メディアグランプリ

イビキとニンニク、夫と私


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:芽れんげ(ライティング・ゼミ)

 

 

ズゴー
ズゴー
ズゴー
ズゴッ……

 

 

 

 

……ッッッ……ゴゴゴゴゴー

 

 

通路を隔てたベッドには夫が寝ている。
幸せそうだ。
幸せそうに、爆音を轟かせている。
イビキ、時々無呼吸……という絶妙なリズム感で。

寝ることに関しては、夫は天才的だ。
「おやすみ」
とベッドに入って3秒で眠りに入る。
それに引きかえ、私の寝つきは悪い。あっち向いたりこっち向いたりして態勢を整え、まぶたが重くなってくるのを待たないと眠れない。
昨夜も、「ああ、うらやましいなあ」とか寝返りしつつ考えていると、ほら、聞こえてきた。
ズゴー
ズゴー
私は思う。「ああ、今日も負けちゃったなあ」

まあ、考えてみると寝るのに勝ち負けはないのだが、夫の寝つきは無敵だ。同じスタートで勝つことは望めない。
こうなったら、夫より早くベッドに入るしかない。そう思い、先に寝る作戦に出たことがある。
だが、結果は散々だった。
早めに寝た私は夜中に眠りの浅い時間帯をむかえ、そのとき運悪く目覚めてしまったのだ。
隣のベッドからの、「ズゴー」という音で。
こうなったらもう、眠れない。

今日も、イビキの音を聞きながら、妙にさえてしまった頭で「どうしたものか」と思いめぐらしていた。
そもそも、イビキってのは、無意識でかいてしまうもので、その人が悪いわけじゃない。
だから、私も夫に怒りをもっているわけではないし、出ちゃうのは苦しくないのだろうかとか、自分の音で起きてしまうことはないんだろうかとか、心配したりもする。
でも、ご迷惑をおかけしている、くらいの意識はあってもいいんじゃないか?
そう、ニンニク料理食べた後みたいに。

ニンニクを食べた後は、昔から牛乳飲むとか、ガムをかむとか、誰もがまわりを気にしていると思う。
最近ではブレスケアとか効果が強力なものもあったりして、私のポーチの必須アイテムでもある。
夫はニンニク大好き人間なので、
「昨日、餃子か何かニンニク入ってるの食べた?」
「あっ。ニンニクのニオイする? ブレスケア食べとく!」
って会話は結構日常的。そして、指摘されたら対策するのも日常的。
でも、イビキのときはこうだ。
「昨夜、イビキ凄かったね」
「あはは、そう?」
大抵の場合、夫のイビキの影響を受けるのは家族だけだからか、そもそも受け答えからしてニンニクの扱いとの違いを感じる。
でも夫よ。
家族だから毎日だし、笑いごとでもなかったりする訳だよ。
イビキって、かなりストレスフルなのよ……ニンニク臭と同じように。

これまでも、イビキについても、ニンニクとブレスケアのように、他人へのご迷惑を軽減させるような方策を打ってくれないだろうかと色々考えてきた。
たとえば、鼻に貼るイビキ用テープのようなものを渡してみたこともある。
確かにアレを貼ると音は軽減したのだが、所詮テープだし一回限りの消耗品。しかも継続するにはちょっとお高め。
「ちょっとまてよ、なぜ私が買って渡さんとあかんの? ブレスケアは自分で買ってくるのに」
「イビキ害を受けてるの、私やん。なんでテープつけて寝て欲しいってお願いせんとあかんの?」
私のイライラは増すばかりだった。

ある日、イビキで夜よく眠れなかったと、つい友達に愚痴ってしまった。
「え? 誰のイビキ?」
「夫の」
「え? 同じ部屋で寝てるん?」
よくよく聞いてみると、彼女はずいぶん前から別の部屋で寝ているらしい。しかも、私の周りでは、どうやら同じ部屋で寝ているというほうが少数派のようだ。
私の両親は同じ部屋で寝ていたからそうするものだと思い込んでいたが、そういえば、夫の両親は私の記憶する限りでは別の部屋で寝ていた。
「お互いゆっくり寝るためには、別々の部屋のほうがいいこともあるよ。生活音って人それぞれだし」
なるほど。
これは私が眠れないということだけではなくて、もしかしたら夫も私の生活音の何かが気になっているかもしれない。そして、それを強く言えずにいる可能性だってある。

すまない、夫よ。
私は心の狭い人間だった。
私がたてる何らかの音が、夫にストレスを発生させている可能性を無視していた。
いつもそんなに声が大きくはない夫が、イビキだけは爆音なこと。それはもしかしたら、日頃たまったストレスを爆音の形で発散しているのかもしれないとは、思ってもいなかった。
私が眠れないからといって、夫の爆音を食い止める方向にしか考えが及んでいなかった。
イビキ音に注目しすぎ、寝れなくて、その結果イライラするのは夫のせいだと思っていた。
「別の部屋で寝ることにしない?」
という提案も、結婚30年近くになって別の部屋にしたら、それでなくても会話が少ないのにさらに会話が無くなるのではないかとか、いらぬ心配のせいで出来ずにいた。
でもよく考えてみると、寝てる最中に会話なんてするはずがないし、寝ることに集中できる環境を作るほうが、心の余裕ができて、日頃の会話も弾むようになるかもしれない。

そうだ、お引越ししよう。
春になったら就職で家を出ていく娘の部屋に、ベッドのお引越しをすることにしよう。
ベッド2台が余裕で入る今の部屋から、四畳半へ。
私がお引越ししたら、夫は寝室という一国一城の主となれる。マラソンで貰った沢山のメダルたちもそこに飾ることができるだろう。イビキもかき放題。イビキ用テープを買う必要もない。
これこそWin-Winの関係に違いない。
私は安眠、夫は城主。
ああ、何かウキウキしてきた。

今日帰ったら、さっそく提案してみよう。
「私たちの円満のために、寝室を分けてみませんか?」

***

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2017-03-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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