遅延したっていいじゃない。
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記事:宮沢輝(ライティング・ゼミ)
朝の通勤は一分一秒を争う。それは誰でも一緒だ。
トーストを押し込んだお腹が悲鳴をあげる。
最近めっきり走らなかったせいか、息が苦しくてしょうがない。
だが、止まるわけにはいかない。
後、四分。
四分耐え抜けば、快速通勤に乗れる。
そうすれば、汗だくのままパソコンに向かわなくてすむ。
階段を駆け上り、改札を過ぎる。
ちらっと見えた電光掲示板に、小さくガッツポーズを送る。
よかった、間に合う。
飛び降りるようにホームへ立つ。
だが、そこは違和感の宝庫だった。
いつも以上に人が多い。
そして、彼らが纏っている空気がピリピリしている。
何より来ているはずの電車がどこにもない。
ふと目に飛び込んだ電光掲示板に、私は呆然とした。
しまった、間に合わない。
電光掲示板の表記はさっき見たものと全く変わっていない。
だが、その隣にある時計は違った。予定時刻をゆうに越えている。
慌ててスマホを取り出し起動させる。
浮かび上がったのは、時計と同じ時刻だった。
荷物の巻き込み事故。
よくあるトラブルであり、今回の遅延理由だ。
何度も謝罪と一緒に放送されて、耳にタコができそうだ。
だが、知ったからといって満員電車が緩和するわけではない。
いつも以上にぎゅうぎゅう詰めの車内。
スマホを操作することすらままならない。
上司にLINEで電車の遅延を報告した後で本当によかった。
うっすらと書かれた既読の文字と、了解と書かれた紙をくわえた猫のスタンプ。
連絡がついてよかった。そう思っても、気分はどんどん滅入っていく。
遅刻は決定。脇腹に刺さる誰かの肘。
時折聞こえくるため息に釣られそうになる。
ため息をついても改善しないことくらい、分かっているはずなのに。
人の流れには逆らえない。特に鍛えることを放棄した私の体では。
ドア近くを陣取っていた私は、勢いよくホームへ放り出された。
私を横目に同じブレザーを着た人々が、我先にと階段へ駆けていく。
若いって素晴らしい。そう言いたくなりそうなダッシュ。
最後の一人が飛び出したドアへ何とか滑り込むと、すぐ電車は出発した。
若干余裕ができた車内。
寄りかかれる壁がないのは辛いが、もう放り出されることはないだろう。
まずは一安心、と思っていたら。
「すみません」
聞き違いか?
「すみませんっ!」
聞き違いではなかった。
若い女性の声。少女と言った方がしっくりくるかもしれない。
人込みの向こうから聞こえる声は、どんどん大きく鮮明になっていく。
「すみません、取ってください!」
「私のリュック、取ってください!」
リュック?
網棚にでも置いてあるのだろうか?
周りの人たちが見上げるが、リュックらしき物はない。
誰かがないぞ、と声をかけても、要望は途切れない。
もしかして。
あった! リュックがあった!
パンパンに荷物が詰まったそれは肩ひもがびろん、と床へ這っている。
「もしかして、ピカチューが付いてる青いリュックかい!?」
「そうでーす! ピカチュー、私のです!」
どうやらこれで間違いないらしい。
だが、どうやって運ぼうか?
余裕があるとはいえ人が移動する隙間はどこにもない。
私が直接届けに行くわけにはいかない。
それに、私には彼女の正確な場所がわからない。
声のする方向は何とかわかるのだが。
仕方ない。
人が動けないなら、荷物が動くしかない。
「すいません、この荷物、あっちに送ってください」
目の前にいるサラリーマンにリュックサック付きマリオピカチューを託す。
突然手渡されて目を見開いたサラリーマンはすぐに隣の男に渡す。
あとは時間と善意が、彼女へと導いてくれるだろう。
数分後、感謝の言葉が私の耳に届く。
どうやら彼女の元へたどり着いたらしい。
弾んだ声が、見えないはずの笑顔を私に教えてくれた。
今日は電車の遅延で遅刻した。
その事実は変わらない。
だけど、電車が遅延しなかったら。
彼女はリュックもピカチューも手放すことはなかっただろう。
私は床に転がったリュックを発見することもなかっただろう。
そして、小さな善意たちが手を取り合って彼女へ届けることはなかっただろう。
遅延したっていいじゃない。
善意たちが、徒党を組んで奇跡を起こしてくれるなら。
そして、それを私たちが体験でき、みんなで笑顔になれるなら。
一日中、キーボードをベタつく肌で叩き続ける。
気持ち悪いはずなのに、なぜか気分はずっと爽やかだった。
***
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