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「重軽の石」が教えてくれたこと。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:りんごまる(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「せっかく東京から来たんだ、『重軽の石(おもかるのいし)』を試していきなさい」
 
そう言うと老人は、大きな杉の樹木に覆われた、境内の裏手に向かって歩き出した。
何があるんだろう? とついて行くと、所々に綺麗な緑色の苔が生したとても年季の入った台座に、人の頭ほどの大きさの石が2つ鎮座していた。その横には所々が黒くなり、これまた年季の入った木の看板が立っており、「重軽の石」と書かれた文字が少し滲んでいた。
 
「願い事を思いながら、この石を持ち上げて御覧なさい。その時に、‘あ、軽いな’と思えばその願いは叶い、逆に‘あぁ、重いな’と思えば叶いづらいと言われているんだよ。さぁ、さぁ、そこに立って……」
 
そう言われるまま、私は渋々その石の正面に立った。
よく見れば、表面はゴツゴツというよりもなめらかで、これまでにも、うんとたくさんの人たちが、‘私は願いを叶えたいんだ’とか、‘僕の願いは本当に叶うんだろうか’とか言いながら、「うんしょ」と持ち上げてきたんだろうなと思った。
 
「重軽の石、たくさんの願い事を託されて……。君も何だか大変そうだね……」
 
そう思いながら、でも、願い事もしっかり唱えながら、私はがっしりと石を抱きかかえた。
 
「さぁ、力を入れて~」
 
嬉々とした老人の声に合わせ、脚を踏ん張り全身に力を込める。
「よしっ! せぇのぉ~~~!!」
 
「んーっ! あっ……!」
 
すこーしばかりが宙に浮かんだような感触はあったが、すぐさまズリッと落としてしまった。
「お、重かった……です……」
 
「そのようだねぇ……」
 
石は重たかった。なんだか見た目以上に重たくも感じた。
 
願いを叶えるということは、やっぱりそれほどに大変なことなのかしら……と、必要以上うなだれて、
「この私の願いは、とっても叶いづらいということですかね……」
と老人に向かい半泣きの顔で問いかけてみた。
 
「いやいやいや」
なぜだか老人は、首を横に振ってみせた。
 
『石が重たかったからって、叶わないということじゃないんだよ』などと、フォローが入るのかと思いきや、嬉々としながら台座のほうを指差し、
 
「ほら、そっちにもう一つある! それを持ち上げて御覧なさい」
と、再チャレンジを薦めてきた。
 
「そうか、この神社にはもうワンチャンスが用意されているのか」
 
そう思い、もう一つの石をよーく見てみると、明らかに先ほどと変わらない大きさ。
二つが並んでいるのをまじまじ見れば、なんだかこちらの方が少し大きい気もする……。
 
『結局また持ち上がらないんじゃないかしら……』
そんな疑念が頭をよぎった。
 
だがしかし、である。この老人が二度も薦めてくれるんだ、何か深い意味があるのかもしれない。いや、あるに違いない! 
『そうだ、もしかしたらこっちの石はとても軽いもので、「ほれ、軽々持ち上がったんだから、願いは叶うに違いないよ」なんて、ストーリー仕立てになっているのかもしれない』
 
私の頭の中でよくわからない妄想が繰り広げられ、いつの間にやら疑念は淡い期待へと変わっていた。
 
「よーしっ! もう一度、頑張ります!」
そう気合いを入れて、今度はもう一つの石を抱きかかえた。
 
ひんやりとして、なめらかな質感が手に伝わってくる。
 
「ではっ! せぇのぉ~!」
先ほどと同じトーンでかかる老人の声に合わせ、踏ん張りを利かせて全身に力を入れた。
 
「んん~~~っ! あっ……」
 
先ほどよりはうまく力が入って、もうちょっとだけ高く、石を持ち上げられた気がした。
でも、やはり見た目通り重たくて、すぐにズリッと落としてしまった。
 
「やっぱり、重かったですっ!!」
私の妄想空しく、事態は一切好転しなかった。
 
「あぁ、そのようで。残念だったねぇ」
そう答えた老人は、相も変わらずどこか嬉々とした様子だった。
 
『何だよ何だよ、私の願いは‘自分でも叶いそうもないな’って思っていたのに。さらにその上2度も‘叶わなそうだ’と石に言われてしまったのに。このじいさんは、もう……』などと、心の中で悪態を吐いた。
 
きっと、そんな気持ちが、私の顔に出てたんだろう。
老人は少しバツが悪そうに、頭をかきながらこう切り出した。
 
「いやいや、悪かったね。この石はね、実は持ち上げるのにちょっとしたコツがあるんだよ」
ちゃんと説明するからと、もう一度私を石の前に立たせて続けた。
 
「石をね、腕で抱えるんじゃなくて、お臍のほうへ引き寄せて。そうそう……」
 
老人の細やかなレクチャーを受けながら、再度持ち上げてみる。
「ふんっしょっ!」
 
なんと、先ほどとは打って変わり、そのまま二、三歩持ち歩けるくらいに石がちゃんと持ち上がった。『軽い』とは言えないまでも、先ほどの重たさとは随分と違って感じられた。
 
「何でこんなに違うんでしょう?」
素直なままに、老人に尋ねてみる。
 
 
「石とはすなわち、意思、なんだろうね」
 
 
「え? 駄洒落……ですか?」
 
「いやいやいや……」
笑いながら、でもちょっと真面目に、老人はこう諭してくれた。
 
「お前さんは、この石を、最初から全力で持ち上げようとしたかい? 私には持ち上げられないじゃないかと言ってどこか諦めていたり、石が軽かったらなんて変な期待をしたりしていなかったかい? 石は、意思。どうしたってこの願いを叶えてやるって思いがあれば、持ち上がるものなんだよ。つまり、お前さんがその願いを叶えるには、まだその気持ちが足りないって事を、この「重軽の石」は教えてくれているんだよ」
 
全く持ってその通りだった。
私の願いは、‘自分でも叶わないんじゃないか’と思っていた。この石には、それがお見通しだったんだ。
 
「でも、最後は自力であれだけ持ち上げただろう? だからお前さんの願いは、ぐっと頑張ればきっと叶うんだよ」
その神社を出ても尚、しょぼくれていた私に、老人はそう言って優しく微笑み「ちょっと休みましょうか」と、近くの茶屋で美味しいあんみつをご馳走してくれた。

‘願いが叶うかどうかがわかる石 ’は、‘願いを叶える意思があるか’を図る石。
叶えたい願いを見つけたときは、あなたも「重軽の石」に試されてみてはいかがでしょうか。

 
 
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2018-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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