられないものです。
しかし、現代の子育て環境では、子どもが怪我をすると、
保護者は「ちゃんと見ていなかったのではないか」と周りから批判されることが多く、
保護者自身も「子どもに怪我をさせてしまった」と自責の念に駆られがちです。
また、保育の現場でも、子どもたちが怪我をしないようにと細心の注意を払い、
万が一怪我をさせてしまうと、上司や保護者から
その責任を問われることが少なくありません。
もちろん、命に関わるような大きな怪我は絶対に避けるべきです。
遊びで命を落とすようなことがあってはいけません。
しかし、効率が重視され、一見、無駄であったり、
意味がないと思われたりすることが世の中からどんどん排除されて行くことについて
大人はもう少し立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。
そうやって排除されていった「コト」の中に、
実は子どもたちが成長発達したり、人生を生きていくうえで習得すべき
必要な経験がたくさん詰まっているように思います。
子どもたちは、無駄の塊です。
大人から見ると「どうしてそんなことを」と思ってしまいますが、
無駄や危険の中にこそ、子どもの成長に必要なものが詰まっているのだと、
今回の竹シーソーでの子どもたちの変化を通して気づきました。
大人たちに必要なのは、子どもを信じてその無駄や危険を見守る力なのかもしれません。
そして、現在ですが……、
子どもたちのコミュニケーション能力が上がり、
怪我をしなくなって、見守りが楽になったかと言えばそうでもなく、
やはり見ている分にはドキドキは収まらず、
見ていてドキドキするなら、一緒に遊んでしまえ!と、
大人も一緒に、シーソーを楽しむようになりました。
大人が落ちると、子どもの怪我どころでは済みませんが、
子どもたちがこんなに怖いことを恐怖心を乗り越えて楽しんでいることや
ものすごい体幹やバランスが必要なこんな遊びを年中さんからやっていることを知って、
増々子どもたちと遊びのすごさに気づいた大人たちでした。
***
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