メディアグランプリ

ノックアウト in コンビニエンスストア


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記事:遠山 涼(ライティングゼミ・日曜コース)

 
 
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すべての挑戦者に告ぐ。コンビニには不用意に近づくな!
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自宅から1分未満のところにコンビニがある。
夜遅くに仕事から帰ってきたり、休日にわざわざ遠出するのが面倒なときなど、そのコンビニにいくことは多い。完全に日常生活の一部になっている。
いつでも必要なものはたいてい置いてある、まさにコンビニエス(便利な)なストアだ。
だから仕方ないのだけれど、スーパーなどよりも金額設定はやや高めだ。
同じペットボトルのお茶を買うならスーパーやドラッグストアの方が安く済む。
だからコンビニで買いものをするとき、ほぼ毎回考えてしまう。
ほかの店で買った方がぜったい安いよなぁ……。
 
それでもやはり「便利さ」は強い。ちょっとやそっとの節約意識、貧乏グセでは太刀打ちできない。あらゆるものが手に入ってしまうその品揃え。そんな「便利さ」には圧倒的な攻撃力が備わっている。そして、コンビニのご飯やドリンクはなぜあんなに美味しそうに見えるのだろうか?  パッケージの見せ方だろうか? 巧妙な陳列の仕方のせいか? コンビニは便利なだけでなく、そこに並ぶ商品を買わせようとする、ある種の強烈な魔力を持っている。
 
ある土曜日の夕方。焼肉弁当と伊右衛門を買ったあとに、ふと声が聞こえた。
「このままでいいのか?」
後ろを振り返る。もちろん誰もいない。まだ声は聞こえていた。
「本当にこのまま、負けっぱなしでいいのか?」
誰に負けてるって? 反射的に問い返していた。
「お前はコンビニに負けっぱなしだ。ジャブにストレート、ワンツーパンチを次々に浴びせられて、お前はいつもダウンさせられている」
その言葉は頭の中から聞こえてきた。俺は胸の中で叫び、答えた。
「ふざけんな! 勝つのは俺だ!」
……というシーンは実際には無かったかもしれないが、そのとき俺はコンビニを倒すことに決めた。
 
コンビニに負けない! と宣言したからといって、コンビニに行かなくなるわけでは決してない。
チャンピオンに勝とうとしているのに、リングに上がらないチャレンジャーはいない。
「便利さ」という名のパンチはあえて受けよう。その後に飛んでくる「商品を魅力的に見せて買わせる魔力」という名の必殺パンチをかわせれば、そこに勝機が見える。
必要なものだけを買う。それができれば俺の勝ちだ。
 
家に近くにあるコンビニは業界再大手。
No.1の店舗数と圧倒的なマーケティング力を誇る、まさにコンビニ界のチャンピオンだ。
 
俺は足を一歩踏み入れた。同時にゴングが鳴った。
「ピロリロリロー♪ ピロリロリロー♪」
馴染みのあるその音は、いつの間にか耳に刷り込まれている。
同時に掻き立てられる購買意欲に気付き、俺は早速飛んできたチャンピオンのジャブに注意した。
 
必要なものだけを買う。それ以外のものは買わない。それができれば俺の勝ち。
ついつい不要なものを買ってしまう。想定以上に金を使ってしまう。そうなればチャンピオンの勝ち。
 
いつもの調子でチャンピオンは、次から次へとあらゆるパンチを打ってくる。
菓子パン、スイーツ、フランクフルト。隙を見つけると日用品まで飛んでくる。
そういえば洗剤切れてたかも……とガードが下がった俺はつい手を伸ばすが、ギリギリのところで上体をそらす。飛んできた鋭いフックをギリギリよける。気をしっかり持て! セコンドが喝を入れる。俺は頭を振って、しっかりと態勢を立て直す。
 
少しずつペースを掴めてきた。軽いフットワークで立ち回り、飛んできたストレートをかわしつつ、狙いを定めてカウンターを打ち返す。俺はもともと買う予定だった飲むヨーグルトを手に取った。
しっかりとした手応えが俺の拳に伝わる。これで一発入った。
 
当初の目的。飲むヨーグルト。パン。それに加えてアイス。予算は600円以内。オーバーしても700円までは判定勝ちとする。
 
チャンピオンが常に王者たる理由。チャンピオンは、試合前から相手を徹底的に調査している。確実に勝利をつかむために、過去の試合データを集めている。それも膨大な、人間の頭脳では扱いきれないほど大量のデータを分析して、最適な戦い方を計算し、弾き出している。どんな相手が、いつ、どんなコンディションでやってくるか。そのすべてをチャンピオンは把握している。だから多くの挑戦者たちは、たいていチャンピオンの手のひらの上で踊らされる。
 
その警戒は怠らないつもりだったが、いつのまにか俺も術中にはまっていたらしい。
弁当コーナーの前で、チャンピオンは激しいラッシュを浴びせてくる。
時計を見ると午前11時30分。俺は空腹のままリングに上がったことを激しく後悔したが、もう遅い。
旨そうなタレのかかった牛肉カルビ弁当が俺の顔面をついに捉えた。俺はマットに膝をつき、崩れ落ちる。
 
牛肉カルビ弁当とのむヨーグルトを入れたカゴを持って、俺はレジに向かう。
一度はダウンしたものの、10カウントを取られる前に立ち上がった。
弁当と一緒に隣のカップ麺を買っていたら、おそらくダメだっただろう。
もうろうとする頭で、必死にそろばんを弾く。たぶん650円くらい。まだ700円のラインは越えてないはずだ。
パンとアイスは買えなかったが、牛肉カルビ弁当があれば大丈夫。
このままレジでの会計まで耐えれば、なんとか判定勝ちに持ち込めるはず。
 
レジまでの道のりを俺は突き進む。その短い間にもチャンピオンは攻撃の手を緩めない。
誘うようにずらっと並んだおにぎり、サンドウィッチ、そばにパスタ。
すべての雑誌たちが、俺を挑発するような見出しを俺に向けてくる。
レジ付近では100円ちょっとのガムが、最後まで俺に細かいパンチを当ててくる。
 
最後の力を振り絞り、俺はレジの前にたどり着く。
正面に立つレフェリーがチャンピオン側の制服を着ていることに気付き、不公平なジャッジを下さないか不安になる。
俺は、緊張の眼差しで、示された金額を見た。
税込み694円。
 
勝利の女神は、俺に微笑んだ。
 
大波のように、押し寄せる高揚感が迫ってくる。
祝福に満ちた歓声が聞こえる。リングを照らすまぶしい光を浴びるように、俺は天を仰いだ。
見上げた先にあったのは、天井からぶら下がったパネルの文字。
「700円くじキャンペーン」
700円以上の対象商品を購入すると、くじが引けるらしい。
当たりが出れば、お茶や日用品などがタダでもらえるらしい。
最後に飛んできたアッパーカットが俺の顎を真下からとらえて、俺はすぐそばにあったチロルチョコを買い足した。
くじはハズれ、700円以上を支払い、俺は店をあとにする。
 
それでも、不思議と悔いは残らなかった。
完膚なきまでの打ちのめされた、むしろ気持ちがいいほどの敗北。
 
 
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2017-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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