『たくさんの想いをちょっとずつ集めて』
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:中川公太(ライティングゼミ平日コース)
「美味しくて、身体に良くて、手軽に食べられて、オシャレな感じ。そんな料理があったら最高よねぇ」
何気なく、サラっと言われた。
「なるほど確かに!」
深く考えずに僕は答えた。
「プライスもちょっとお得に、例えば500円のワンコインとか、あと外食だけど家庭的で……」
「すごいですねーそんな料理あったら」
それが全ての始まりだった。
まだ学童保育でカフェを開く、という話が出るより前のこと。
僕とオーナーは、もし「お店を開くなら」という仮の話をしていた。
ここはプロがひしめく都会のど真ん中、美味しいお店が軒を連ねている。
数歩足を伸ばすだけでオシャレなお店、ボリューム満点なお店、素早く手軽に食べられるお店に着いてしまう。それも、ありとあらゆるジャンルの料理のオンパレードだ。
そうしたお店を眺めながら、僕は一人考え込んでいた。
いったいどんなものを作れば良いのだろう?
今さらながら自分の向う見ずさに途方に暮れていた。
オーナーから言われたことをもう一度思い出してみよう。
美味しくて、身体に良くて、手軽に食べられて、オシャレな感じ、プライスもちょっとお得で、外食だけど家庭的で。
……いやいやちょっと待てよ?よくよく考えたら、それって恐ろしくレベルが高くないだろうか?
その時の僕は、まるで会社の商品企画課にでも入ったような気分だった。
……無理だ、そんなの絶対に出来っこない……。
けれども、ただできないと言っていても仕方がない。
一から考えてみることにしよう。
「美味しさ」、つまり味だ。
単純に考えた場合、質の良い素材を使えば美味しくはなる。
次に、「身体に良い」は、ヘルシーか。
化学調味料のようなものを使わなければ身体への負担は少なくなる。
「手軽さ」、簡単に食べられるものならお手軽感が出るな。
片手で食べられたらラクになりそうだ。
「ちょっとオシャレ」、見た目の華やかさ!
色味をできるだけ増やせばどうにかなるかもしれない。
「外食だけど家庭的は」……素朴さが出せれば良いのか?
そんな雰囲気ってこと!?
おぉ! ぼんやりとだけれどキーワードが出来てきたぞ! すごいじゃん!
もしかしてオレって天才?
しかし次の瞬間、有頂天だった僕はすとーんと底に叩き落とされた。
「ちょっとお得」、つまり販売価格だ。
今まで考えた要素を、売るとするなら値段は?
都会のど真ん中のランチなら1000円はザラだ。
ちょっとお得ということは、それより値段を下に設定しなければならないのは分かる。
だけどワンコイン、500円でだ。
途端にハードルが上がった。
価格を下げるために一番考えやすかったのは、量を作ることだ。
多く材料を仕入れて、単価を下げれば販売価格に転嫁できる。
けれどすぐにこの手はダメだと思った。
食材の仕入れ値を下げるためには、大まかなイメージだけでも肉ならキロ単位、野菜ならケース単位でなければ目に見える価格差は発生しない。
それだけの数が出せる見込みがあるのだろうか?
先ず食べてくれる人数の予想が皆目分からない。テイクアウトにしても衛生管理上リスクがある。何より食材が無駄になってしまう可能性すらある。
次に品質を下げること。
しかし、これにも限度というものがある。そもそも、極端に質を下げれば美味しさや身体に良いものではなくなってしまう。
考えれば考えるほど、雲をつかむような気分になった。
美味しくて、身体に良くて、手軽で、オシャレな感じ、あとプライスもちょっとお得で、外食だけど家庭的。
なんだろう、なんなのだろう。
そんな夢みたいな食べ物が一体この世のどこにあるというのだろうか?
「外食だけど家庭的」に至っては、もはやある種の矛盾すら感じ始めていた。
僕の頭はすっかり煙を出していた。
ちょうどその頃、僕は近所のある有名なパン屋さんによく通っていた。
「ここのパンなら安全だし、値段も頃合いだなぁ」
サンドイッチなら片手で食べられると考えていた。
しかし、メインになりそうな具材がない。
「あんまり豪華な物を材料にするわけにもいかないし」
またしても振り出しかと思っていた時、姉の家でご飯をごちそうになった。
姉も食べることが好きで料理を作るのが好きだ。
いろんなところから得た知恵を凝らした料理はいつも僕を驚かせてくれる。
特にエスニックなもの、滋味あふれるものが得意で、普通の食材からちょっと変わったものまで、あらゆる調理法で料理してしまう。
その品々に舌を巻いていると、あるものが僕の目に留まった。
それを食べた瞬間、頭の上に電球がピカーンと点いた。
これだ!!
思いついた僕はさっそくレシピを組み立て、家に帰って試作品を作ってみた。
近い!
けれど、お店で食べるには、あと一押し何かが足りなかった。
何だろう、何が足りないのだろう……。
腕組みしながら考え込んでいると、同居している兄が帰って来た。
兄は典型的な洋食大好きっ子。ハンバーグにグラタンに、スパゲッティといったこってりとしてパンチの利いた味が大好物だ。
そんな兄だからこそ、食べてもらった。絶対に何かヒントになるという確信があった。
「うーん、なんかパンチが足りないよねー」
モグモグしながら兄が言った。
そうそう!! それそれ!!
「なんかソースみたいなものがあったら良いんじゃない?」
「ソース!? そーっす!!!」
冗談じゃなく、その時の僕はマジでそう言った。
これにシンプルなスープを付ければ家庭的だ!
こうして、僕ら三人の知恵を集めた逸品が完成した。
その名も、ハムタサンド!
子どもに呼ばれていたあだ名から付けた料理だった。
さて、肝心の味は……。
数日後。
子ども達用にお昼を作ってほしいと言われ、ハムタサンドを提供した。
みんなが口一杯ほおばりながら笑顔になっている。
それが答えの全てだった。
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