深夜コンビニアイスとおじさん
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:菊地優美(ライティング・ゼミ日曜コース)
午前2時過ぎ突然目が覚めた。
うまくいかないときは、なんでもうまくいかないものなんだなと思う。
好きな人に振られてしまった。
仕事も失敗続き。
気分転換に飲みに付き合ってよ、と誘った友人も、体調不良で会えないという。
そして突然目が覚める。
私の体は夢さえ見せてくれないのか、とまたがっかりした。
なにもする気が起きなくて、眠り姫もビックリするくらい眠って眠って眠ってやろうと思っていたのに。そして目が覚めたらすべて忘れていたかったのに。
目はさえているし、頭はクリアだし、現実は何一つ変わっていなかった。
だるい、さみしい、かなしい、つらい。
なんでか涙があふれてくる。
こんな気持ちでベッドにいたら腐ってしまう。でも、起き上がったところで何もないこの部屋に、一人でいなければならないことに耐えられなかった。
なんかないかな。なにか。
あ、と思いだす。
そうだ、コンビニ行こう。
美味しいものでも食べたら少しは元気が出るかもしれない。
食欲は相変わらずなかった。でもあのコンビニの期間限定のチョコレートアイスなら食べられるかもしれない。
こんな夜中に出かけるのだるいな、と一瞬思う。けれど眠れそうにもないし、この部屋にひとりでいるのはもっとだるいなと思い直した。
そう考えるとすぐだった。
部屋着にコートを引っかけて、自転車で夜を走り抜けた。
車通りもまばらな夜の国道を走ると、ぼんやり光るおなじみのあのマークが見えてくる。
キーンコーン。
まぶしい光が溢れる店内へ入る。ああ、日常だ。
このピカピカのコンビニも、さっきまで私が沈んでいたあの部屋も、同じ午前2時半に存在していると思うと、なんだか変な気持ちだった。
ほんとに同じ国なんだろうか?
あ、アイスアイス。
目的のアイスを探す。
なかった。何度冷凍庫を見てもなかった。
やっぱりだめなときは何をやってもだめなんだ、という絶望感が襲ってきそうになる。
いや、そんなことない。近くに同系列のチェーン店がある、あそこに行ってみよう。
もはや買わずに帰れないテンションになっていた私は、まさかのコンビニをはしごしていた。
キーンコーン。
またあのまっくらな国道から、ピカピカのコンビニに入る。
目がちかちかしていたい。一目散に冷凍庫へ向かう。
白熊アイスの隣にあった、チョコレートアイス。
これがあれば大丈夫な気がする。何の保証もないけど、ないよりましだった。
はしごしたこともあり、ちょっとテンションもおかしかった。
だるそうな深夜アルバイトのレジを済ませて店内を出る。
まだ帰りたくないような気もするけど、目的は達成してしまったし、他に何かする気にもなれなかった。
自転車をまたぐと、後ろから大きな声がした。
「オイコラ! こんな時間まで何やってんだ!」
ビックリして振り向くと、もっとビックリした。
全然知らないおじさんだった。
おじさんはコンビニの駐車場に停まっていた、トラックの中から叫んでいた。
え? ひょっとしてそれ、私に言ってる?
「あんただよねーちゃん! こんな時間に女が出歩いたらダメだろ!」
周りには私しかいなかった。あ、やっぱり私なんだ。
全く最近の若者はよぉ! と怒りながらおじさんは続ける。
「気を付けて帰れよ! 世の中なにがあるかわかったもんじゃねえからな!」
そういっておじさんはクラクションを鳴らすと、夜の国道を走り抜けていった。
いきなり話しかけられてビックリしたのと、おじさんの声が大きかったので、思わず放心状態になってしまった。
おじさんの車が見えなくなると、やっと気持ちを取り戻せた。
そして、なんだか笑ってしまった。
なんだ、世界もまだまだ捨てたもんじゃないじゃん。
こんな夜中に出歩いている、赤の他人の女を心配できるアツい男の人がいること。
言い方はぶっきらぼうで怖かったけど、他人のことを心配して忠告できるひとがいてくれること。
そして、そういう人がわたしのことを気にかけてくれたこと。
それがなんだか嬉しかった。
さっき目が覚めたとき、私は世界に一人ぼっちだ、と思い込んでいた。
でも、そうじゃなかった。
自分の狭い世界の範囲でうまくいっていないことにとらわれ過ぎていただけだった。
世界には、私が夜中にひとりで出かけることを心配してくれる人だっているんだ。
ほんと、おじさんの言うとおり世の中なにがあるかわかったもんじゃない。
絶望して目が覚めたはずなのに、赤の他人のトラック野郎から叱咤されただけで、こんな風に気分が少し明るくなるなんて。
部屋に帰って溶けかけたアイスを食べながら考える。
もう、どれだけ寂しくても一人の世界に閉じこもらないようにしよう。
現実は何一つ変わっていなくても、とらえ方で世界はいくらでも変えられる。
うまくいかないときこそ、この世界のとらえ方を忘れずにいよう。
そしていつか、私も赤の他人の心配をできる人間になろう。
そう誓って、おなかがいっぱいになって、私はまた深い眠りについた。
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