たいむいずまねー
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:みなくちれいこ(ライティング・ゼミ平日コース)
「僕、全てに効率を求めたいんです」
もんじゃ焼きをつまみながら、目を輝かせて彼はそう言った。
彼はサークルの後輩で、バイトやら留学やら忙しいことで有名だ。
「時間って限られているじゃないですか。全てを効率良く回して、いろんなことをしてみたいです」
私はこんなことを言う彼が、心配で心配でしょうがなかった。
「(生産性はやすりのようなものなのに…)」
心内では思っていたものの、ちょっと前の自分に重なって言葉につまってしまった。
彼の言うことはなんら間違っていない。
どんな職場でも人手不足・金不足で、今の社会を生き残っていくには社員一人あたりの生産性を高くしないとついていけない。
大学生だってそうだ。
大学生活が「人生の夏休み」と言われる時代は終わった。本当の夏休みのように勉強しないで家でダラダラしていたり、友達と遊びまくっていたら、単位なし、夢なし、内定なし、の未来が待っている。
こんなお先真っ暗な将来から逃れるには、単位をとりつつ、大学卒業時点で「即戦力」になっている必要がある。
即戦力とは、1年目にすぐ結果を出せるような人のことを指す。
社会に出たこともない大学生が即戦力になるなんて到底無理!
けれど、留学をして語学力を磨いておくとか、長期インターンをするとか、OBOG訪問をして社会人の人にお話を聞くとか、できることはたくさんあるのだ。
ここで重要なのが「時間の使い方」「効率」「生産性」である。
全てに目的意識を持って、効率よく・生産性高く物事をこなせたら、即戦力に近づけて、単位も心配なし、自分のやりたいこともできちゃう。
「なんて最高なんだろう!」
大学1年生の私はそう思った。
それからやりたいこと、必要だと思ったこと、どんどん挑戦していった。
留学したり、憧れのアルバイト先で働いてみたり、勉強も一生懸命やって高い成績を維持した。もちろんサークルもやったし、長期インターンでリーダーを務めた。
毎日が刺激的で楽しくて、自分が磨かれていった。能力がハイスビードで上がっていく感覚。ぞくぞく。
「ごめん、インターンの予定が入っちゃって今日の飲み会いけなくなっちゃった(泣)。また誘って〜!」
次第に私はドタキャンの常連になっていった。
友達とだらだら喋ってるだけの飲み会、毎晩の家族との晩御飯、1日の疲れをとってくれるあったかいお風呂、これらのものはぞくぞくしない。だから行く気が起きない。
それなら、能力あげられる時間にあてたほうがいいじゃん?
そのほうが、卒業できるし、内定できるし、安心!!
8月のある日、たまたま何も予定ない日があった。
寝不足続きだったし、たくさん寝ていても良かった。でも天気は快晴、気温もそんなに高くないみたい。どこか出かけたい気分だった。
「誰誘おうかな〜」
LINEの友だち一覧を上から下へ流していく。登録されている人数は800人。
「うーーん。みどりは忙しそうだし、はるかはこないだ断っちゃったから気まずいなあ……。あ! そーちゃんは? いや、ダメだ。ハワイに旅行行くって言ってたな」
上から下へ友だち一覧が流れなくなった。友だち一覧終了。
仕方がないので、朝ごはんをたべる。
朝ごはんは、昨日の夕ご飯。昨日は家で夕ご飯を食べる予定だったが、急にミーティングの予定が入ってしまった。家についたのは深夜。夜遅くに食べると太ってしまうことを懸念して、夜ご飯は抜いた。
だから今、朝ごはんに昨日の夕ご飯を食べている。
横にメモが置いてあった。
「自分を大切にね」
一緒に遊びに行く友だちが見つからなかったので、一人で古着めぐりに行くことにした。
古着めぐりは高校生からの趣味だった。宝探しみたいだったからだ。
たっくさんの古着の中から、一枚のお気に入りの服をみつける。しかも破格。500円なんてこともある。時間をかけてたくさんの古着屋さんを回って、たった一枚を探し出す。
一人でも十分たのしかった。
気がつけば4時間たっていた。お気に入りの1枚はまだ見つかっていない。
でも心底楽しい!
目的もなくぶらぶらして、見つけた古着屋さんに入る。それぞれ古着屋さんには、個性があって、雰囲気も違っていて、中に一歩踏み入れたら異世界だ。宝探しの冒険に出発できる。
「そろそろ帰らなくちゃ…。今帰ったら晩御飯の時間に間に合う!」
時計は午後5時を示していた。古着屋めぐりを開始してから7時間。お気に入りの服は見つからなかった。
けど、私の中には「充実感」とこれから家族とご飯を食べる「わくわく感」がひしめき合っていて、あふれそうだった。
帰りの電車の中でふと、朝のことを思い出した。
友だち見つからず、一人で昨日の夕ご飯を食べていた。
母親からの一言には目もくれなかった。
「恩知らず」
気がついてしまったのだ。生産性を追い求めるあまり、私は大切なものをなくしていた。
仕事から私を助け出そうと、友だちは飲み会に誘ってくれていた。
せめて体は大事に、と家族は毎晩ご飯を作ってくれていた。
しかも、睡眠や食を十分に取らず、自分を痛めつけて、自分すらも大切にできていなかった。
古着屋めぐりをしている今の方がよっぽどきらきらしている。
生産性や効率はやすりのようなものだ。
ちょっと使えばどんどん綺麗なものにしてくれる。美しくなる。
でも使いすぎればどうだろう。必要なものさえどんどん削ってしまう。
そして最後にはなにも無くなってしまう。
目の前で熱く語る後輩に、
「自分を大切にね」
と一言、言っておいた。
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