やはり英語は話せた方がいいのかもしれない。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:中村公一(ライティング・ゼミ日曜コース)
「真面目に英語を勉強しときゃ良かったな」
社会人になって常々思う事だ。
私は大学を卒業した後、都内の某パチンコ会社に就職した。配属先は上野のアメ横に建っている店舗だった。いろいろ覚えることも多く大変だったが、中でも困ったのが、外国人観光客への対応だった。
私は、英語が出来ない。中・高・大学と、英語学習をおろそかにしてきたからである。
そのツケが社会人になって早速回ってきた。
上野のアメ横は、都内でも有名な観光名所である。毎日多くの外国人観光客も歩いている。彼ら彼女らにとって、ほとんど日本にしかない「パチンコ店」と言うものは、非常に物珍しいものに見えるだろう。だからよく、店内にフラッと入ってきては、写真を撮ったり台に座ったりする。店内の写真撮影は店舗ルールで禁止になっているので、止めてもらうよう言わないといけない。また、台に座ったら、どういう風に遊ぶのか教えなければいけない。
ここで、私の外国語能力の無さが災いした。ロクに英会話もできない私は、ただ
「NOピクチュア~。ぷりーず」
と、写真を撮る外国人に言ったり、
「パチンコ? イエ~ス。ココに、お金、INするの。IN。OK?」
と、台に座った外国人に遊び方の説明をしていく。
もちろん、これに大げさな身振り手振りも加わるのだ。こんな男ですら大学出の資格がもらえるなんて、日本はどうかしている。
私は現在この会社を退職している。パチンコの騒音や、外国人観光客へのインチキ英語での対応から解放されたのは素直に嬉しい。だが、実は今の会社でも、英語が必要になる状況になってしまった。
今年の三月に、私は実家の写真館に就職した。その三か月後には、中学校の修学旅行にカメラマンとして同行していた。
関東地方の公立中学校だと、修学旅行先はたいてい京都・奈良である。この学校も例外ではなかった。
学校写真は、写真屋の大事な収入源である。この店も、幼稚園や小中学校など、合わせて10校程の取引先を抱えている。そんな3歳から14歳までの年齢層を相手にして解ったことが有る。撮影は中学生が一番難しいと言う事だ。
まず、一部の学生の話だが、私たちを出入りの業者だと舐め腐っている。また、写真を撮られるのを嫌う学生も多く、撮り洩らしが許されない学校写真の撮影をする私達からすれば、非常にやりづらい。
私が修学旅行撮影でまず最初にやらないといけなかったことは、学生に好かれることと、学生に舐められないことだった。しかし、私はコミュニケーション能力が高いわけでもないので、学生たちと大して仲良くなれないまま一日目を終えてしまった。
そんな中、二日目に転機が訪れた。
修学旅行二日目は、学生たちが京都市内を班ごとに見学する予定になっている。
同行のカメラマンと打ち合わせをして、私は銀閣寺→二条城→東寺→八坂神社の順に学生たちを撮影していくことになった。
京都市内は外国人観光客であふれていた。それこそ上野のアメ横以上である。
そうした中で学生たちを撮影している時に、よく外国人から声を掛けられた。
私は一眼レフを2つぶら下げていて、カメラジャケットを着こんでいた。正に「カメラマンですよ」と、宣伝しているようなモノだ。
なので、「写真を撮ってほしい」と頼まれる回数が半端ではなかった。
観光名所をバックに学生たちの事を撮影しようとすると、外国人がやってくる。制服姿で団体行動をする学生は、海外では珍しいのか、一緒に写真を撮りたいと思う外国人は非常に多いのだ。
今回は八坂神社で、学生たちと写真を撮りたいと言う家族連れの外国人観光客に絡まれてしまった。
「これで撮って」と言いたかったのだろう。白人男性がスマホを渡してくる。仕方なく一緒に並んでもらう。
「さて、どうしよう」
私は自分の英語力の無さに再び悩まされることになった。できれば、
「はい、並んで並んで。それじゃ、さん、にー、いち! でシャッター切りますからね。良いですか?」
と、英語で言いたいところだ。しかし私はそんな事すら英語で言えない。
学生たちはニヤニヤした顔で私を見ていた。
「さてはこいつら、俺がどういう対応をするのか確かめようとしているな」
ここで下手な対応をして学生たちに舐められたら、まだ明日に残っている撮影にとんでもない悪影響が出る可能性がある。この年頃の少年少女たちは、一度相手を見下すとよほどのことが無い限りその相手を見返すことはしない。
だからここはヘマが出来ない。しかし私は英語が話せない。
ここで、私は捨て身の作戦に出た。
外国人の家族に対して、どういうタイミングでシャッターを切るかを伝えるのは必須である。これさえ言えればどうとでもなる。という訳で、私は一言
「3,2,1、パシャ! OK?」
とだけ言った。「3,2,1、と言うから、そしたらシャッターを切る」と言いたかったのだが、目の前にいる外国人には有難いことに伝わった。
それを見た学生たちは、
「おお……!」
と目を見開いていた。この対応は大成功だと確信した。
この修学旅行を経験するまで、私は今の職場なら英語を話す機会はないと勝手に思っていた。しかし、現実は甘くなかった。転職して三か月で英語が必要になってしまったのである。
「こうなったら、しっかり英会話くらいは勉強して、写真撮影時に意思疎通ができる程度の英語力は身に着けないとな」と思ったが、何もしないまま、いつの間にか12月である。
このまま何もしなかったら、また英語がしゃべれない状態で京都奈良に行く羽目になるだろう。
それはまずいので、取り敢えず英会話の本だけは買っておいた。
来年の初詣では、この本が役に立つことを神様に祈っているに違いない。
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