「悩みごと、まずはラーメン食べてから」
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記事:島本 薫(ライティング・ゼミ 日曜コース)
隣町に行くたびに、楽しみに通る道がある。といっても、そこはただの商店街。わたしのお目当ては、あるラーメン屋だ。店のシャッターには、でかでかとこんな言葉が書かれている。
「悩みごと、まずはラーメン食べてから」
ああ、いいなあ、これ――。この言葉を見るたび、ちょっぴり笑ってちょっぴり気持ちがあたたかくなる。うん、ホントにそうだよね。たしかにこの世には、ラーメンを食べてから考えてもいい悩みごとがある。あたたかいものを食べると気持ちが落ち着くし、気持ちが落ち着いてから考えると、悩みもまた別の目で見ることができる。
何より、悩みごとを抱えているときに、居場所があるってありがたいよね。
ラーメン一杯分の時間、ここでゆっくりしていいんだよ。そう言われているような気がする。
たぶん、店のドアを開けると「いらっしゃい!」って言ってもらえて、おずおずと席に着いて「あの、ラーメン」とか言った後は、ほっておいてもらえるの。後はそう、ほーーーっと大きく息をついて、ただラーメンができるのを待っていればいい。ぼんやり店内をながめながら、ただの自分に帰ればいい。座っているうちに、そんなことすらできていなかった近頃の自分に気づくだろう。
「はい、ラーメン」
どんぶりを渡されるとき、もしかしたら、ほんの一瞬だけ店主と目があうかもしれない。ご店主はきっとその辺も心得ていて、目を見た方がいい人と、そうじゃない人のことがわかるの。目の前の人にどの程度の距離とぬくもりが必要か、長年のカンでわかるのね。
小さく「いただきます」を言う。たぶん心の中で。
ぱりっと割り箸を割る。きれいに割れるとちょっと嬉しくなるし、うまく力が入らなくて変なふうに割れたりすると、ああ、今の自分の状態かな……なんて、思ったりする。
ラーメンって、何かをしながら食べるには向かないものだから、勢い一生懸命食べることになる。はふはふはふ。出来立てのラーメンはあったかい。熱いんだけど、あったかい。たとえラーメン一杯にせよ、これは誰かが自分のためだけにつくってくれたもの。そう思うと、何だか嬉しい。ううん、ありがたい感じかな。あたたかさが、胃の腑と心にしみわたっていく。
ああ、わたし、ちゃんとものを食べてる――わたし、大丈夫だ。そんな気持ちになるかもしれない。
ご店主はこちらを見ているわけじゃないけど、ちゃんとそこにいてくれているのがわかる。その存在だけで、わたし、今はただここにいて、ラーメンを食べることに集中していていいんだ、って気持ちになれるの。
ただそこにいて、いいんだなあっていう気持ちがしてくるの。
「ごちそうさまでした」は、きちんと声に出そう。食べ終わっても出ていかなければいけない雰囲気はないし、そのまま座っていてもいいんだけど、出るべきときがちゃんとわかると思う。ラーメン一杯分のあたたかさがしっかり身体に入っていて、外に出ていけるような感じがするの。
きっと、来たときとは違う足取りで、お店を出られる。ラーメン一杯分の時間が、心にも滋養を与えてくれたから。
……なあんて、妄想が膨らむばかりだけど、いつかは入ってみたいなあ、あのお店。おなかがすいてるときに通ったことがないし、一人でラーメンを食べに来るほどの強者じゃないから一度も入ったことがないけれど、中はどんな感じなんだろう。意外と斬新な内装だったりして。味は割と普通のような気がする。ご店主はおじいさんに近いおじさんだと勝手に思ってるけど、若者が頑張ってる店だったりするのかな。白い上っ張りじゃなくて、黒いTシャツを着て頭にバンダナを巻いてたりするような。いや、ここはやっぱりおじさんでしょう。どこかに老賢人のイメージを重ねられるような、白髪交じりのおじさんがいい。
今日も絶好調の妄想をお供に、商店街を歩く。ああ、見えてきた。あのシャッターが。
――え? ちょっと待って? シャッター???
毎回、シャッターに書いてある言葉を見るのを楽しみにしてたということは、いつもお店は閉まってた、ってことだ。そうそう来るところじゃないとはいえ、平日も休日もいろんな時間帯を通ってる。なのに、いつもいつもシャッターが閉まってたってことは、もしかして……。
中でご店主、悩みごとの罠にはまって抜けられなくなってるとか?
「どんなラーメンなら、悩みごとに効くだろう」とか「そもそも、今ここでラーメンを作っていていいのだろうか」とか「俺のスープには煩悩がしみだしている」とか、考えてる?
閉ざされた店の前で、呆然と立ち尽くすわたし。ああ、妄想が止まらない。
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