ふわふわのおっぱいもいいけれど、この夏はカチカチのおっぱいで勝負に出ようと思う
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記事:キクモトユキコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
おっぱいが好きである。
女だけどおっぱいが好きである。
女だから私にもおっぱいがついている。
普段はふわふわのおっぱいが好きだし、私のおっぱいもそれなりにふわふわだと思うけれど、この夏はカチカチのおっぱいで勝負に出ようと思う。
京都に住んでいる。実は京都はカチカチのおっぱいに縁がある土地なのだ。
住み始めてまだ3年ほど。地元志向の強い地域に生まれ育ったので地元を出て生きていくということはあまり考えていなかったのだけど、京都に住みだした今、なんであんなに地元にこだわっていたのだろうと思うほど京都を気に入ってしまった。
なかでも私が気に入っているところは、街に着物姿の人が多いことだ。私の地元では、お正月か夏祭りの時期くらいにしか着物姿を見ることができない。でもここ京都では、レンタル着物で街歩きを楽しむ観光客や何十年も着物を着ているんだろうと思わせる背筋のしゃんとしたご婦人などなど、日常生活の中で多くの着物姿を見ることができる。今年の夏も京都には浴衣姿の女性たちがそこかしこに出現して、私たちの目を楽しませてくれることだろう。
夏のコスチュームと言えば、水着と浴衣ではないかと私は思う。この二つの装いはふわふわのおっぱいとカチカチのおっぱい、という対極のおっぱいがそれぞれ美しさの基準となっているのではないだろうか。
水着とふわふわのおっぱいは簡単だ。本来のおっぱいは、ふわふわがあるべき自然の姿であるから、おっぱいを存分に活かした水着というものは着ているだけで十分に美しいのだ。けれども年齢とともにその美しさをアピールするのが厳しくなってくるという残酷なものでもある。
対して浴衣とカチカチのおっぱい。これがなかなかに難しいのだ。だからこそカチカチのおっぱいを体得している女性の浴衣姿は、年齢を問わず実に美しいし、いくら若さに満ち満ちていてもカチカチのおっぱいに気付けていない浴衣姿を見ると、そこはかとなく残念な気持ちになる。それでも京都は着物が身近な街なので、他の土地に比べてカチカチのおっぱい率は高いように思うのだ。
「着物を着る」と「美しく着物を着る」という言葉の間には大きな壁がある。着付け教室で一通り着付けを習えば「着物を着る」ことができるようになる。しかしそこから「美しく着物を着る」ステージへは訓練が必要なのだ。自分の体型を見つめ直し、自分の体型から和装の理想体型へ近づけるため自分に合った「補正」を行う。一般的によく使われる「補正」はお腹にタオルを巻いたりするアレである。
着物を着るにあたり、私にとって最大の敵は衿の下にある「流動体X」だった。そう、おっぱいのことである。着物の下でぐにぐにと動く「流動体X」のせいで胸元がうまく固定されず、着崩れを引き起こして私を悩ますのだ。私の「流動体X」は周りと比べても大きめなサイズなため、被害は顕著である。
人より多く「流動体X」を抱える人たちにとって、いかに「流動体」を「固体」にするかが「美しく着物を着る」ために乗り越えるべき壁なのだ。そしてこれこそが、カチカチのおっぱいの正体なのである。
和装の際にはおっぱいは潰すべき存在である。
えー!? おっぱい潰しちゃうの? もったいない! などとは思わないでほしい。水着にはふわふわのおっぱいが似合うように、着物にはカチカチのおっぱいが似合うようにできているのだ。花魁でさえ、意外と胸元はきっちりかっちりしていたりする。ふわふわはこの後のお楽しみ、ということなのかもしれない。
私はというと、今まで和装ブラなども試したりしてきたけどいまいちしっくりくるものに出会えていなかった。そんな中、私が辿り着いたのはとても原始的な方法だった。「さらし」である。もともと頭の中にはその存在があったのだけれど、最終手段だと思っていた。そして去年の夏に私はその最後の砦に縋ることとなった。薬局で長いガーゼを購入して簡易的なさらしを作ってみたのだ。
するとどうだろう、私の「流動体X」は今まで試したどの方法よりも固定され、帯もきっちりと締まり、これまでの中で一番着崩れが少なかったのである。ガーゼなので汗も吸ってくれるし、洗濯だって簡単にできる。先人の知恵に敬意を表してこれからはさらしでいこう、と決めたのだった。カチカチのおっぱいを手に入れて、歳を取っても浴衣や着物で勝負に出られる女性でいたい。
祇園祭や京の七夕、寺院の夜間特別拝観。河原町のビアガーデン、川床、夕方に鴨川沿いを浴衣でお散歩。夏の京都は浴衣にもってこいなイベントが目白押しだ。
今まで目先にあるふわふわのおっぱいに気を取られがちだったけれど、この夏はカチカチのおっぱいに挑戦したり堪能してみたりするのも一興。ふわふわもカチカチも楽しむことのできる幸せな夏は、もうすぐそこだ。
私も更なるカチカチを目指して、さらし巻きの特訓をそろそろ始めようと思う。
パーフェクトなカチカチのおっぱいを手に入れて、浴衣姿で粋に京都の街へ繰り出すのだ。
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