なかなか落ちていないものが落ちている場所へ。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:古川博之進(ライティング・ゼミ平日コース)
「異性と知り合うには、まず、女の子がいる場へ足を運ばなきゃねえ」
20年ほど昔に、店の常連客から聞いた台詞だ。聞いた当初は「この人は何を言っているのかしら?」とさほど気にも留めていなかったし、それを思い返すことがあるなんて考えもしなかった。
出会いはそこら中に転がっている。
そう言葉にできるのは、容姿にめぐまれた人間の特権だと思っていた。クラスにも学年にも必ず数名はそんなやつらがいて、出会いはそこに一極集中していると思っていた。だから、そんな特権を持たない自分は、出会いというものとは縁遠かった。中高一貫の男子校で校則上坊主頭だったことも手伝って、なんていうのはあからさまな言い訳であり、予備校で異性とともに生活する環境に移っても、結局は何も変わらなかった。
出会うこと、それが特別なことだと改めて気付くのは、社会に出て家と職場を往復するようになってからのことだ。入社したてのころは、誰もがそうであるように、業務を覚えてこなすことに必死で目が血走っていた。朝から晩まで顔を突き合わせるのは、上司と先輩とお客様だけで、自分の容量が大きくないと、とても異性のことまで気が回らなかった。
そんな私でも、社会人歴が2年を過ぎて、つまり日々の業務に余裕が出来てくると、私生活で周りを見回す余裕も出てくる。そしてふと気付かされるのだ、社会人というのも実に出会いがないものだなと。
学生時代からの縁なんて、馬鹿話のできる男友だち数名しかなくなっており、異性のにおいはかけらもない。知り合いにはなったものの、そこから先に進展させることができなかった数少ない女子たちは、みんなめでたくゴールインしており、合コンを依頼しようにも、旦那さんの仕事で物理的にも遠くへ行ってしまっていた。取引先やビルの受付の女性を見かけることはあるが、どうしてもその後の業務のことを考えてしまうので、声を掛けるどころの話ではなかった。
みんなどこで出会って、知り合っているのだろう?
毎日が忙殺される中で、ふと学生時代の仲間に会いに札幌へ行く用事ができた。私の働いていたバーは、全員が大学生で、曜日によってカウンターに立つスタッフが決まっていた。そのため曜日ごとに客層というか店の色も全く違っていた。その違いを楽しんでくれるお客もいたが、自分に合う曜日をみつけるとその曜日にだけ来ることになるのも自然な流れであり、小野さんもこのくちだった。
女性スタッフ、つまりは女子大生がカウンターに入る曜日は、やはりと言うか、客の入りも良かった。もちろん男の子がカウンターに立っても、その友人の女子大生が来るのだが、やはり来るお客みんなにやさしく接してくれる女の子スタッフの存在というのは価値があったのだと思う。ガールズバーなんて営業形態は当時は無かったが、思い返せば見た目はそれに限りなく近かった。そして、小野さんも女性スタッフの曜日にだけ来る常連さんだった。
久しぶりに店に顔を出してみた。
スタッフはもちろん入れ替わっていて「はじめまして」の顔ぶれだったが、長く通ってくれているお客に関するネタは、時間を飛び越えて共通の話題を提供してくれた。『あの人は今』なんてテレビ番組のごとく、次から次に挙がる常連客の話をして盛り上がっていたが、その中に小野さんの名前が挙がった。
まだ来てくれているんだ、と驚く自分。
そんなに昔からのなじみ客だったんですね、と驚く現スタッフ。
近況を聞いて更に驚いた。
「うちに来ていたお客さんとご結婚されましたからね…… 」
「え? それはすごいね。おめでたいね」
めでたいと言ったものの実際はとてつもなくびっくりしていた。お相手は知り合った当時が女子大生で、彼女が卒業して間もなくの入籍・結婚だという。小野さんは以前お会いした時点で既に40歳近かったのだから、ご結婚された時は60歳前後と推測される。すごい歳の差だ。お客同士で色恋沙汰があるのは普通の話だが、失礼ながら、そんなにもてる雰囲気はなかったので驚いた。急にモテ期が来たのか? 何かを引き寄せたのか?
そういえば自分がカウンターに立っているときの何気ない会話で「なぜうちの店によく来てくれているんですか」と尋ねたことがあった。よくあるのは「近所だから」「安いから」「お酒が好きだから」など。本当かどうかはともかく理由は人それぞれ。しかし小野さんは違った。はっきりとこう言ってのけた。
「異性と知り合うには、まず、女の子がいる場へ足を運ばなきゃねえ」
女性スタッフが人気なのは店主として把握していたが、小野さんがそんな熱い気持ちと下心とで足を運んでくださっているとは知らなかった。ただお酒が好きなだけだと思っていたので、はじめは冗談かと思ったほどだ。
「出会いが欲しければまずは動かなくちゃね。女の子がいないと何も始まらないでしょ? だから女の子が集まる場所へは結構顔を出しているんだよ、俺」
バドワイザーのボトルを傾けた小野さんの横顔を思い出した。
社会人は何もしなければ自然と友人が減りがちだ。結婚や転勤や様々な理由によるのでそれも必然のこと。加えて、遊びに繰り出す頻度は減るのだからなお一層加速するというものだ。だったらなおのこと足を使わないといけない。出会いが欲しければ、異性が多くいる場所へと足を運べばいい。素敵な出会いをみつけた小野さんのように。
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