3ヶ月の女は水を飲むことが下手くそだった
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記事:たいらまり(ライティング・ゼミ日曜コース)
20代の血気盛んな頃、私の恋愛は「3ヶ月目の壁」が鉄則だった。
最初は、好かれる立場で付き合いがスタートすることが多い。
1ヶ月目は幸せだ。興味を持ってもらえ、好かれ、大切にされる。
2ヶ月目には、好きでいてくれるその人に対し、私の熱がぐんぐんと温度を上げ始める。同時に冷静さを失い始める。
3ヶ月目、私は熱湯の中でグラグラとのぼせている。
もう最高—。運命の出会いってやっぱりあるー。この人に会うために生きてきたー! 幸せー! と、絶頂になった頃、相手からの連絡が途絶え始める。
そして、最後はなぜかいつもメールでピッと、別れを告げられる。
テンプレートのように必ず入力される文言。
「嫌いになったわけではない」
「君は悪くない」
「これからも頑張ってほしい」
いやー、傷つけないように紳士的な言葉選んでくれてるけど。要するに、
「好きではなくなった」
「思ったのと違った」
「今後は一緒に過ごしたくない」
ということですよね!?
……こうして3ヶ月目の壁を越えずに終了する。
29歳の冬、私はまた3ヶ月目の壁の危機に瀕し、女友達のミサを相手に不安晴らしのお酒を飲んでいた。
「また?」
ミサが呆れ顔で聞く。
「うん。また」
「またダメなの?」
「うん。多分。だって、もう連絡が1週間途絶えてる」
「だって、彼、まりのこと猛烈に好きそうだったよね!?」
「うん……」
「何したの?」
「何もしてない。 私もすごく好きになってきたから、そういう気持ち、ちゃんと伝え始めた……だけ」
「そう……ふうん………」
ミサが全てを見透かした目で私を見る。
「まりは、どんな水の飲み方する?」
唐突な質問に、答えを探すのに少し時間がかかった。
私はいつもどんなふうに水を飲んでいるか……?
「なんか、水ってあんまり飲んでないかも。時々、喉が渇いて飲む時は、つい一気に飲んじゃって必ずむせちゃう」
「それよ。それそれ」
「え? 何?」
「普段から少しずつ喉を潤してないから、むせるのよ。水の飲み方で恋愛パターンが分かるの」
ミサが言うにはこういうことだった。
私が、水を一気に飲む癖は、普段から渇きに気づいていないから。適当な水分補給ができていないから、急に水を飲んだ時に必ず喉で溢れてむせてしまう。恋心も同じように、適量がわかっていないから、恋愛が始まった時に急に溢れてしまうのだ、と。即ち、それが相手の男性にとってはとても重くなってしまい、私の恋心の洪水から逃げたくなってしまう。
「まりって、仕事好きで、お酒も強くて、ちょっと近所のおばちゃんっぽい親しみやすさがあって、そんな雰囲気を男の人は興味を持ってくれるんだと思うんだよね。でも、いざ付き合うと、なんかちょっと湿っぽい……、なんか重い、うざい、みたいな、さ」
なるほどー! って、今さら、自分が重い女だったと気づくなんて。水分補給の大切さも知らないなんて。もう直ぐ30歳になるのに。
……落ち込んだ。
そして、追い討ちをかけるように、翌日、3ヶ月目の壁はメールでピッとやってきた。
「最近、連絡できなくてごめん。別れて友達に戻りたいと思う。俺から付き合おうと言っておいて、ごめん。まりは悪くないし、嫌いになったわけでもない。ただ、なんか違う気がして。俺も仕事頑張るから、まりもがんばって。かげながら応援しています」
私という重い女に対する別れのテンプレートは、絶対この世に存在すると思う。
メールなんて送る人じゃなかったのに。こんな長文初めて送ってきた。
しかも、このメールで勝手に完全に「おしまい」ってなってるし。
電話で話すのも重いってことか。
まずケンカするとか、そんなこともなく、こんなにも急降下するものか。
私はそんなにずっしり重いのかー!!!
情けなくて、悔しくて、虚しくて、馬鹿みたいで、号泣した。
重い女なんて、自分が一番なりたくなかった女性像。
恋愛や男性に依存する人をかっこ悪いと思っていた。
だから仕事もがんばって、自立して、誰にも依存しない生き方をしてきたつもりだった。
なのに、私は結局、自分を受け入れてくれそうな人が見つかると、そこに依存していたのだ。
愛でも恋でもなんでもない、誰かに認めて欲しかっただけの私の承認欲求。それは、恋人にとっては、重石になっていただけ。
泣いて、泣いて、泣き続けた。
もう体内の水分全て出し切ったぐらい泣きまくって、メールを返信した。
できるだけカラっと軽い言葉を選んで。
「そんな気がしてたよー。私もその方がいいと思ってた。また友達としてもよろしくね。ありがとう」
涙も出し切り、精一杯の強がりのメールを送った後は、もう完全にもぬけの殻だった。放心状態のまま、水を飲もうとコップに水を注いだ。そして、いつものように一気飲みをしようとした時、ミサの言葉を思い出した。
「水の飲み方で恋愛のパターンがわかるの」
そうだった。水の飲み方から変えないといけない。
手に持ったコップの水を、今までにないほどゆっくりと丁寧に喉に流し込んだ。
水が体に染み渡っていくのが分かる。初めての体感だった。とても気持ちが良かった。
もう重い女にはならない。
もう、むせるような水の飲み方はしない。
もぬけの殻に染み渡る水分を感じながら、そう心に誓った。
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