プロフェッショナル・ゼミ

この映画を観て、天狼院の三浦店主が何故自らの肩書にこだわるのかが良く分かった《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田THX将治(ライティング・ゼミ プロフェッショナルコース)

映画『ファウンダー』を観た。
あの、マクドナルド・ハンバーガーを一代にして、世界的巨大企業に育てた起業家レイ・クロックの伝記映画だ。
映画を観終わった途端、頭を過ったのは天狼院の三浦店主の事だ。先に断っておくが、決して、主演のマイケル・キートンの薄目の髪型を見たからでは無い。
そして、これは過日伺ったことだが、三浦店主が制作に加わった『ストックビジネスの教科書』という書籍の中に、レイ・クロックを取り上げようと考えたとの話を聞いたことも、同時に思い出していた。

この映画の中で、レイ・クロックは、1950年代にも拘わらず「パワー・オブ・ポジティブ・シンキング」を愛読し、毎晩の様に朗読もしている。シェイク・ミキサーの営業総代理店を営む彼は、営業成績が伸びない毎日でも、ポジティブな姿勢を貫いていた。他人に見せる‘外面’では特にだ。
この辺りの姿勢が、小生に三浦店主を思い起こさせたのかも知れない。

この作品の映画評、特に日本の新聞紙上等では、レイ・クロックの事を地方の無名なビジネスを言葉巧みに乗っ取り、私欲に走りながらそのビジネスを巨大化させたとの見方が多かった。いわば、悪役である。
しかし、小生の見方は少し違っている。
レイ・クロックは当時無名であったマクドナルド・ハンバーガーを、“フランチャイズ化”という手法を使い、短期間にビジネスを巨大化させた。それ自体、悪い事ではない。ましてや、今日言われている様な、‘悪性脂質の多さ’‘糖分過多’そして‘勤務のブラック化’といった問題は、レイ・クロック自身に責任が有る訳では無いからだ。
そういった諸処の問題は、彼が事業権を買い取りフランチャイズの手法で、企業を大きくし、それがその後、世界的企業へと発展した後で起こったことであるからだ。
しかも、諸問題が出て来るのは、ここ数年の事であり、1984年に逝去したレイ・クロックには、責任の取り様も無い事だからだ。
それよりもし、彼が一地方のハンバーガー店の画期的な製造システムに、興味を示すことが出来なかったとしたら、その優秀な製造システムは世に埋もれていたかのかも知れない。ここは一つ、レイ・クロックの気付きによって、多くの雇用が生まれ、アルバイトによって多くの人々が、生活出来たと判断したいところだ。

この映画の題名『ファウンダー』は、一般的に“創立者”と訳されることが多い。
創立者は、創業者とは違い事業を‘0(ゼロ)’から立ち上げる必要はない。もし資金が有れば、ある程度目途が付きそうな事業をそのまま買い取ることが出来るからだ。実際、レイ・クロックの場合も、自らハンバーガーショップを開業し、その製造システムを開発してはいない。マクドナルド・ハンバーガーを開業し、その上、画期的な製造システムを発明したのは、マクドナルド兄弟である。
映画では、カリフォルニアの田舎町で‘健気に’一店舗のハンバーガーショップを営んでいると表現されている。その辺りが、判官贔屓が強い日本では、そのシステムを丸ごと買い取ってしまったレイ・クロックを、一躍悪役と捉える様に成ってしまったのが残念だ。

映画でも描かれている様に、レイ・クロックは、そのハンバーガー製造システムを、誰にでも使える様になる、そして、アメリカ中に人々が、誰でも美味しいハンバーガーを“手軽に”“廉価で”“待たずに”そして“(オーダーを)間違いなく”食べることが出来る様に成ることを夢見ただけだった。その夢を、マクドナルド兄弟のシステムに賭けた訳だ。
その点で小生は、レイ・クロック自身は、世の為・他人の為にその夢に賭けたと考えている。申し分無いとは言えないかも知れないが、まともで立派な創立者“ファンダー”だからだ。
しかし、レイ・クロックは、ハンバーガー製造システムを開発した訳では無いので“創業者”とは言えないのも事実だ。

“ファウンダー”のスペルは“founder”。語源を探ると“fountain”と同じだ。“fountain”は、“泉”“湧水”または、比喩的に“起源”と訳される。ということは、“founder”には“泉・湧水を発見した人”という意味が加わることになる。
実際、レイ・クロックは、前職の営業中にマクドナルド兄弟のシステムという、世に知られていない源泉を発見した。
この点でも、彼を“ファウンダー”と讃えるのは、正しい事の様に思えてならない。

さて、小生がいつも御世話になっている天狼院の三浦店主。
三浦店主は以前、
「呼ばれるなら“アントレプレナー”と呼ばれる様に成りたい」
と、天狼院のビジネス系講義で仰っていた事が有る。
前後の話は失念してしまったが、何気無いこの一言を呟いた時の三浦店主の表情を、小生は今でも覚えている。三浦店主の眼は、“本気(マジ)”で満ちていた。
そして自らを決して、“ファウンダー”とは言わない。ベンチャー企業の創立者が、こぞって自らを“ファウンダー”と称するのと正反対に。

恥ずかしながら小生にとって“アントレプレナー(entrepreneur)”は、その時初めて出会った横文字だった。辞書によると語源はフランス語で、主に“起業家”と訳されることが多い。他に“事業家”“請負人”といった意味もある。もう一つの意味としては、“興行主”も有ると辞書に出ていた。

三浦店主によると、日本で“アントレプレナー”の代表例として、ソフトバンクを起業した孫正義氏をあげた。
先に述べておくが、三浦店主は決して、孫さんがソフトバンクを巨大企業に育てたので、同じ様になりたいと言っていたのではない。それは、普段からの言動からも、理解出来ることである。それにもし、巨大企業を立ち上げようとしたのなら、間違っても“書店”を始めたりはしないだろう。
三浦店主の本心は、事ある度に聞いたことによると、大好きで頼り切っている“本”というものを扱う書店が、一般的には衰退産業に括られていて、それが我慢ならなかったといことだとそうだ。自分なら、衰退産業である書店を、必ず世になくて成らない存在にして見せるという、三浦店主独特の気概を感じざるを得ないのだ。

これは、三浦店主の事業家としての天賦の才能かもしれないが、自らの生活以上に事業を楽しんでいる。何百日も連続して仕事をこなす辺り、仕事自体を楽しんでいることは勿論、自ら立ち上げた“新しい書店”という業態に対する誇りの高さを感じる。
また、この新しい形態の書店である天狼院書店を、その書店自体以上に自らの誇りとして大切に育てているのは明白だ。それは、顧客の前では、決して辛そうな表情一つ見せない辺りに、感じられるのだ。

即ち、三浦店主の真髄とは、以前から一般的に存在する書店を、それと同じ手法で開業した“ファウンダー”ではなく、全く新しい業態としての天狼院書店を起業した“アントレプレナー”としての気概に有ると信じる次第です。
業態としては、むしろ古典に近い“書店”を、自らの才覚と自らを助けたる“本”
というコンテンツを用い、そして類い稀なる心意気で“新たな業態”として起業したことは、数々のWeb記事に詳しく書かれている。
言い換えれば、元々そこに在る源泉を見付けるのが“ファウンダー”の功績なら、“アントレプレナー”が為すべきことは、泉となる源水をそこに湧かせる為の道筋を付けることにあると考えるのである。
天狼院という新しい形態の書店は、利益を生む(売上を上げる)商店としての役割も有るが、むしろそれを開店することによって、今までになかった新しい業態を発信する第一歩と成った訳だ。源泉を見付けたのではなく、そこに源水を引き込んだのだ。
また、三浦店主が言うところの“アントレプレナー”は、日本語で例えるなら“戦略家”であり、“戦術家”の“ファウンダー”よりも、より長い射程を必要としているとも思われた。

三浦店主は最近、長編のミステリー小説を書き上げた。『殺し屋のマーケティング』と題されたその作品で、今度は文字通り本の“マーケティング”にも挑戦するそうだ。既に、数々の戦略が組み上がっていると、SNS等での報告も見られる。相当の売り上げを、期待せずにはいられない。
また、三浦店主は、天狼院のライティング系ゼミで常々、ゼミ生の中からプロのライター・小説家を多く輩出し、そのマネージングもしたいと言っている。それは、天狼院の経営会社名“東京プライズエージェンシー”にも見て取れる。
‘プライズ(賞)’を‘エージェント(代理店)’するという意味で付けられたのだろう。
今後は、天狼院のゼミ生の中から、プロとして一本立ちし天狼院に利益をもたらす者も出て来るだろう。現に京都天狼院のスタッフがこの秋、書籍を出版したのだから、より一層現実味を帯びてきた。
このことからも三浦店主は今後、“アントレプレナー”のもう一つの意味“興業主”としても“アントレプレナー”と呼ばれるに相応しくなると、思えて仕方が無いのだ。

小生は、開店間も無い天狼院に行って以来、誰にも負けない位通っている。特に多くの書籍を、購入している訳では無い。天狼院で開催されている、ゼミや部活、そしてその他のイベントに、数多く参加する為だ。
ある意味に於いて小生は、三浦店主以上に天狼院を楽しんでいるともいえるし、その自負もある。これは、常連の特権として勘弁して頂いているが、本来ならば、これほどライティング系ゼミで学んでいれば、もっと筆力が上達していても良さそうなものだ。本当に、申し訳の無い限りである。
しかしながら、三浦店主の教えを受け続けることが、今の小生に出来る最低限のことと考えている。
そしてそれが、初めて知った“アントレプレナー”の成長を間近で見ることが出来る、最高の手立てだとも考えている。

映画『ファウンダー』を観賞しながら、小生は、ここ数年の時間の使い方が、決して間違っていなかったと再確認出来た。

天狼院書店と三浦店主の未来が、楽しみでしょうがない。
そして、それを間近で見ることが出来て、幸福感で一杯である。

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