父との関係
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記事:水谷 須美子(ライティング・ゼミ 日曜コース)
会社が休みの土曜日、家でのんびりお昼ご飯を食べていると電話が鳴った。
出てみると父からである。電話が鳴ったときに父からの電話だろうと想像がついた。
休日の昼間に自宅の電話に連絡をしてくるのは父かセールスの電話くらいだからだ。
父はいつものとおり「あ、すみこか?特に変わりはないなぁ」と言い「今日は家にいるのか?」と尋ねてきた。
私は「夕方から出掛けるよ」と答えると「いやぁ、これから行こうと思って」と父は言った。
「うん、来れば。夕方から出掛けるけど」と私。「うん、じゃこれから行く。1時間半後くらいには着くから」と父。
父は昨年の3月に老人ホームに入居をした。
父と私は二人で暮らしていた。母は私が15歳のときにすでに他界をしていて、年齢の離れている兄が一人いるが兄は結婚をして別に所帯を持っている。
父一人、娘一人の生活である。父一人、娘一人というと娘が父を甲斐甲斐しく身のまわりの事をしているというのがドラマなどでは定番だが、我が家違っていた。
仲が悪いわけではながお互い放任主義というか自由にしているのが心地良かったし、それでずっと生活をしていたので娘の私も疑問にも思わずずっとこのままだろうと思っていた。
それが、14年前に父の大病によって変わってきた。父はそのとき60歳を越えた年齢
でそれまで、病院とは縁遠い人間だった。家族が風邪で熱があっても「そんなものメンソレータムを塗っておけば治る」と冗談を交えながらに言っていたくらいだった。
そんな父に大腸がんが見つかった。私は動揺をしてしまった。15歳のときに他界をした母が胃がんだったからだ。母はまだ、若かったこともありがんが見つかってからあっというまに亡くなった。当時は10代だった私だけ母ががんであることを知らされずに治ると信じていたのに亡くなったのだ。その記憶が蘇った。そして、今回は10代ではない私は医師から内緒で病院へ呼ばれ私だけ父のがんを告知された。
その瞬間、もう私は10代の娘ではなく、守られる側から親を守らなければいけない立場になっているのを感じた。
それから、父は入院をして検査をして手術をすることになった。父の担当医師は手術をするにあたり父に大腸がであることを告知した。父は相当ショックを受けていて、当然家族もショックとどうしていいかわからない不安の感情でいっぱいだった。
幸いなことに父の手術は成功して1ケ月半の入院を経て無事に退院をした。本当によかったと思った。
それから、父一人、娘一人の生活が変わった。父は洋傘の職人をしていたが大腸がんの手術後、廃業をしてアルバイトの生活となった。世間的には年齢的にもリタイアをしている年齢だったので別にそれでも良かった。一層、私は父を守らなければという意識が強くなった。そして、父の大病から12年後、私のがんばり限界にきていた。父も高齢になりアルバイトも辞め生活でできないことも増えてきた。父にも強い態度に出てしまうことも増えてきた。そもそも、相性はあまり良くなかったのだ。(嫌いということではなく)
その証拠に12年の間数年ではあったが私は実家を出て一人暮らしをしていたこともある。
もちろん、その期間も父の面倒を見てきた。
そして、限界。
兄に相談をしたが、兄は離れて暮らしていたので温度差が違う。協力的ではないのだ。
何度も兄弟で話した。私の気持ちが限界なこと、12年間協力的でなかった兄への思い。
そして、老人ホームへの入居を父に進めることとなったのだが当然、父は乗り気ではなく
父もかなり寂しい気持ちになったと思う。
兄とは何日も何日も話しもめにもめた。どこの家庭でもある話しではあるがなかなかしんどいものだ。毎日、その問題が頭から離れず家族がそれぞれの方向に向かって悩んでいる。
良いものではない。
そして、昨年の3月少々強引な形ではあったが父の老人ホームへ入居した。父はあきらめ半分と私の負担を考え老人ホームへの入居を決めたのだろうと思う。私は入居が決まったとき少しホッとした気持ちはあったが、守りきれなかったことへの父への罪悪感も強く感じていた。いろいろな思いが辛かった。父の顔をみるのが苦しかった。
父と別々の生活になって1年と少しが過ぎ、いろろな事がわかった。
実はこの年まで親離れができてなかった自分。兄と私がもめている姿を見て傷つき、辛い思いをしたのに私の事を心配する父の愛情の深さ。親って凄いと思った。
そして、相性はあまり良くなくても私は父が大好きなのである。距離を置いたからこそわかったし父に優しくできるようになった。
そして、やっと親離れでき大人になった私は土曜の午後にかかってくる父からの電話を心から楽しみにしている。
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