婚活パーティーは、コンビニじゃない。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:近藤裕也(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あのっ……ごめんなさい。私、今そのっ、恋人とかそういうの……考えてなくって」
咲ちゃんは手を軽く握り、突き出た人差し指の第二関節を唇に当て、困った表情で俯いていた。
僕と彼女の間には、呼吸をするには少し心地悪い空気が漂っている。
きっとこのシーンを見た9割以上の方が、「告白してフラれた」シーンを想像するはずだ。
実際そうだし、純粋にそうであれば、何も問題はなかった。
しかし1つだけ、納得のいかない問題がある。それはこの「フラれたシーン」についてだ。
僕が彼女にフラれたこのシーンは、「婚活パーティーの会場」での1コマなのだ。
僕はこの日、繁華街のビルの屋上で開催されていた婚活パーティーに参加した。
参加者は20〜30代の男女25人、合計50人。受付でもらった自己紹介カードを記載していた時に、目の前に座ったのが彼女・咲ちゃんだった。
白いワンピースと肩から掛けた紺色のカーディガンが、流行りに敏感な若さを象徴している。
茶色がかった肩までの髪が艶っぽく、タオルで無造作に乾かしたようなパーマで女性らしい色気を醸し出す彼女に、僕は自然とハートの矢の照準を合わせていた。
パーティー開始後は、すぐに咲ちゃんに声をかけた。
話の内容は他愛もなかったが、彼女は僕の話に耳を傾け、楽しんでくれている。
他の参加者たちが自己紹介カードを交換しながら、用意された24個の出会いを吟味している中、僕は彼女とのひと時を満喫していた。
「は〜い、では気になる方と、連絡先を交換してくださいね〜!」
彼女との話に夢中で、気がつくと司会者がパーティーの終盤を知らせていた。
たちまち美人の参加者に多くの男性参加者が群がり、我先にと言わんばかりに紹介カードを掲げて争っている。
僕はそんな彼らを横目に、連絡先カードに自分のLINEのIDを書き、咲ちゃんに渡した。
「咲ちゃん、今日は楽しかったよ。これ、僕の連絡先。良かったら連絡してよ」
「えっ、本当に!? ありがとう、嬉しい〜!」
彼女が見せた「女の表情」に、僕は勝利を確信した。頭上には、青い空と下心が広がっている。
「ラブストーリーは突然に」とは有名なフレーズだが、本当にその通りだ。今日、この時、この場所で、咲ちゃんに出会えていなかったら、僕らはいつまでも見知らぬ2人のままだった。
しかしそんな僕の確信も虚しく、悲劇はもうすでに、始まっていたのだ。
「咲ちゃん、よかったらこの後、デートにでもーー」「えっ?」
咲ちゃんは急に、丁寧に書かれた眉毛をハの字型に変え、僕の言葉を遮った。
「えっ? あっいや、この後時間あるかな? よかったら、お茶でもーー」
この後、カフェでお茶をする。
それから、お気に入りのイタリアンレストランに連れて行こうか。
そんなことを考えながら放った言葉をまたも遮り、彼女はその口を開いた。
「あのっ……ごめんなさい。私、今そのっ、恋人とかそういうの……考えてなくって」
この時、僕が大きな戸惑いを感じたことは、言うまでもない。
彼女は出会いを求めていたが、僕がタイプの男性ではない、というのであれば理解できる。
でも彼女は間違いなく、「恋人は探していない」という意味の言葉を口にした。
「えっ、じゃあ何で今日、参加したの?」
「異性のお友達が欲しくって……今まで男友達とか、あんまりいなかったから……」
なるほど……いや、ちょっと待て。
この会は紛れもなく「婚活パーティー」だ。婚活パーティーとは、「未来の恋人との出会い」を探しにくる場であり、「友達との出会い」を探しにくる場所ではない。
確かに、」「恋人」と「友達」も「出会い」というキーワードで繋げられるが、内容は全くの別ものだ。
ただ、ふと考えてみた。
彼女はもしや、婚活パーティーを「コンビニ」と勘違いしているのではないだろうか。
最近のコンビニは便利で、飲食品から文具、衛生用品、衣類まで、幅広く販売されている。
それらは「生活必需品」という括りで販売されており、言うなればコンビニは「生活必需品の専門店」として認識されている。
しかし厳密に言うと、コンビニはそれ故に「専門店」ではない。
なぜなら、飲食品だけを扱っているわけでもなければ、衛生用品だけを扱っているわけでもないからだ。
「生活用品」という大きな分野においては専門店だが、飲食品や衛生用品だけを取り扱う専門店ではない。その観点で言うと、コンビニは「生活必需品のセレクトショップ」なのだ。
しかし彼女は、婚活パーティーを「出会い全般の専門店」という大きな枠で捉え、「ここにはたくさんの男性がいるから、友達を探している男性もいる」という感覚で参加してしまった。
ところが、婚活パーティーとは「出会い」の専門店ではあるが、その中でも「恋愛」という商品しか取り扱いがなく、「友達」という商品は、生憎販売していない。
だからこそ、彼女が足を運ぶべきだったのは「婚活パーティー」ではなく、「社会人サークル」や「クラブイベント」、「オフ会」のような「出会いのセレクトショップ」だったのだ。
そこには、友達作りを目的にする人もいれば、恋の期待感を抱えて参加する人もいる。
そこであれば、彼女も自分の目的を達成することができただろう。
しかし僕は、……いや、ここにいた男性はいずれも、「友達作り」のために婚活パーティーに参加したわけではない。「恋人作り」のために、安くもないお金と時間を投資しているのだ。
だからこそ、僕が「デート」というキーワードを口にした瞬間、彼女の中で違和感が生じた。
その結果、僕と咲ちゃんとの間に、大きなミスマッチが生まれてしまったのだ。
それから咲ちゃんとカフェに行くこともなければ、彼女から連絡が来ることもなかった。
外を見上げると、先ほどまでの青空がすっかり夜の深さに隠れ、それと同時に僕の頭に描かれたラブストーリーのシナリオも、行き先を無くしたかのように黒く染まり切っていた。
咲ちゃんと一緒に行く予定だったレストランが、ちょうどカップルたちで賑わい出している。
あそこに気になる女性を連れていくのは、もう少し先の予定になりそうだな。
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