大いなるマンネリ上等!
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記事:Shinji(ライティング・ゼミ日曜コース)
「新神戸〜、新神戸〜」
そのアナウンスを聞き、目を覚ました時にはすでに時は遅かった。急いで出口に向かったが、非情にも扉は閉まり、ゆっくりと「のぞみ」が発車した。
次の停車駅は姫路。降りるべきだった京都駅から45分。ちょっとした小旅行である。
完全にやらかした。しかも、あんなおまけまで付いてくるなんて。
慣れないことをするとろくなことはない。
「蠍座のあなた、たまにはいつもと違う帰り道を通ってみて。何か新しい発見があるかも?」
なんてよく朝の星占いで無責任に言われることがあるが、僕の経験上、あまり釣果が出たことはない。
いつものことをいつも通りこなして、仕事などに臨む。これをルーティーンと呼ぶらしいが、一流のスポーツ選手などは、このルーティーンを大事にする人が多い。有名な例で言えば、イチロー選手は毎日奥さんのカレーを食べ、同じ時間に同じ道で球場へ向かい、同じ練習をし、同じ動作で打席に入り、きっちり仕事をする。途中でペースを乱そうものなら、かなり怒られるらしい。
イチローほどではないにしても、人には意外と、ルーティーンがあると思う。考えてみてほしい。毎朝同じ道で通勤し、同じカフェでコーヒーを飲んで出勤するなど、一つでも欠けると、なんとなく座りの悪い一日を過ごすことになる習慣がないだろうか? 僕自身も仕事からゴルフに至るまで、あらゆる所にルーティーンが存在し、一つでも欠けると、リズムが狂ってしまうので知らず知らずに重要視している。
ところが、このルーティーンを崩す手強い敵が存在する。
それはズバリ、「格好つけたい気持ち」である。
誰に対して、と言うわけでもない。ただなんとなく格好つけたくなるのだ。この気持ちは、全くもってタチが悪い。
準備などしなくても結果が出せると思われたいのか?
毎回同じ動きなんて気にしませんと、「わんぱく感」を出したいのか?
どういう訳か、いつもの流れを省略したり、違った行動で勝負に臨んだりする。
それでうまく行くなら良いが、大抵うまく行った試しはない。
もはや格好つけることが失敗の前のルーティーン化していると言っても過言ではない。
もう一度言おう。
「慣れないことをするとろくなことがない」のだ。
しかも、本当に格好良いかどうかが定かでないことが多い。
あの日もそうだった。
当時、京都から名古屋まで通勤していた僕は、会社のみんなと飲んで騒いだ時には、22時58分名古屋発新大阪行き最終の新幹線がタイムリミットだった。ま、4割の確率で最終電車を逃し、サウナに泊まることになっていたが。
その日は夏真っ盛りで会社のみんなで名古屋駅前のビアガーデンに行くことになった。既定路線通り、盛り上がり、時計を見ると22時を過ぎていた。
普段なら、「まだもう少し行ける!」とおかわりをするか、もしくは泊まる事を覚悟する時間帯である。
なのに、なぜかその日は「そろそろ帰るよ」と、誰にも伝わらない格好をつけてしまった。
みんなの「えー? もう帰るの?」、「珍しい!」と惜しまれている感じや、ちゃんと余裕を持って帰るという大人の飲み方を披露している感が心地よかった。
僕は颯爽とその場を去り、普段よりも早い22時33分名古屋発の姫路行きに乗り込んだ。
これが事件の始まりだった。
名古屋を発車して10分。岐阜羽島を通過したところまでは記憶が残っている。その後列車は知らないうちに京都、新大阪を通り過ぎ、次の記憶は新神戸のドアが閉まる直前だった。酔っ払って寝過ごすこと自体はもう慣れっこで、大したことではなく、誤差の範囲だった。ただ、この日いつもと違ったのは、格好をつけて早く帰ったばかりに、新幹線が姫路行きだったことだ。
いつも最終に乗ると、新大阪止まりの新幹線である。最悪寝過ごしても、新大阪から京都にローカル線で戻れる。実際何度も経験がある。ところがこの日は事情が違う。姫路に着く頃には京都行きの電車はもうない。新神戸で目が覚めてから姫路までの15分は、まるで注射の順番を待つように、逃げられないし、自分ではどうしようもない事態に生きた心地がしなかった。
やがて姫路に到着し、仕方なくホテルを探そうとした時、さらに悪夢が降りかかる。
「携帯がない」
慌てて駅事務所に行き、その旨を伝えると、
「もう車庫に入ったので、明日の朝9時に忘れ物事務所に問い合わせてください」と言われた。
翌朝、9時に電話すると、「届いてない」と言う。とすれば、残された可能性は乗る前、即ち名古屋駅。すぐに問い合わせたところ、そこにも無かった。
望みは絶たれた。
念のため京都駅に問い合わせてみたが、あるわけが無い。
ついでにダメ元で新大阪に問い合わせて見ると……、そこにあった。
全く理解ができない。新大阪に停車したことさえ記憶にないのに、携帯電話だけが下車していた。
「どうせ降りるなら、起こしてくれればよかったのに、水臭いぞ!」
と携帯を恨んだ。
結局、その日、新大阪まで行き、携帯電話を取り戻したが、1日音信不通の生活を送った。
いつもより早く帰ったにもかかわらず、結局いつもよりも1時間早く起床して出勤しなければならない羽目になり、携帯まで失くすおまけまでついてきた。
慣れないことは本当にやるべきではない、と心の底から実感したことを思い出しながら今、いつもと同じカフェでこの原稿を書いている。そして、いつもの通り、締め切り直前である。
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