神輿は担がせるものじゃない
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記事:サンディ(ライティング・ゼミ日曜日コース)
「あれ、おかしいぞ?」
自分で自分の感情に違和感を覚えたのは日曜日の朝だった。
先日の金曜日、僕は東京の本社で、ここ数年間のうち一番大きな仕事を終えた。
うちの地区の事業所長が社長を始めとする全事業所長を対象に行うプレゼンテーションの資料作成と原稿作りに追われた5月はまさに地獄だった。
特に最後の2週間はほとんど眠らずに、いや眠れずに仕事に没頭していた。
その甲斐もあってプレゼンは大成功。事業所長もご機嫌で打ち上げ代も出してくれた。
入社してから3年ほど迷惑をかけ続けた東京勤務の先輩達も口々に
「よくやった」
「お前は成長した」
と褒めてくれた。
当然僕は鼻高々だった。
久々に実家によって、開放感に浸りながら、楽しい休日を過ごした。
違和感を覚えたのは意気揚々と赴任先の山口県に帰る朝だった。
何か忘れている気がする。
何か悪いことをしただろうか?
仕事は厳しいながら上手くいっている。
今まで何をやってもうまく行かなかった日々を考えれば上出来だ。
人間関係だって悪くない。
自分で言うのも変だが今は過去数年間で最高に調子がいい時期だ。
それなのに何故、胸騒ぎがするのか?
その答えは偶然、町内会の夏祭りの準備について話している母親の会話から思い出した。
「そうか、神輿だ!」
どうやらまたやってしまったようだ。
僕のよくやる、そして絶対にやってはいけない「神輿の勘違い」問題だ。
きっかけは、昨年うちの事業所にやってきた部長の講話だった。
部長は仕事に厳しく、口も悪いが、誰よりも温かく、そしてカリスマ性のある人であり、僕の事も良く気にかけてくれた。
僕自身も部長の事を尊敬しており、ここ数年、仕事にやりがいを感じるのも部長に褒めてほしい、認めてほしいという思いが強く影響している。
その部長が、管理監督者に初めてなった現場の作業長達を相手に講話をするというので、無理を言ってスタッフである僕も一番後ろの席で聞かせてもらったことがある。
その時の部長の講話で出てきたのが「神輿」の話だ。
「まずは、昇進おめでとう。でもいいか、本当に真価が問われるのはここからだぞ!」
さすが部長だ。いつもの勢いでまくしたてる。講話というより説教に近い様子だった。
「昇進した以上、お前達に実力があったのは事実だ。でも忘れるなよ、お前達が昇進できたのはお前達だけの力じゃない。お前達の周囲の人が支えてくれて、お前達を次のステップに押し上げてくれたんだ!」
なるほど、周囲への感謝か。
なおも部長の話は止まらない。
「職位が上がれば上がる程、上からのプレッシャーはきつくなる。自分の力以上の仕事を求められることなんて日常茶飯事だ。そんな時に支えてくれるのは周囲の人達だ。周りの期待や思いを背負っている人は簡単にプレッシャーに潰されはしない」
そして、最後に部長はこう言って締めくくった。
「神輿の上に乗った気になって偉そうにする人間にだけはなるなよ。神輿は担がせるものじゃねぇ。担いでもらうものだ!」
そうだった。まさにその通りだ。
すっかり神輿の上に乗った気でいたが、今回の成果も必死の思いで皆が僕を神輿の上に乗せてくれてそして担いでくれたのだ。
自分の仕事の手を止めて何度も資料を見てアドバイスをくれた上司。他の仕事が手付かずになっていた僕を気遣い、黙って一部の仕事を肩代わりしてくれた先輩。何度も心が折れそうになった時に愚痴を聞いてくれた同僚。
彼らがいなければ今回の仕事は完遂できなかった。
途中で投げ出したか、また身体を壊して入院していたかもしれない。
そんな彼らへの感謝も忘れて鼻高々で職場に戻ろうとしていた自分が急に恥ずかしくなってきた。
いつもそうだ。
いつだって、僕は彼らに支えて貰っている。
そして、そんな彼らに僕が「お返し」をすることはほとんどない。
いや、今の僕の技量で「返せる」ものなんてほとんどないのだ。
ならば、僕が出来る事は二つしかない。
一つは早くお世話になった人達に「お返し」が出来るレベルに到達するまで、仕事のスキルを上げる事。
もう一つは助けてもらったという感謝の気持ちを持ち続けるのだ。
そして、上の人達に「お返し」が出来ないのなら下の世代が「次の神輿」に乗れるように手伝ってあげるのが僕の義務だ。
東京を出る前に気付いて良かった。
帰り道、新幹線を一つ遅らせ、銀座によって職場の人達に配るお土産を少し奮発する。
帰ったら皆に手渡しで配ろう。
そして部長に挨拶に行こう!
「神輿に乗せてくれてありがとうございます」
改めて口に出さなくてもきちんと思いを伝える事でこの仕事は本当にクローズする。
そしてまた、もう一段高いレベルの仕事に挑戦することが出来るのだ。
まだまだ強くなれる。いや、強くしてもらうのだ。
またみんなが応援してくれる。神輿に乗せて担いでくれるからこそ、プレッシャーに耐えて前に進んでいけるのだから。
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