葬儀の逆転現象:人間より丁重に送られるペットたちが映す現代の価値感
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記事:琴森美香子(ライティング・ゼミ11月コース)
近年、日本では「直葬」という葬儀形式が急増しています。
直葬とは、通夜や告別式を省略し、遺族や親しい人々が直接火葬場で故人を見送るという簡略化された葬儀の形態です。
一方で、ペットの葬儀は質・量ともに拡大し、高級化しているという興味深い現象が見られます。
この二つのトレンドは、一見すると、相反するように思えます。
果たしてそれぞれの背景には、どのような価値観が影響しているのでしょうか?
1. 直葬が増加する背景
直葬を選ぶ家庭は年々増加しています。
日本経済新聞(2024年)の報道によると、首都圏では直葬を選択する家庭が、全体の25%を占めるまでになっています。特に高齢者世帯や独居世帯が多い地域でその割合が高く、少子高齢化や核家族化の影響が顕著です。
直葬が増えている理由として、まず挙げられるのは「経済的な負担の軽減」です。従来の一般葬儀の平均費用は約200万円に達するとされていますが、直葬の費用は平均20万円程度と、約10分の1に抑えられる場合が多いようです。(一般社団法人日本消費者協会、2022年)
さらに、宗教観の変化も直葬増加の一因です。
内閣府の「宗教に関する世論調査」(2021年)では、「宗教を信仰していない」と答えた人の割合は全体の約70%を占め、仏教や宗教的儀式への関心が低下していることがうかがえます。
2. 増加するペット葬儀
一方、ペット葬儀は質・量ともに拡大し、重厚化しています。
ペット葬儀市場は2018年から2022年の4年間に約1.4倍に拡大し、2022年の市場規模は約650億円に達しました。また、ペットの火葬件数は年間約50万件に上るとされており、その需要は年々高まっています。※(矢野経済研究所調査、2023年)
この背景には、ペットの位置付けの変化があります。
ペットフード協会の調査(2023年)では、「ペットを家族の一員と考える」と回答した人が全体の87%に達しており、このような意識の変化が、ペット葬儀市場をけん引していると考えられます。
これらは、昔のペットの死後の扱いと比較し、まさに隔世の感がありますね?!
かつては、ペットが亡くなると、自宅の庭や近所の野山に埋めたり、ごみ処理場に引き取ってもらったりするケースが少なくありませんでした。
しかし、都市化や住宅事情の変化により、庭を持たない家庭が増えたこと、さらに、ペットを家族の一員として丁重に弔いたいという意識が高まったことが、ペット葬儀市場の成長を後押ししています。
3. なぜ人間の葬儀は簡略化し、ペット葬儀は重厚化するのか?
この二つのトレンドは、逆行しているように見えますが、その背景には、いずれも「つながりの変化」があると考えられます。
かつて葬儀は「共同体の儀式」として行われ、故人を弔うだけでなく、家族や地域の絆を再確認する場でもありました。
しかし、現代では家族単位の小規模な弔いが主流となり、共同体の役割が希薄化しています。
また、家族や親族間のつながりも薄れ、疎遠になる一方で、個人の価値観やライフスタイルが尊重されるようになりました。
そのため、「葬儀の負担を減らしたい」と考える人が全体の67%を占めるようになり、時間・費用・精神的な負担を減らすニーズの高まりが浮き彫りになっています。(日本消費者協会、2022年)
その一方で、ペット葬儀が重厚化する理由には、「現代の孤独感」が影響していると思われます。
少子高齢化や核家族化が進む中で、ペットは多くの人々にとって家族同然の存在となり、時には人間以上に深い絆を感じることもあります。ペットを失った際、その喪失感を癒すために、ペット葬儀は重要な役割を果たしているのです。
人とのつながりが薄れた分、ペットとのつながりが強くなっているとも言えるでしょう。
4. 社会が映し出す葬儀の姿
このように、人の葬儀の簡略化とペット葬儀の重厚化は、どちらも現代社会が抱える価値観の変化を反映しています。
人間の葬儀における簡略化には、コストや形式的な儀式の見直しを通じて経済合理性を追求しようとする価値感、他方、ペット葬儀の重厚化には、感情やつながりを重要視する価値観が、色濃く反映されています。
これらの傾向は、一見、対照的に見えるかもしれませんが、どちらも【自分にとって本当に大切なものを選び取る】という、現代の個人主義的な考え方に根ざしています。
そして、これからの葬儀文化は、さらに多様化し、それぞれのライフスタイルに合った形で進化していくことでしょう。
直葬とペット葬儀が示す日本社会の変化は、単なる葬儀の形式や儀式の違いにとどまらず、私たちが「大切なものをどう送るのか」という根本的な問いを投げかけています。
その問いに対する答えは人それぞれですが、自分や家族、そしてペットのために「最適な送り方」を見つけることが、これからの時代に求められているのではないでしょうか。
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