メディアグランプリ

4人姉妹


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記事:荒野万純(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
私は4人姉妹だ。
しばしば「きょうだいは?」と尋ねられて、「女ばかりの4人姉妹」と答えると、大抵驚かれたり、珍しがられたりしながら、「若草物語みたいね」と言われる。
苦笑いしながら私は答える。「そんなお上品なものじゃないけれどね」
4人姉妹は文学作品の題材には都合が良いのか、向田邦子の「阿修羅のごとく」や谷崎潤一郎の「細雪」にも登場する。
 
長女の私から次女、三女までは年子、四女は私と9つ離れている。
全員同じ病院で生まれているので、お世話になった先生方は私たちをよく知っている。両親が末っ子に男の子を期待していたのかは定かではないが、四女が生まれた瞬間、分娩室が一瞬、しーん、となり、先生がこう言ったそうだ。
「5人目、頑張りましょう」
 
高校生の時だったか、生物の時間に4人子供が生まれると、両親が持つ遺伝的形質が全て発現するのだと習った。その真偽は定かではないけれど、姿かたちにしろ、性格にしろ4人ともどことなく似ていながら、全く違う。
そして、4人も姉妹がいれば、そこには小さな社会が形成される。協力、争い、妬み何でもありだ。
 
生存競争はなかなかに厳しく、こと食べ物に関しては特別だ。基本は何でも名前を書くこと。1人に1箱ずつ、キャラメルだの、アーモンドチョコレートなどのお菓子をもらったら、まず手にするのはサインペン。目につくところに大きく名前を書いてからしまっておかないと、所有権を主張するのが困難になる。そして、しまう時には必ず残っているお菓子の数を数えるのだ。それでないと、いつの間にやらネズミが現れてなぜだかお菓子が少なくなっていることがある。今だから白状すると、魔が差して私がネズミになったことも無い訳ではないのだが……。
いつでもじゃんけんで平等に分けるが暗黙のルールだった。どんなに美味しいお菓子も独り占めは許されない。
私たちの子供の頃の夢はお菓子の缶を一人で抱えて食べることだった。
 
それぞれの立ち位置によって、その苦労の種類も違うのだけれど、長女の苦労の筆頭は、一番最初に親に立ち向かっていくことだ。進学にしても、恋愛にしてもパイオニアとして満身創痍になって妹に道を作る。私が作った道を痛い思いをせずにのうのうと歩いてくる妹たちを見ると羨ましくあり、腹立たしくもあり……。
 
もう一つは追い抜かれる痛みを受け入れること。
子供のうちは1年の年の差でも成長の度合いには大きな差がある。そして、親からもいつも「おねえちゃんだからしっかりなさい」とか「お姉ちゃんだから妹の面倒を見なさい」などと言われながら育つから、当然、妹たちよりも立場が上で、色々なことが妹たちよりもよくできると思い込んでいる。
ところが、ある日、妹たちに追い抜かれる日がやってくるのだ。
人間みんな得手、不得手があるのだから姉だからと言って、全てが出来る訳ではない。妹の方が上手に出来ることがたくさんあるのだ。この事実に気がついた時に、「妹よりも劣っている」ことを受け入れるのに心の痛みがある。
そんなこともあって、一人っ子だったら良かったのに、妹なんかいらないと思ったことは数知れずだ。
 
月日が経って、4人の小さな社会が7人の国際社会に変貌した。
私の夫は日本人だが、次女がデンマーク人と、四女がスイス人と結婚したので、私にはデンマーク人とスイス人の義弟がいる。「縁は異なもの味なもの」とはよく言ったものだ。まさか、遠いヨーロッパの人達が自分の家族になるなんて思いもよらなかった。家族全員が集まると英語で話さなければいけないという不思議な世界が出来上がった。
 
次女の結婚式にはニューヨークに家族全員で行った。
日本から着物をスーツケースに詰めて、1週間の旅程だったのにその荷物は車一台に乗り切らずに、レンタカーでバンを借りて空港に向かった。
式の日、白いウエディングドレスを着た妹を真ん中に、左右に着物を着た私と三女と四女が並んだ時には、それまで見たことのないような数のカメラのフラッシュが一斉に光って、思わず「私たち芸能人?」と妹たちと囁きあった。
 
四女の結婚式はスイスで。バラの綺麗な庭園がある小さなお城を借り切っての結婚式だった。日本みたいに花嫁さんの世話をしてくれる人がいないので、妹がウエディングドレスを着るのを私が手伝った。
お城の庭で神父さまに挙げていただいた式はとても印象深い。その妹夫婦には今では一人息子がいて、バイリンガルに育つ様を家族みんなが見守っている。
 
4人姉妹は世界に散らばって、遠くに離れて生活をしている。物理的には遠くてなかなか会えないけれど、そんなに遠くにいるような気がしないのだ。
東日本大震災の時などは、遠くにいかたらこそ助けてもらったこともある。
日本にいる家族には全く電話が通じなくてどうしようかと思っていたら、一番初めに連絡が取れたのは、その当時、アフリカに住んでいた次女だった。妹の声を聞いた時に、ほっとしたのを今でも覚えている。
 
子供の頃には、一人っ子に憧れたけれど、大人になった今は、4人の姉妹がいてよかったと心から思う。父や母が病気になった時も、実家の売却や両親の引っ越しがあった時も姉妹の力は本当に心強かった。
これからも色々あると思うけれど、親愛なる妹たち、よろしくね。

 
 
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2018-02-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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