モテたい男の「紅ショウガ」は「みんなを幸せにする」のか?
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記事:犬井ジロ(ライティング・ゼミ)
モテたくてモテたくて仕方のない男がいた。
彼女がほしい、とか、結婚したい、とかではない。
とにかく、モテたい。かわいい女の子に、モテたい。
人生の全ては「モテ」から始まる。
いったいどうすれば、モテるのか。
どこに行けば、かわいい女の子と知り合って、モテることができるのだろう?
彼の人生は、まだ、始まっていなかった。
***
「牛丼屋でさ、紅ショウガ無いと、イラっとすんだよね」
焼酎をグッと飲み干して、シンヤさんが話し始めた。いつもながら、唐突だ。
「あ、マスターお代わり。同じの。うん。で、この前さ、久しぶりに牛丼食おうか、って思って入ったのよ牛丼屋。駅前の。そしたらさ、ないわけよ。紅ショウガが」
「へえ。そんなに紅ショウガが好きなの?」
ちょっと離れたところから、ちえちゃんが口をはさむ。再婚したてのかわいい奥さんだ。旦那さんと一緒に、不思議そうにシンヤさんを見ている。
「いやいや、別にすごい好きってわけじゃないんだけどさ。牛丼ってアブラすごいじゃん? で、紅ショウガがそのアブラをすっきり流してくれるから、いいんだよね。さっぱりすんの」
「ああ~まあ、そうかもねえ」
「ま、気分、ってのもあるんだけどな。でも、ショウガがアブラ流すってのはホントなんだってば。オレさ、博多に2年くらい住んでたのよ。そん時、博多ラーメンばっか食っててよ。そこの常連のおっちゃんと仲良くなったんだけど、その人、ラーメン食べた後のスープに紅ショウガたっぷり入れて飲んでるからビックリしてさあ」
「えー。紅ショウガを?」
「そうそう。だからオレ、なんでそんなに入れて飲むんですかー? って聞いたのね。そしたらさ」
「ふんふん」
「これ飲むとアブラ流すから胃もたれしないんだよ、って教えてくれたんだよね」
「へえ。そうなん? そういえば、とんこつラーメンって紅ショウガ必ずついてるなあ」
ちえちゃんの旦那さん。うまいこと相づちをうってくれる。やさしい旦那さんだ。
「だろ? そういうワケなのよ」
「そういうワケ」とは「どういうワケ」なのかさっぱりわからないよ。と、思ったけれど、何も言わないでおいた。
「いや、とんこつラーメンに紅ショウガっていったら、俺なんかもう、女の子にモテちゃいますよね」
「はあ!?」
突然、全員の注目を浴びたのは、ぐっさんだ。さっきまでカウンターに突っ伏して寝ていたと思ったら。いつから話を聞いていたのやら。
「ほら、女の子ってキティちゃんとか好きじゃないですか?」
「え!?」
「だから、とんこつラーメンに紅ショウガ入れるとピンク色になるじゃないですか?」
「ああ……で?」
「だからー! 女の子ってキティちゃんとかピンクとか好きだから! とんこつラーメン一緒に食べに行って、紅ショウガたっぷり入れて、ほらピンクだよ~かわいいね~とかって。で、なんかウマいこといかないかな~って話なんですけどね」
……ウマいことって……いや、とんこつラーメンに紅ショウガ入れてピンクになる、まではわかるけれど、なんでそこでキティちゃん? しかもモテるって? その発想、すごすぎだわ。私には一生かかってもその発想、出て来ないわ。いや、ぐっさん、すごいよ……ていうか、どーでもいーけどキティちゃんは……
「……キティちゃんて……ピンクっていうより、赤よねえ?」
ちえちゃんが素朴に口をはさんだ。旦那さんと二人して、今にも笑い出しそうだ。
「え? そうでしたっけ? いや、でもほら、女の子、ピンク好きじゃないですか。つまり、そういうことなんですけどね」
・・・・・・女の子はピンクが好き、って断言してしまう時点で「モテ」から遠ざかっているよ、ぐっさんよ・・・・・・と、思ったけれど、何も言わないでおいた。
その後ぐっさんは、ひとしきりモテについてまくしたてた挙句、突然寝はじめ、みんなに笑われ、心配され、追い出されるように帰っていった。
それにしても。
なんでも「モテ」に結び付けてしまうんだな。ぐっさんは。いつもいつも常に「モテる」ことについて考えているから、なんてことない「紅ショウガ」の話が「モテ」話につながるんだ。その思いを、その「モテ」にかける情熱を、他の事に向けたら、すごいことになりそうなのになあ。
人間は、たぶん、わりと単純な生き物で、いつも常に「何か」について考えていると、なんでもかんでも、その「何か」に結び付けて考えてしまう。
例えば、免許を取り立ての頃の私。歩いていても、自転車に乗っていても、道行く人も何もかもすべてが対向車に見えて、ぼんやり歩くことがなくなった。ぶつかると事故になる。そういう思いが強くなっていたのだ。(今はもう、そんな初心は忘れてしまって、またボヤボヤ歩いているのだけれども)
そう、例えば。
私は以前、本で読んだある農村の話を思い出していた。
それは徳島県の、ある過疎の村の話だった。
とりたてて特産物と言えるようなものもない、高齢者、特におばあちゃんばかりの村に赴任してきた農協職員がいた。彼はいつしか考えるようになった。「なんとかこの村を再生させたい・・・・・・」と。
常にそのことを考えていた彼は、出張先の料理屋で、女性客が料理の飾りの葉っぱを「素敵だから」と、喜んで持って帰るのを見て閃いた。
「そうだ! 葉っぱを売ればいいのだ!」
葉っぱならば、軽いから老人にも簡単に集められる。顧客が料亭ならば、高い値段で売れるであろうから、利益率も良い。おばあちゃんの労働力でも十分に利益を上げることができる。
その後、様々な反対や困難を乗り越えて、「葉っぱ」をビジネスとして成功させ、今では年商ン億円の株式会社。おばあちゃん達もやりがいのある仕事で元気になり、裕福になり、地域も活性化し・・・・・・
と、まさに「ウィンウィン」を絵にかいたようなイイ話、だった。
いつもいつも、地域の事を考えていたから、女性客の一言が「葉っぱビジネス」につながった。
いつもいつも、「モテる事」について考えているから、紅ショウガが「モテのツール」につながった。(多分、それ、モテるツールじゃないとは思うけどね)
この二つの間には、きっと、それほど大きな違いがあるわけでは無い。
ただ、結果として、大きな違いが出た、というだけのことだ。
違いがあるとすればそれは、「人の為」について考えているか、「自分の欲望」について考えているかの違いだ。
だからといって、どちらが良いこと、というわけでは、おそらく、ない。
「人の為について考えている」ことだって、掘り下げていけばそれは、「自分が考えたいから考えている」のだ。
「自分の欲望について考えている」ことだって「他人の欲望を満たす」事かもしれない。ひいては「世のため人の為」に繋がることもあり得る。
ぐっさんの「モテたい」というささやかな、でもきっと、誰もが心のどこかで抱いているであろう「欲望」が満たされるとき、なにかしら「みんなが幸せになれるツール」が生まれる、ってこともあるかもしれない。
・・・・・・うーん。あるかな? あるといいなあ・・・・・・
なんて書いてる私だって、ライティングゼミを受講しはじめた昨年12月からこっち、なんでもかんでも、文章になるかも? と、考えてしまう毎日だった。なにか感じることがあれば、ABCユニットに結び付ける努力をし、言語化し、文章にする努力をした4ヶ月だった。それは確実に「自分の欲望を満たすため」だった。この情熱が、人の為になったかどうかはわからないけれど。
けれども、この「ABCユニット」そのものは、天狼院三浦氏が「自分の欲望を満たす」努力を続けた結果生まれた「みんなが幸せになれるツール」だったのかもなあ、と思う。
事実、わたしは4ヶ月、文章を書くことで、以前よりちょっぴり幸せになったから。
***
「俺には女子力が必要なんですよ!」
まーた、ぐっさんが、べろんべろんで叫んでいた。
「女子の力、ってすごいんですよ! 女子がいるといないとでは、大違いなんですよ!」
うん。ぐっさんに必要なのは、ぐっさんの良いところをわかってくれて、大事に思ってくれる彼女だと思うんだよなあ。その情熱とベクトルを、「かわいい女の子にモテたい」じゃなくて「かわいいあの子にモテたい」に振り切れば、ぐっさんの毎日は「女子力」で満たされると思うよ・・・・・・そう、思ったけれど、言わないでおいた。
さて、ぐっさんに、どう伝えればいいか。
ABCユニットの出番なのだろうか。
いやいや、そんなこと、言わないままでいたほうが良いのかもな。
「かわいいあの子」との出会いなんて、神のみぞ知るって話だ。
ぐっさん。飲みすぎ注意でがんばれ。「かわいいあの子」と出会うその日まで。
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