STUDIO天狼院

その日、私は「天狼院スタッフ」でいることを心から後悔していた。《海鈴のアイデア帳》


いやー、なんで私、今ここにいるんだ。

私は、「天狼院スタッフ」でいることをとても後悔していました。

どうして、私はこちら側にいるんだろう。
自分の置かれた状況が、口惜しくてたまりませんでした。

その日、私は「スタジオ天狼院」という場所にいました。

2017年8月26日にオープンした池袋東口の「池袋駅前店」とは反対の西口の、とあるビルにこのスタジオはあります。

天狼院書店でおこなわれる撮影会や、演劇ワークショップ、大型イベントなど、自由な発想の場として使用されます。
撮影スタジオとしても使われるので、真っ白な内装で、鏡やすてきな家具なんかもあります。
いわば天狼院のクリエイティブスタジオのようなものです。

 

その日は、天狼院「演じる英語ゼミ」の第1講がスタートしている日でした。

あの名作文学『幸福な王子』を、英語の脚本でおこなうプロジェクト。

そこに集まったお客様を見て、私はなんとなく「これはやばいな」という気がしていました。
いや、正確に言うと、その日が始まる前からなんとなく予想していました。

その場を見てしまうと、天狼院スタッフでいることを後悔してしまうだろうことに、薄々気づいていたのだと思います。

「演じる英語ゼミ」だから演技経験がある人がほとんどかというと、そうではありません。

「演技はやったことないけれど、なんとなく面白そうだから」
「思い切って参加してみました」

という方もいらっしゃっていました。
ますます、これはやばいぞという思いが加速していきました。

 

いよいよレッスンがはじまると、私はもう、いてもたってもいられないような状態でした。

なぜなら、演出の中村さんが、こんなセリフを放ったのです。

「さっそくですが、一番難しいシーンから、やっちゃいます」

指定されたのは、つばめがぼろぼろになって、王子に最後のあいさつをする場面です。

「難しいシーンからやったほうが、絶対楽だから」

脚本は、参加者にあわせ、これから当て書きされます。誰がどのキャラクターを担当するのか、この時点ではまだ決まっていません。
そのキャラクターを見るという意味でも、このシーンが指定されたようでした。

お話でいったら、感動的な場面です。クライマックスです。

越冬のための移動を断念してまで、つばめは王子の銅像とともに、自己犠牲で、貧しい人を助けてゆくのです。

気づくと、季節は冬になっている。
寒さの中で、つばめは、生きていくことができません。
それでも、王子の想いに、その場に留まりつづけたつばめ。

それももう、最後のお別れが来ている。
自分がもうじき死ぬということを、つばめはわかっているのです。

そんな中で、王子に伝える最後の “Good bye”……

まだレッスンは始まったばかりなのに。
まだ、物語の1シーンしかやっていないのに。

そのシーンをお客様が再現しているところを見て、目の前の景色がぶわーっと広がっていくような感覚を覚えました。

そんな、身のちぎれるような想いをして、伝える「さよなら」が、英語でも表現できたら、なんて素敵なんだろうと。

英語だから、難しいかもしれない。ふと、そんなことを思いました。
けれど、そんな疑念は、一瞬で飛んで行きました。

言語が日本語であろうと、英語であろうと、発しようとする想いというものは、同じなのです。
「英語だから難しい」なんていうのは、思い込みでしかないのだと、はっきりと感じました。

それは、レッスンの場で、一気に化学反応ようなものが起こったからなのです。

 

演出・脚本を担当する中村先生と、
翻訳・英語監修を担当する石川先生という、2人もの講師がついた「演じる英語ゼミ」。

稽古のその場ですぐ、感情を言語として表現するための方法が、解決するのです。

「この英語のセリフを、寂しさを隠し殺すようにしていうときは、どうなるの?」

という疑問があっても、通訳・翻訳家である石川先生に、その場ですぐ確認できる。
発音の基礎的なワークショップも付いている。

「感情をもっとアウトプットに乗せるには、どうすればいいか?」

という疑問が出てきても、自らも役者であり、脚本から演出のプロである中村先生がうまい具合に引き出してくれる。

そして、人から見られているという適度な緊張感が、練習の質を濃縮してくれている。

初めてのシーン、初めてのレッスンです。
それなのに、2・3回繰り返しただけで、見ている側は目がうるんできそうになるくらい、つばめの断腸の思いの “Good bye” が稽古の中で作られていきました。

 

ああ、これはやっぱり、私は天狼院スタッフをやめた方がいいかもしれない、と思いました。

まぎれもなく、これは、「生きた英語」を学んで、即・その場で実行できるという、英語習得の絶好のチャンスであることに間違いがないのでした。

私は、今スタッフをやめてしまいたいと思いました。
レッスンを見ていて、私のその衝動は、どんどん膨れ上がっていきました。

ああ、参加したい。参加したすぎる。

天狼院スタッフのままでは、「お客様」として、演じる英語ゼミプロジェクトに参加することはできません。
あくまでも運営側になってしまいます。

いっそのことスタッフをやめて、お客様として参加できればどんなにいいことか。
その場で、自分の気持ちを英語に載せて話すレッスンをやりたくてやりたくて、たまらなくなってしまいました。

しかし、それは叶いません。私はスタッフです。
その代わり私は、誰よりも近く、このプロジェクトの完成を見ることができます。

それは、何より幸せなことです。

英語劇『幸福な王子:The Happy Prince』。

11月には、公開発表会があります。
今回スタートしたこのメンバーで、最後、どんな演目ができあがるのか。
誰よりも近くで、その完成に手を添えていくのが楽しみでなりません。

その後も、12月からは新しい演目にて「演じる英語ゼミ」プロジェクトは、新しいメンバーの募集も開始して、はじまります。

この「演じる英語ゼミプロジェクト」をきっかけに、どんな新しい景色が広がっていくのか?
楽しみでなりません。

そしていつか、私も、演じる側で参加する日が来れば。

それが、今の私の、何よりの野望なのです。

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英語劇

The Happy Prince

ー 幸福な王子 ー

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脚本・演出 中村雪絵
翻訳・英語監修 石川奈未

〔公演日程〕
①11月13日(月)20:00 開演予定
②11月23日(祝木)11:00 開演予定
会場:スタジオ天狼院(西池袋/地下鉄池袋駅C3出口より30秒)
〒171-0021 東京都豊島区西池袋3丁目31−10 4F

*公演へのご来場をご希望される方は、先行受付にて承ることができます。
こちらの〔 お問い合せフォーム 〕から、ご希望の日程をお申し付けください。詳細と、お席ご案内のメールをお送りいたします。

*「演じる英語ゼミ」は、12月から新しい期がはじまる予定です。
こちらのコースのお申し込みと日程はまもなく発表いたしますが、先立って詳細を知りたいという方は、〔 お問い合せフォーム 〕から、12月からの「演じる英語ゼミ」についてお問い合わせください。

 

http://tenro-in.com/zemi/40081

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
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