メディアグランプリ

巨大児のホロスコープ


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記事:猪瀬祥希(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
4,250グラム。
これは、私が生まれたときの体重だ。
 
先日、占星術の方と会った。別に、これといった悩みがあったわけではない。
ただなんとなく、これからの人生がどんな流れになるのだろう。そんな漠然とした曖昧な理由で申し込んだ。
事前のやりとりの中で、生年月日と生まれた時刻が必要だと言われた。私が生まれたときの星の位置関係から、色々なことを読み取れるらしい。その仕組みはよくわからないが、出生時刻があればより正確に読み取ることが可能だという。
しかし、自分の誕生日を忘れたことはないが、時刻まではよく覚えていない。夕方だったような気がする。その程度だ。
 
母親に出生時刻を確認してみたところ、16時48分だとすぐに答えが返ってきた。さすが母親だけのことはある。
出生時刻が判明したところで、少し疑問に思ったことがある。この時間は、いったい何を基準に決めているのだろう、と。
特に自分の場合、帝王切開で産まれているのだ。そのため、通常のお産の基準を適用することはできないはず。いや待てよ、そもそも通常のお産は何が基準なのだろうか。どの瞬間を基準にして、出生時刻を決めているのかさっぱりわからない。
 
「産院では、開院以来の巨大児だって話題だったの」
出生時刻は忘れていたが、出生体重はずっと忘れずにいる。それは、幼い頃からどれだけ巨大児だったかということを何度も聞かされていたせいだろう。
4,250グラムというのは、標準体重からすると生後一ヶ月。生まれてすぐにその大きさだったのだから、その当時の産院としてはかなり話題だったのだろう。
出生時に限らず、体重の基準は体重計だ。そこに、曖昧さはない。
そして宇宙の星の位置にも、曖昧さはない。年月日と時刻がわかれば、その時の惑星や星座の位置を正確に割り出すことが可能だ。
 
だからこそ、占星術には正確な出生時刻が必要なのだろう。時刻が曖昧では、生まれたときの正確な星の位置を割り出すことができないからだ。
それなのに、自分で調べた限りでは出生時刻の決め方は実に曖昧だ。頭が出たとき、産声を上げたときなど、基準についていくつかの流派があるようだ。他にも、生まれたときに確認した時計が正しい時刻を指していかどうかなんて、誰にもわからないのだ。身も蓋もない言い方ではあるが。
調べていくうちに、自分の出生時刻は本当に16:48なのだろうか、と思えてきた。
しかし、いくら調べたところで基準そのものがないのだ。そもそも、いくら疑問に思ったところで今さら正確な時間がわかるわけでもないし、万が一わかったところで変更できるわけでもない。
仕方なく正確な出生時刻を調べるのをあきらめて、母親から聞いた時刻を占星術師に伝えた。
 
「これが、お生まれになったときの星の位置です」
占星術師が手にするタブレットに映し出されていたのは、私が生まれたときの星の位置。いわゆる、ホロスコープと呼ばれるものだ。素人の私が見たところで、いったいどこに何があってそれがどんな意味なのかはさっぱりわからない。
彼女はホロスコープを見ながら、丁寧に淡々とこれまでの自分とこれからの自分に関するキーワードを次々に言葉を紡いだ。
 
自分は何を基準に生まれたとされ、その瞬間はいったい何時何分だったのか。
占星術師の話を聞いているうちに、そんなことはどうでもよくなっていた。
これまでの人生を振り返ってみると、曖昧なのは出生時刻だけではないことに気付いた。
明確な基準もなく決めた分岐点が、後になって意味のある決断だった。
なんとなく始めた趣味や勉強が、思いがけない人や仕事の出会いに繋がっていた。
これまで起きた大きな人生の流れが、知らず知らずのうちに星の位置と符合している。それが、占星術師の言葉によって次々に明らかになっていったからだ。
そもそも今回の占星術だって、特に何の悩みもないのになんとなく決めたのだった。
 
「占星術をどう使うのかは、聞いた人次第なんです」と、占星術師の彼女は言った。
星の位置に、良し悪しはない。天候で言えば、晴れているのが良い天気とは限らないのと同じことだろう。職業や状況によっては、雨が良い天気だとする場合もあるのだ。
だから、良し悪しは自分で決める。というより、良し悪しを決める必要なんてどこにもないのかもしれない。
自分が生まれた年月日にも時刻にも体重にも、良し悪しはない。事実として、ただ存在しているだけのこと。良いにしろ悪いにしろ、何か意味を持たせる必要はまったくないのだ。
 
ちなみに、現在の体重は出生体重の約20倍。
今まで大きな病気もなく、健康で丈夫な身体に産んでくれたことを心から感謝したい。
 
ありがとう。
 
 
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2018-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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