野球は9人いなけりゃコールド負け
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記事:津山隆平(ライティング・ゼミ平日コース)
ピカピカの小学1年生の入学式の日。
少しの不安もあったが、それよりも新しい場所への希望と、生まれた時から実装されている浮かれ気味の性格が化学反応を起こして、気持ちをたかぶらせていたのだろうか。
良平は、決められた机につくなり後ろを向いて初対面の男の子とペチャクチャしゃべっていた。
担任の先生が教室に入って話はじめたにも関わらず、彼の耳には何も届かなかった。もしかすると先生が入ってきたことすら、気づいてなかったのかもしれない。良平のおしゃべりは止まらない。きっと一方的にしゃべっていたのだと思う。
「廊下に立っていなさい」──。
いきなり小学生の初日から廊下に立たされたことがきっかけとなったのか、「担任の先生はアホやで」と、家で事あるごとに母親に言っていた。
そのぐらいに、生意気な小学1年生だった。
良平は4月生まれということもあり、他の子よりも頭一つぐらい大きかった。それから健康優良児というものに選ばれていた。「健康優良児」という言葉は元気な子どもに対して使う一般的な呼称だと思われているかもしれないが、知能や運動神経などをテストされた結果、どこかの団体から表彰されるのだ。
そのぐらいには、運動に自信のあった小学生だった。
当時は公園で野球をして遊ぶことが許されていた。
何の約束をしなくても、グローブとバットを持ってタチバナ公園に向かうと、仲間がすでに野球をやって遊んでいる。
野球は1チーム9人なのだが、小学校の低学年が公園で遊ぶ野球である。
せいぜい6~7人が2チームに分かれてゲームをするのだ。
守備側は、ピッチャーと一塁手、それ以外の内野に一人、外野に一人の合計3、4名という感じ。タチバナ公園は野球グランドの形をしていないので、木や壁がその他を守ってくれる。ちなみにキャッチャーは、自転車がやっていた。
こんな具合なので、盗塁は禁止である。
また、攻撃側は、全員が出塁してしまうとバッターが足りなくなる。
従って、「透明ランナー」を使っていた。透明ランナーというのは、「この塁にランナーがいるよ」ということにしておくのである。盗塁は禁止なので走る必要もないのだ。
そんなタチバナ公園での草野球で、打つのが好きな良平がバットでボールを叩くと、たまに公園の外まで飛んでいって、近隣のおうちのガラスを割ってしまう。
このぐらいには、野球が好きで得意な小学3年生だった。
そんな良平は、小学4年生になると自然に学校の野球部に入部した。また、タチバナ公園で野球をしていた他の仲間も野球部に入った。同じ学年の新入部員が20名ぐらいいたのではないだろうか。
タチバナ公園“組“は、野球好きが集っていたので上手な子どもが多かった。どんなことでもコツコツやっていれば上手になると思うのだが、タチバナ公園組はコツコツどころか、毎日の夕飯に帰るのも悔しいぐらい嬉々として野球をしていたのだ。だから、入部したての他の子どもたちとは少しレベルが違うほどに上手だった。
最初は、数十名の中から選ばれてレギュラーとして試合に出場できるということが嬉しかった。タチバナ公園の野球とは違って、ユニフォームを来て試合をするのだ。練習試合でさえ味方は9人いるし、キャッチャーは自転車ではない。内野も外野もいるし、透明ランナーなんて無い。
良平は、ヒットをかっ飛ばしたり、守備でファインプレーができると「このぐらいは当然」という態度でいたが、心の中では自分が誇らしかった。
しかし、いくらヒットを打ってもファインプレーをしても、メチャクチャ悔しいことがある。
それは試合に負けた時だ。
勝った相手の嬉しそうな顔を見ると悔しい。時には「あの時、あそこであいつがあんなプレーをするからだ」とチームメイトに対して腹を立てることもあった。
そこで良平は考えた。
「9人で試合をやらなくても、透明ランナーとか自転車をキャッチャーにして、タチバナ公園組の6人で試合すれば勝てるやん」と。
良平は、ジャイアンツの永遠のヒーロー長嶋の大ファンである父に相談してみた。父は、今日もキリンの瓶ビールを飲みながら長い夕飯だ。テレビは巨人対阪神。
良平「プロ野球でホームラン王って、誰なん?」
父「オウさんや」
良平は、また、父の変なダジャレが始まったのかと思っていた。「オウさん」を知らなかったのだ。
父「王さんは、人の何倍もホームランを打つんやで。 長嶋でも王のホームラン数には負けるからな」
良平「ふーん。そしらた王さんと長嶋さんで試合したらええやん。 ボクの少年野球チームもボクとあと6人ぐらいで試合したら全勝やと思うんやけどな。 どう思う?」
父「お前、アホやなぁ。 野球の試合は9人必要やねん。 9人いなかったらどうなると思う? “コールド負け“やで。 だから野球で勝つには、まず、9人で試合ができるようにしなあかんねん。 野球は1人では勝てへんねん」
就職してメーカーに勤務した良平は、事あるごとに「野球は9人いないと勝てない」という言葉を痛感している。
開発、製造、営業、品質管理、顧客サポート、デリバリーなどの各部門のメンバー全員が出場して栄冠を勝ち取らなければならないのだ。
透明ランナーなんていないのだ。
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