珈琲の香る、書斎をいくつも持つ女
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:須田京子(ライティング・ゼミ日曜コース)
今年の夏頃から、私は、幸運にも「書斎」を、いくつも持つようになった。
ある時は、フランスのカフェ風の室内で、ジャズを聴きながら読書を楽しみ、ある時は、ロッジ風に作られたその部屋で、時折、文章を書く手を休め、窓の外の芝生を眺め、目を休める。書斎に似合うのは、本と、ペンとノートと、珈琲の香り。本日も、お気に入りの書斎で過ごす、至福のひとときを、味わうとしよう。
……なぁんて、優雅で贅沢なことを言ってみたいところだが、この書斎は自分のものではない。そして、扉を開け、書斎から一歩外に出る時には、しっかり消費税も加えた、「珈琲のお代」、が必要である。
何のことはない、これは、運動不足解消の朝の散歩に合わせ、目下受講中のライティング・ゼミで毎週提出しなければならない「2000文字の文章」をカフェで書こうという算段で始めた、カフェ通いのことだ。通勤時間0分の自営業の現場を離れれば、仕事の忙しさに紛れ、書かないまま期限を迎える事も無く、カフェの心地良い空間に身を置けば、多少なりとも良い物が書けるのではないかと、甘い期待を抱いたのだ。
初日。慣れない朝の一人カフェで、珈琲を頼み、テーブルにノートを広げてはみるものの、なんとなぁ〜く、落ち着かない。自分がこの場で、文章を書いているというのが、今一つ気恥ずかしい。「えーと、私は物書きさんではありませんよ、ただの、文章教室の課題に追われる生徒ですよ」とか、「時間になったら、本業の仕事場に戻りますよ」とか、ぶつぶつと意味の無い独り言が頭に浮かび、カフェの優雅な雰囲気も味わい切れないまま、書くペンも進まず、時間切れになった。
数日経つと、一人で文章を書く、という朝のカフェタイムにも慣れ、メニューを端々まで見る余裕がでて、「モーニングセット」が気になり始めた。飲み物代だけでチーズトーストと目玉焼きが付いているとか、数十円足すだけで、マッシュポテトと卵を瓶に落として湯煎した「エッグスラット」という、初めて名前を聞く、モーニング限定メニューもあることも知り、お得感と物珍しさで、俄然テンションが上がった。
そういえば、ゼミの講義で、「書くときは糖分が要りますよ。糖分をとってください」と言われていたし……と都合よく話を繋げて、様々なカフェに足を運び、モーニングセットのコスパ調査もしつつ「しっかり食べて、何とか、頑張ろう」の日々が続いた。
カフェ代も回数が多いと、出費も馬鹿にならないが、全力投球で頑張って書いても、なかなか及第点にならず「もう、どう頑張っても書けない、あきらめよう」と、くじけそうになる自分を、どうにか、なだめすかして、文章を書きあげるための、ささやかなご褒美だ。
そんなこんなで、8月に文章を書き始めてから、早3月間が過ぎ、いつの間にか、カフェ巡りは20軒を超えていた。歩く道や、どのカフェの、どの席で書くかという、「空間の雰囲気」で自分の気分が変わるのも面白く、その日の気分に合わせて、何となくピンとくる道や、カフェを選び、池袋駅、大塚駅、茗荷谷駅付近を、日々探索した賜物だ。回を重ねると入店時のチェックポイントも分かり、文章を書くときに居心地の良いカフェや、そのお店ならではのお勧めモーニングセットなど、ピックアップしたら、「書斎にしたい、朝のお勧めのカフェガイド」が出来そうなくらいである。
「書斎」と呼ぶからには、「書きたくなる雰囲気と、必要な条件」があり、一度きりのお店もあるし、何度も足を運んでいるお店もある。
うっかり雰囲気の良さで入ってしまったが、おしゃれな間接照明で、文字が見えにくい暗めなお店や、どっしりと座り心地の良いソファーだけれど、膝位のローテーブルのお店は、まったりとリラックスして過ごすには良いが、「文章を書く」には不向きだった。また、分煙の店舗は、喫煙スペースとの境に扉があるか、別階でないと煙が忍び寄り、タバコが苦手な私は頭痛がして、居られなくなる。駅地下のカフェは、店内にトイレが無いこともあり、入る前に要チェックだということも分かった。
一番のお気に入りは、南池袋公園の中にあるカフェの、2Fに上がってすぐの席。クッションが無いので、長時間粘るとお尻が痛くなることを除けば、ガラス越しに、ポカポカ太陽の陽射しを感じながら、本を読んだり、文章を書いたりするのに理想的な場所だ。壁には天上高くまで続く本棚があり、気になる絵本や、アートの本、読んでみたいテーマの本が、お洒落に並び、自由に手に取って見られ、買って帰ることもできる。ウッディで温かみのあるテーブルや椅子、ガラス張りの壁面いっぱいに広がって見える、芝生の緑と季節の空模様などを眺めていると、目の前の小さな日常の出来事に、右往左往していた自分をリセットし、帰る頃までには、肩の力が抜けて軽やかになっているように思う。何より、好きな席に座ると、何か書けるような「気がする」ところも、ありがたい。
お次は、西口にある芸術劇場へ行く途中の、駅地下通路にあるカフェ。
内装はパリのカフェ風で、店内の雰囲気に似合うジャズが心地良く流れている。ゆったりとしたソファー席、奥様方が小声でもおしゃべりしやすそうな、コンパクトな二人用テーブル席、ゆったりとノートを広げられる大きめの丸テーブル席など、さまざまな座席がある。何といっても、空間がゆったりと広いのが魅力で、数種から選べるコーヒーと、ギャルソン風の店員さんに運ばれる、焼きたてのトーストと目玉焼きが揃うと、少しだけ、海外にいるような気分を味わうことができる。朝の時間はいつ行っても人がまばらで、空想にふけるのも邪魔されず、何かしら、遠い記憶の中から、書くことが浮かんでくるような気分になれる場所だ。
そして3番目は、散歩の距離を延ばすという意味で理想的で、常連になりつつある、西口のメトロポリタンホテルに至近のカジュアルなカフェ。日替わりのお得なモーニングセットがあるせいか、簡単に朝を済ませる海外の旅行者の方を、わりとよく見かける。ヨーロッパ系の人は、席が空いていても、ソファー席よりカウンターバーのような高い椅子の方に座ることが多く、若い方より中高年の落ち着いたカップル率が高いなぁとか、文章を書く手を休めて、観るともなく目に入る「日本を旅する人達」の背景にある物語を想像してみるのも楽しい。
さて、私はこうして、様々なカフェを巡り、お気に入りの「書斎」を幾つも見つけた。しかし、肝心の文章は、受講最終月に入った今でも、ご指摘いただく内容を活かせるまで理解できておらず、「コンテンツになる文章を書いて、合格するレベルを身につける」ことは、はるか遠い対岸にあるように感じて、誠に面目ない。
すでに、あきらめの境地に達しているような気がしないでもないが、今の私に出来ることは、結果はどうあれ「最後まで、チャレンジしつづけることのみ」、なのだ。
あの夏の日から、毎回月曜日に投稿すると決めた、自分への約束だけは守ってきたのだから。
チャンスは、あと2回。
お気に入りの書斎で、心を込めて、ペンを持とう。最後まで書き上げよう。
心地よく香る珈琲の湯気の向こうで、合格を告げる幸運の女神が微笑んでくれることを祈って。
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