もしも、あなたと話せたら、私は……。
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記事:猫町ふゆ(ライティング・ゼミ)
「ちゃんと根っこから抜くんだよ」
「わかった」
自宅にある小さな庭で、小学生の私は父と草取りをしていた。
父に言われて、根っこから草を抜く。これが意外に大変だ。
- 二センチ掘ったくらいでは、根が完全に出ない草が多くある。
それでもコツを掴めば、抜けないことはない。しかし、単調な作業ゆえか、幼いゆえか、作業が退屈になってくる。
「お父さん、つかれるよー」
「でも、こうしないとダメだから」
「そうなの?」
「根っこが無事なら、また生えるんだよ」
「ふーん」
ぶちぶち。
「お父さん、つかれるよー」
「もう少し。あとここだけでいいから」
そんな会話をしながら抜いている雑草は、私の想像以上に多かった。
今、自分の足元にある草を抜き終わっただけで、こんなに溜まった雑草。
せいぜい二、三メートルしかない狭い庭とはいえ、この庭の端はまだまだ遠い。
……あそこまで取ったら、どれだけ大きな雑草の山になるのかな?
ちょっと興味がわいて、はりきって雑草を抜く私。
「お、上手、上手」
褒められて、さらにやる気に火がついた私。
お昼休憩と、その後のおやつ休憩で元気を補充して、私はまた庭で抜き続け、夕方には庭いっぱいの草を抜き終わった。
そして、達成感を味わいながら、その日は満足しながら布団に入った。
その次の週。
「なんで?」
ひょこり、と小さな緑色の葉っぱが庭に出現していた。
根こそぎとったはずなのに、そこにいる雑草は何食わぬ顔で太陽の光を浴びている。
あんなに頑張って抜いたのに。
ちゃんと根っこから抜いていたのに。
なんで?
その疑問を、周りの大人たちにぶつけてみた。すると、こういう答えが返ってきた。
「雑草って、そういうものだから」
ちっともわからない。
だから、私はこう考えた。
「きっと、トトロが植えてるんだ!」
皆さんがご存知の某アニメーションに登場する、あの不思議な生き物が、この不思議な現象の犯人であると思ったのである。
……今思い出すと、呆れるやら、情けないやらで、赤面するしかない。
けれど、どう見ても土ではないコンクリートの道路の隅っこにいたり、
突然、学校の花壇や自宅の庭に顔を出したりする、
不思議な植物である雑草は、
きっとあの不思議な生き物が植えてまわっているものなのだと、私は思った。
そして、現在。
雑草の不思議さと出会った年の倍近い年になった。
ほんの少しだけ、雑草のことがわかってきたような気がする。
その一、雑草はどこにでもいる。
コンクリートの隅っこに、ひっそり。畑の隅っこで、こっそり。
かと思えば、公園の道沿いなどでは集団でいたりする。
庭や植木鉢にしれっと顔を出していることもあれば、
河川敷などでは、「我こそは乱世の覇者だ!」とばかりに、形の違う雑草たちが自身の勢力圏を伸ばしたり奪われたりと、戦国時代顔負けの死闘が繰り広げられていることもある。
その二、雑草は大抵まっすぐには伸びていない。
地面すれすれに這うように伸びていることもあれば、
近くにいる大きな植物をかいくぐるように、くねくね曲がって伸びているものもある。
明らかに、人間が育てる園芸用の植物や、農家の方が植える植物とは違う。
全く予想のつかない成長をしている。
まっすぐ伸びていない姿を見ると、ついこう思ってしまう。
「水や太陽を求めて、熾烈な駆け引きが繰り広げられたのか!!」
「こ、こんなに複雑怪奇な成長をするエネルギーはどこから!?」
熱いドラマが日常的に、かつ静かに行われていたことに驚かずにはいられない。
そんな雑草の姿を見ていると、雑草とはクールなソルジャーだと思う。
雑草に限ったことではないが、生きていくことは命を繋いでいくことでもある。
種を残して次世代に命とつないでいくことこそが、唯一にして究極の目的。
その目的に向かって一心不乱に運命に立ち向かう雑草の姿は、厳しい戦場で命がけの戦いを行うソルジャーそのものである。
いつ抜かれるか分からない。もしかしたら、次の瞬間、押しつぶされてしまうかもしれない。
水分や日光がなくては生きていけないのに、それが他の大きな植物や天災で奪われてしまって、枯れてあっけなく死んでしまうかもしれない。
それでも、雑草は、逃げるという選択はしない。
前進あるのみ。
踏まれたり、邪魔されたりしても、自分なりに生きていく方法を柔軟に考えて成長する。そして、目的を果たすためにしなやかに黙々と、今日も過酷な環境を自ら選んで生きている。
何てクールな生き様!
涼しい顔でスマートに戦って、あっさりと目的を達する。最後には、鮮やかに勝利を手に入れるその姿に、憧れてしまうのは私だけではないはずだ。
もしも、雑草と話せたら、私はいろんなことを聞いてみたい。話をしてみたい。
「人間って、そんなことで落ち込むの?」
「っていうかさ、こうすればいいじゃん」
と、私の悩みをバッサリ、スッパリ、容赦なく一刀両断してくれるだろうか。
それとも、「そんな甘い考えじゃダメ!」と叱咤激励してくれるだろうか。
クールなソルジャーを見かけては、彼らと話してみたいと思わずにはいれない。
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