メディアグランプリ

「あなたが素敵だ」という「いいね」のサインが巡って


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記事:ときね(ライティング・ゼミ)

「マジか!?」
私ひとりが待機する個室の中で、私は思わず声を出してしまった。

先日、初めて、婚活パーティーというものに行ってきた。
個室で仕切られ、机椅子と飲み物だけのシンプルな会場。
女性は各自個室に待機し、男性がひとりずつ順番に女性の待機する個室に入る。
1対1で10分ずつ、男女で会話をする。
それなりに全員と楽しく話せたのではないかと感じた。
その後。
好印象だった相手の番号を書いて、スタッフに渡すシステムになっていた。
人数は2人まで。
お友達になれそうかな、と感じた2人の男性の番号をカードに書いて渡した。

そして、自分の番号が書かれたカードを届くのを待つ。

待つ。

待つ。

スタッフのアナウンスが告げる。
「それぞれ、お相手に番号を届け終わりました」

こうして、冒頭の「マジか!?」である。

私の元には、カードは来なかった。
つまり、私は参加した男性の誰からも好印象を持たれなかったようだ。
カードを書ける人数は2人までだったので、他の女性参加者と比較された結果、誰からも選ばれなかったのだろう。もしかしたら比較もされずアウトだったのかもしれない。

特段美しくもなく、女子力が高いわけでもない自分がモテる女だなんてまったく思っていなかった。しかし、楽しく話せたかなと思っていたし、8人いればひとりくらい気に入ってくれる男性もいるんじゃないか……と思っていた部分はあった。
この日の結果として、そんなものは見事に打ち砕かれ、「自分は婚活市場において微妙な女だ」という現実をまざまざと突きつけられるのであった。

果たして私は、嫁に行けるのだろうか……。
婚活は、前途多難である……。

結婚を意識する男性たちの視界に入らない女。
「あなたが素敵だ」と送った、「いいね」のサインは、返ってこない。

ところが。
私は別の日、予想外のところから「いいね」のサインが返ってくる体験をした。

私はとあるアイドルのコンサートに来ていた。
まもなくデビュー3周年を迎える、同年代のアイドルグループだ。

テレビで観た、彼らの歌やダンスのパフォーマンスに惹かれ、昨年からコンサートに行き始めた。

キャパ15000人のコンサート会場。
最後列の座席だった昨年のコンサートは終始双眼鏡が必要で、彼らはとても遠かった。
私も肉眼で彼らを見ることができないし、彼らの視界に私が入ることもない。
「テレビの向こう側の人たちだ」という心的距離も感じた。
それでも、双眼鏡越しでも彼らはとても素敵だった。テレビで観ていたとおりの、いや、それ以上のパフォーマンスに、すっかり魅了されて帰ってきた。今年も同じ会場でコンサートの開催が決まり、申し込んだ。

今年の私の座席は、後方ステージ側の端っこ、「片隅」と呼ぶのがしっくりくる、地味な場所だった。そこにひしめく、他の観客が持つ「撃って」「○○ポーズして」などと書かれたうちわ。うちわを持たない私は、きっと、埋もれていた。
コンサートが始まる。大半の時間はやはり双眼鏡が必要だった。
昨年と違うのは、目の前にメンバーが通る道があったこと。
彼らがこの道を通る時だけは、双眼鏡なしで顔をしっかり見ることができた。
双眼鏡が要らないとなると、メンバーが通ってもなんだか手持ち無沙汰で、通るメンバーに手を振ったり、コンサートグッズのボディーシールを貼った手の甲を彼らに見せたりしていた。
彼らの素敵さや、パフォーマンスへの「いいね」を込めて。

とは言っても、片隅の通路なので多くの場合メンバーは「通るだけ」だった。
目の合わない時間が続く。

コンサートの終盤。
ひとりのメンバーが私たちの方に向かって歩いてきた。
自分の手の甲を彼に向けてみる。
彼が目の前を通った、その時。

彼が右手の拳を突き上げた。
私の視界に、彼の手の甲に貼られたボディーシールが広がる。
少しだけ、時が止まったように感じた。

……15000人の観客の中で、少しだけ、彼の視界に入ったらしい。

彼に向けた「いいね」のサインが、返ってきた。
ただのラッキーだとか、ちょっとした運の巡り合わせと言えば、そうかもしれない。
「いいね」が相手に伝わって、返ってくる巡り合わせ。

はじめての婚活は、結婚を意識する男性たちの視界に入らない女だった私。
「いいね」のサインは、返ってこない。

でも、予想外のところから「いいね」のサインが返ってくる体験をしてみて思う。

今後の婚活でも、そんな「いいね」の巡り合わせが、いつか来るのかもしれないと。
アイドルの彼が見せてくれた手の甲に、少し前向きな気持ちにさせてもらった。

ただ、嬉しくも、困ったことがひとつ。
そのアイドルの彼に、がっつり心を奪われて帰ってきてしまったことだ。
アイドルで本気で恋するなんて、そんな予定は毛頭ないのだけれど、心なしか彼のことを考えている時間が増えた気がする。とても楽しい。

結婚相手の条件に「アイドル好きを許容してくれる人」も加えなければならないかもしれない。

果たして私は、嫁に行けるのだろうか……。
行けなくても楽しく過ごすのだろうけれど。

やっぱり婚活は、前途多難である。

***

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2017-02-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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