メディアグランプリ

野菜を育てて出会ったセミの恩返し


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記事:ひごえみこ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 

今年の家庭菜園は、酷暑のせいか不作で、なけなしの収穫物を虫さんや鳥さんと取り合いっこしていた。
長ナスを育てていたはずが、なぜだか、わずかに付いた実は、パクっと一口に入ってしまいそうな小ナスサイズだった。もう少し大きくなるまで育てたかったが、小ナスを狙うかのようにダンゴムシがうろちょろしていた。少し齧られたところで、君たちの分はそこまでです、と木酢液を振りかけて阻止し、残りは頂いた。トマトも、桃太郎トマトを育てていたはずが、なぜだかプチトマトサイズで成長が止まって赤みを帯びていった。明日の朝には収穫しようと思った翌朝に採りに行ったら、どこにもなかった。完熟で下に落ちたのかと思うほど見事に、茎の付け根からキレイになくなっていた。サイズから想像するに、鳥さんがビタミン補給をしたようだ。
君たちのために育てたつもりはなかったのだけれど、同じ地球に生きるもの、持ちつ持たれつ、だ。みんな必死に生きている。こちらも商売でやってるわけじゃない。食べたいのなら食べさせてあげよう。全部はあげないけれど……。
収穫を楽しむというよりも、どの野菜にどんな生き物が興味を示すのかを学ぶ場になってきたな……と思いながら軍手をしまいにいく。
すると、ジリジリと強い夏の日差しが照り付ける小型物置の上に、仰向けにひっくり返ったセミがいるのが目に入った。
 

仰向けに転がるセミは、夏の屋外でよく見る風景だ。土の上ならばいつかは土に還るかも、と思えるが、コンクリートの道路の上でひっくり返っているのを見るのは、切ない。セミの一生は7年7日という。幼虫の状態で7年。地上に出てきて7日。実際にはもっと長いこと地上で生きているらしいけれど、人間と比べたら儚い。それがセミの一生。いつもならば、そう思って通り過ぎる。うっかり起こしてあげようと触って、断末魔のセミがジージー大きな鳴き声を上げてバタバタ暴れ出すのも、怖い。
 

ひっくり返っているのが、私が日々、軍手を出し入れする物置だったのが、このセミの幸運だった。
明日の朝、焼けるように熱いスチールの上で干からびているセミを見るのは嫌だ。土の上に乗せてあげよう。そう思って近づくと、なんと微かに足を動かしていた。
まだ生きてる!
バタバタ動き出したらすぐ逃げられるように、および腰になりながら、そうっとシャベルの上に乗せた。大丈夫。セミは動かない。刺激しないようにそろりそろり歩く。
セミに触れずセミの足を下に向けるには、木の根っこにもたせ掛ければいい。そう思って、一番近くにあった梅の木の根元にそっと置いた。運ぶ間、セミは一声も上げず微動だにしなかった。さっきの、生きてますよー、の足の動きが、最後に振り絞った力だったんだなと思った。
 

死んだように動きを止めていたセミは、足が地面についた直後から、ゆっくりと、でも一度も止まることなく一定の速さで、梅の木の幹に向かって歩き出した。着実に歩み続ける姿に感動すら覚える。
これでもう夢見が悪くなることはあるまい、と安心して家に戻った。
 

体力温存していただけだったのか。それか、私を驚かして運ぶのを途中でやめられたら困るから、運び終わるまでひたすらじっと耐えていたのか……。
息も絶え絶えのおじいちゃんゼミかと思いきや、単に、うっかり近くの壁にぶつかって物置の上にひっくり返っちゃただけの中年ゼミだったのかもしれない。いやはや他人事ではない。
 

しばらくして、やはり気になって見に行った。しばらく炎天下の物置の上でひっくり返っていたのだから相当消耗しているはずだ。垂直に反り立つ木の幹に上り続けられるはずがない。途中で落ちたに違いない。また逆さになっていたら起こしてあげなくちゃ。そう思って、梅の木の周りの落ち葉の中に目を凝らしたが、どこにもセミは転がっていない。
そして、地上から1mほどの高さで梅の枝をゆっくりとよじ登り続けているセミがいる!
君なのか!? 
 

トマトを食べた鳥は、きっと、前の日から目を付けていた赤い実がちょうどいい色になったから食べただけ。恩など感じてなかろう。
でも、セミくんは、生きてますよーと、こっそり足を動かしてみせたり、運び終わるまで大人しくしてみせたり、私と確実にコミュニケーションしている。セミの寿命はとうに過ぎているだろうから、次の人生に入っていることだろう。さて、どんな生き物が恩返しをしてくれるのか、楽しみだ。

 
 
 
 
***
 
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2024-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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