私の恋人
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記事:ちくわ(ライティングゼミ 日曜コース)
高校時代、3年付き合った恋人がいる。色はあまり白く無かったけれど、同じ学校の友人たちから「白い恋人」と呼ばれていた。私もそう呼んでいた。学校にいるとき、特に勉強するときは、大体いつも近くにいた。通学もよく一緒だったし、私の家まで一緒に来たりもした。母は、私と恋人をみてニコニコしていたし、父も特に何もいわなかった。妹もよく使っていた。そう。よく「使っていた」のだった。
なぜ「白い恋人」というネーミングかということ、「何もかかれていない真っ白さ」と、「いつも側において勉強しなさい」と「大切に接しなさいね」という意味があわさっている。名付け親の国語教師の鶴田先生に聞いたのだから間違いない。さらに「白い恋人」は、職員室前にいつも、うずたかく積まれ、壁には「白い恋人は、大切に使ってください」と張り紙がされていた。色は白でなくベージュだったが、「白い恋人」がリズムよく、覚えやすかったこともあり、皆、その名前を受けいれてしまっていた。生徒はいつでも自由に、無料で持ち帰ることができる。
ここでもうお気づきだろうが、「白い恋人」とは、とある男性のことでも、もちろん、あの有名なド定番お土産お菓子を指しているわけでもない。束になった裏紙のことだ。A4サイズの、わら半紙(ざら紙)が、約500枚で1セット。紙束は、全て左上に穴があいており、バラバラにならないよう、茶色い耐久性のある堅い紐で綴じている。私が入学する、ずっと前から高校に存在している伝統的な裏紙の束こそが「白い恋人」の正体だ。
実は、先ほども出てきた名づけ親の鶴田先生が高校生の頃、「暗記科目で言葉を覚える際、ノートを使うのがもったいない。気兼ねなく書ける紙の束があったらいいのになぁ」という思いがあったという。実際に自分が教師になったとき、生徒のためになるのではと思い、具体的に形にしようと考えた。印刷機にかけて出てしまった裏紙は、どうせ捨ててしまうものだから再利用できる。紐もすぐ切れないような、かたくて丈夫なものを・・・・・・などと試行錯誤して、この形に至った。生徒は一人1つ以上必ず、常備し、机の側面にあるフックに、引っ掛けたり、いつでも使えるように家にも置いていたりする生徒も多かった。それくらい当たり前に利用していた。
何より、「白い恋人」は、非常に使い勝手がよかった。
計算用紙・数学の証明などから、漢字・英単語をひたすら基本の反復演習ができ、公式を覚える、英作文作成まで、紙が真っ黒くなるまで使える。また、鶴田先生の本来の狙いとは違うが、友人との手紙やりとり、たとえば図書館にいるときなど、静かに周りが勉強していたときの友人との筆談用など、コミュニケーションツールにもなっていた。
このように「白い恋人」は、私たちの高校生活の基礎の基礎を支える存在として大活躍した。書き殴って爽快さも味わえたし、ノートなら臆してしまいそうな、答えを隠すために気にせず折る、破るなどといった行為が気兼ねなくできるなど、アレンジも無限大だった。
勉強は、あまり好きではなかった私も、「白い恋人」を使うことは好きだった。1枚使い終わると、綴じ紐から対角線上に引っ張って力を入れ、簡単にビリリと破って捨てられる。わら半紙独特の破れるときの太い音が好きだった。また、どんどん薄くなって減っていくことで、「これだけ勉強した」という(自己満足ではあるが)自信もついた。全てなくなったときは、達成感でスッキリとした気持ちになった。
言うなれば、「白い恋人」を使って勉強することは、体幹トレーニングにも近い。
体幹トレーニングとは、脊椎や腰骨と連結している筋肉を鍛えること。インナーマッスルが鍛えられると、ぽっこりお腹を内側から引き締められ、姿勢も良くなる。さらに、基礎代謝が上がって太りづらくなる体質になる。疲れにくく、本来の運動能力を引き出しやすくなり、肩こり・腰痛・便秘にも予防、効果があるといいことだらけだ。メンタル的にも、フィジカル的にも軸が定まるので、ケガもしにくくなる。
体幹トレーニングも、「白い恋人」を利用した勉強法も、どちらも地味で、コツコツ積み重ねていくものだ。実際に自分から能動的に動くことでしか、結果は得られない。しかし、その結果は、自分の軸となって私を支えてくれる。
定期テスト時や、大学受験シーズンは特に追い込みもあって、こぞって生徒たちは「白い恋人」を使った。きっと尋常ではない量だったはずだ。実際に作っていた鶴田先生や、有志の先生たちも、常備が切れないよう、相当大変な思いをしていたに違いない。
どんなノートよりも高校に馴染んでいた「白い恋人」は、使えば使うほど、私たちの体幹を鍛えるための環境を作ってくれた。そして、生徒たちの学校生活を支えようとする先生たちの愛情の塊でもあった。たかが裏紙。されど裏紙。もう使えない「白い恋人」が、今、懐かしくて仕方がない。
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