四国には何もないですよ、という熱いレビュー
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記事:水谷卓也(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あああぁ、負けた~!」
今年の夏の甲子園、準々決勝。
(香川)三本松 1-9 東海大菅生(西東京)
香川の完敗。東京の完勝。
がっくりである。
ちなみに、自分は東京育ち。
今も東京に住んでいて、この地に愛着を持っている。
香川は住んだこともないし、親戚や仲のいい知人がいるわけでもない。
それなのに、なぜ三本松へ肩入れするのか。
理由はカンタンである。
香川というよりも、四国が大好き。
超絶・四国びいきになってしまったからである。
そもそもぼくは、四国に興味などなかった。
親戚や知人は、香川どころか四国全体でもいない。
松山と高松には、家族旅行や出張で行ったことがあるけれど。
特に、これといった感慨はない。
「好きの反対は嫌いではなく、無関心だ」
そんな名言があるが、まさしくそんな感じだ。
悪気はないけれど、四国に対して「心がない」状態だった。
きっかけは、去年の初夏である。
お遍路で、四国1200kmを歩いて一周した46日間。
それですべてが変わってしまった。
お遍路とは、四国八十八箇所のお寺を巡礼すること。
しかし、今ここで書きたいのは「お遍路」ではなく「四国」のことだ。
まあ、それくらい「四国」自体に魅了されてしまったわけである。
あれから1年以上経った今も、四国のことを思い出すとウットリしてしまう。
しかし。しかしだ。
「四国は何もない」と、みなさんおっしゃる。
四国在住や出身の方も、そのようにおっしゃることが多い。
そして、じつは。
ここがとっても重要なことなのだが…………
このぼく自身も、そう思う(笑)。
出張や旅行で日本のほとんどをまわったぼくも、よそと比べてそう思った。
何も、ない。
じゃあなぜ、強烈に刺さったのか。
くり返すが、何もないからだ。
ようするに。
魅力って「何かがある」からってだけじゃないよね、と。
なんもなくても、魅力を感じるケースだってある。
そのことに、気づかされたわけなのだ。
ためしに、ぼくの心にいちばん焼き付いた要素を挙げてみよう。
それは、高知の右下。
室戸岬あたりの、海岸線の景色だ。
太陽・山・道・海・自分。
それしか存在しない。
お店などない。民家もない。
以上である。
そうとしか、説明のしようがない。
でも、それがいいのだ。
もう少し、挙げてみようか。
それは「どこへ行っても水がキレイ」ということだ。
愛媛の肱川(ひじかわ)は、水面が鏡のようだった。
調べてみたら、支流の数が474本あるらしい。
あの狭い土地(失礼)に、そんなにたくさんの支流。
そりゃ水が澄んでるのも当たり前だよなァーって。
有名どころでは、高知の四万十川ですかね。
ここは、水の色のグラデーションに心を奪われてしまった。
緑と青と紫……キラキラと混ざり合いながら、ゆったりと流れていく。
那賀川。吉野川。物部川。仁淀川。久百々川……
挙げればキリがないので、このへんにしておくが。
水がキレイだと、それは他のことにも波及していくと思われ。
例えば、花もキレイなのである。
フラワーショップや植物園のそれではない。
道端の、野の花だ。
色鮮やかで、濁っていない。
花びらがしっかり肉厚。元気よく咲いている。
眺めていると、アホみたいにシャッターを押してしまう。
魚もキレイだ。
どれもこれも、色がくすんでいない。ピカピカしている。
魚だけじゃない。
愛媛の山の中を歩いていて、見かけたヘビ。
これの縞模様も、美しすぎた。
どれもこれも、水の良さと無関係ではなさそう。
そのように感じたものだった。
いかがだろうか。
室戸の景色、キレイな水、川、花、魚、ヘビ。
「何かある」と言えなくもないが……
「何もない」と言い切ってしまった方が、いいのではないか。
つまりは、そこが魅力なのだ。
四国は辺境、何もない。
そのことを、ネガティブに捉えるのではなくて。
何もないから心に残る、ステキなところ。
実際、ぼくはそう感じた。
しかも、強烈にだ。
それが人間の感じ方の、おもしろいところではなかろうか。
いわば、「耳栓をした時の心地よさ」に似ているかもしれない。
今の世の中、騒々しいことこのうえない。
どこへ行っても、音がしている。
BGMでわざわざすき間を埋めようとしてみたり。
そこで耳栓をしてみる。
静寂が訪れる。
頭の中がしんとしてくる……
心の波がおだやかになってゆく……
四国の魅力も、そういったことではないかと思ったわけである。
何もないから、行きたくなる。
日常のざわざわしたことから、何もない心地よさへワープする。
いまどき、なかなかそんなところはありません。
ということで、ぼくは遠からず四国を再訪しようと思います。
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