入社6年目。「辞めたい」と思った会社に、私は未だに辞表を出せないでいる《プロフェッショナル・ゼミ》
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記事:よめぞう(プロフェッショナル・ゼミ)
「これ、お前の同期だよね?」
「なんで辞めたの?」
うーん、そう言われましても……ねえ。
上司が指差すA4サイズの「これ」をみると、よく知る人の名前がそこにあった。またひとり、同期がいなくなった。理由は知っていたとしても、わざわざ話す必要もないので「よくわかりませんけど、いろいろあったんじゃないですかねー」なんてテキトーに返してそれなりで話を終わらせる。こんなやり取りはこれで何回目なんだろうか。
営業職として入社した時15人いたはずの同期は半分に減っていた。私がそうだけど、会社に在籍しているけれど営業じゃなくなった人もいるので実際営業職として生き残っているのは片手に収まる人数になっていた。
大卒で就職して早6年……育児休業で1年ほど休んではいたものの、なんだかんだで私は転職をすることなく、今の会社に「居座って」いる。「残っている」じゃなくて、厚かましく「居座って」いるのだ。本当は、同期の誰よりも「こんな会社辞めてやる」ってずっと思っていた。それだけじゃない。結婚や出産に伴うライフスタイルの変化、仕事を続ける上での自分自身の身心の状態など、おそらく同期の中の誰よりも「辞めるチャンス」というものに多く遭遇していたのは間違いなかった。それなのに、その「チャンス」をすべて棒に振って、今日の私はゆるやかに「おつぼねさん」への道を歩もうとしている。これで本当に良いんだろうか? 私の選んだ道は本当に正しかったんだろうか?
入社当時、20代前半だった私の目の前には「三十路」の関所が立っている。30歳になるというのは、20歳になるのとは全く違う気分だ。20歳になった時、酒好きの両親と一緒に酒が飲める喜びとか、これから自分の可能性がどんどん広がることへの期待とか……「不安」なんてものは一切なかった。けれども、10年もの月日は私にたくさんの「幸せ」を与えてくれたのと引き換えに、たくさんの「守らなければならないもの」もたくさん増えていった。そして、ノリと勢いだけでなんでもやれたはずだったのに、いつしか「石橋を叩いて渡らない」守りの姿勢になっていた。だから、どうしても先が見えない未来に対してとにかく「不安」で仕方がなかった。自分の選択が正しいという自信もなかった。私も他の同期と同じように「転職」するのもひとつの選択ではあった。それでも未だに辞める事なく今の会社にしがみついている。
辞めていった同期と私の差……私には「辞める勇気」がなかったのだ。
「売れない営業マン」の肩書きを背負って仕事をするのは決して楽なことではない。ミスが起きると、させてもらえる仕事はなくなり雑務をさせられることが増えた。掻き入れどきにも関わらず、お茶を出して1日が終わることだってあった。それでも目標値が下がることはなく、目の前が真っ暗になることはよくあった。誰かに相談しても「まあ、君がいるところは仕方ないよ」だとか「こういうのは時間が解決してくれる」だとか、解決の糸口になる光は見えなかった。それでもなんとかやれていたのは「私なんか」から契約をしてくれる人がいてくれたからだった。こちら側が提供する側なはずなのに、お客様に助けてもらったことの方がとても多かった。そんな私より「売れている」同期が辞めていくのを知る時、理由を知るまではいつも不思議で仕方がなかった。
「あんなに売れていたのに、もったいないな」と思うこともあった。
後から話を聞けば、ライフスタイルが変わったり、見えないところでとても苦労して疲弊してしまったり、新しいことに挑戦したりと、それぞれがしっかりした「軸」を持っていた。しっかりとした「軸」があったからこそ、この人たちは「売れていた」んだ。そう思うと、自分がとても惨めに思えてきた。私にはそんなにしっかりした「軸」を持っていなかった。だから、周りの目が気になって何もできない。ミスをしても「次頑張ろう!」とはなれず「もし、またやってしまったら……」と怖くて身動きが取れない。もちろん、いろんな外的要因があるのもそうだけれど、それ以上に私自身がブレない「軸」を持ってさえいれば、ここまで落ちぶれることもなかったはずだ。結局は誰がなんて言ってこようと、自分がブレなければどうってことないのだ。だから「もったいないな」とは思いこそすれど、本当は羨ましくて仕方がなかった。みんな、会社に必要とされているのに「辞める」という選択をした。その姿がかっこよく、眩しく見えた。一方で私は出産を機に「一度離れざるを得ない」時がやってきた。もちろん、私みたいに「お荷物」が離れても惜しまれることはなかった。むしろ、私が残した「置き土産」を残りの人たちが「負担してくれている」という事に感謝すべきだと言う人もいた。おっしゃる通りだ。そして、とうとう「辞めたい」と思っていた仕事から一瞬でも「解放」されたはずなのに、心のどこかで満たされない自分がいた。
悔しい……
自分、ちかっぱかっこ悪いやん。
自分がどれだけ「頑張った」と言っても、結果がないと評価は決してしてもらえない。「結果がない」奴が何を言ったところで相手にはしてくれないのだ。「必要とされてない」というのが悔しくて仕方がなかった。私だって、少しは惜しまれたかったし、本当の意味で「必要」としてもらいたかった。休んでいるうちに、フェードアウトして「いなくなる」ことも一瞬よぎったけれど、それ以上に「このまま辞めてたまるか」という思いの方が圧倒的に強かった。どうせ辞めるなら、私の耳に入ってこなくとも「アイツは使えん奴やった」というよりは「アイツはよく頑張っていたよ」って言われたい。家庭の都合で営業職からは離れることになったけれど、違う現場には戻ることになった。仕事内容はガラッと変わったけれど、あの時感じた「悔しい」思いが私の「軸」になって営業職の時以上に、限られた時間の中で奮闘している。
「いやー、結構助けてもらっているよ」
なんて言ってくれる人も現れた。私の今の仕事内容は評価をするには難しい業務内容なだけに、この「助かっている」という言葉に励まされたり、助けられたりしている。褒められるのはどこか「こそばゆい」気もするけれど、待ち望んでいた「必要とされている」感に満たされて、とても幸せな気持ちになった。そして「辞めてたまるか」と張り詰めていたはずだった会社へ行くのがいつの間にか「楽しく」なっていた。そんな時だった。
「天狼院で働きたい人、募集してますよー」
スクリーンの画面越しに、天狼院書店の店主「三浦さん」が手を振っている。
こうして私が文章を「書く」勉強をしている「天狼院書店」が人材を募集している。胸の奥がザワザワとした。休んでいる間に始めた「書く」ということ。
大変だけど、それ以上に楽しい。
20代前半だったら
独身だったら
子供産んでなかったら
迷わず「転職」したい! と思うところだ。
スタッフさんが魅力的で、みんなそれぞれの向かう目標へ切磋琢磨しながら足を引っ張ることなく戦っている。キラキラしているというよりは泥臭く頑張っている姿がとにかくカッコよくて素敵なのだ。そんなところで働けたらどんなに良いだろう……
でも、三十路を目前にした子連れ兼業主婦の私には、そう簡単に今勤めている「辞める」という選択肢を選ぶことができなかった。仕事が楽しい、というのはもちろんある。けれども、安定した収入や家族との時間、これらを犠牲にしてまで転職を決意する勇気がなかった。でも、それも建て前。就業のことなどは、実際に詳細を直接聞いたわけではない。私は「やっぱり使えない奴」に逆戻りをするのが怖いだけなのだ。「書く」スキルは全然ダメだし、元々とてつもなく不器用なのに、何かを生み出す仕事なんて全く向いていないと思った。それに、せっかくのご縁で知り合えた素敵な場所が「辛い場所」になるのも怖かった。結局のところ、大事なところは何一つ変わってなんかいなかった。「臆病」は文字通り「病気」みたいなもので、もはや「持病」になってしまったものを簡単に治すのは難しい。
けれども「臆病になって書いてくださいねー」という三浦さんの一言で、雲間から光が差したような気がした。
ああ、臆病でいていいんだ……って。
これで大丈夫なのか? 本当に良いのか? と試行錯誤しながら「書く」ことが大切だそうで、もちろん「書く」に限ったことじゃなくて「生きる」上でも「臆病」になれるからこそ得られる「安心」ってあるのかもしれない。いざ転職をするために辞めたとしても、そもそも雇ってもらえるのかもわからないし、現状天狼院書店で必要不可欠な「書く」力なんて全然ない。もちろん今の仕事に「やりがい」もあるから、なんだかんだで続けているかもしれない。「キャリアウーマン」としての先行きは全く見えなくて不安でいっぱいだ。けれど、それでも三十路の関所を笑顔で通過できるように、その先に待っている「明るい未来」に少しでも近づけるように……
まずは「今」をがむしゃらに生きてみようと思う。
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