メディアグランプリ

お風呂に入って「あったか~い」と思えるまでに、なが~い時間がかかっていたという驚愕の事実


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:一条かよ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
「っあ~~~ぁ~~~……あったまる~……」
一日のほぼ終わりのころ、湯舟に浸かっての、私の第一声。
今のような寒い時期には、その声を発する瞬間の思いが、より色濃くなる。
ありきたりだが、「日本人でよかった! 」と心の底から思う瞬間でもある。
 
あなたは、お風呂に入って、
「あったか~い」
と、ちゃんと思っているだろうか?
 
今、この私の問いに、心なしかドキッとしたような、または、
「そんなの当たり前だ!」
と反抗すらしたくなるような気持ちの高ぶりを覚えた方も、少なからずいるだろう。
 
その微細な感情の揺れは、いったい何からくるのか?
そんな、一見意味のないような問答にこそ、真実が隠れていたりする。
なんていうことも、あるのかもしれない。
 
「お風呂に入ってちゃんと、“あったかいな”、と感じていますか?」
その問いに、「当たり前だ」と、半ば憤慨しながら心の中で返事をしていたのは、他でもない、この私だ。
 
なぜ憤慨するような気持ちが起きていたのか。
そんなことは、疑問にすら思っていなかった。むしろ、そんな気持ちが起きた、という事実を認識もしていなかった。
それを認識することが、意味があることだとも感じていなかった。
 
「今を生きよう」
そんなフレーズが流行っていたのはいつ頃だろうか。
自分探しにいそしんでいた私は、自己啓発セミナーに出ては、そんなフレーズを目の当たりにし、
「よしっ! 今、今、今に集中だ!」
と、毎回鼻息荒く、セミナー会場を後にしていた。
 
しかし、いざ日常の生活に戻ると、どうやって
「今を生きる」
を実践したらよいのか、分からなかった。
 
「今に集中するって……今って……今って言ってるうちに、今はもう過去になってて……じゃぁ“今“っていつなの?」
そんな答えの出ない、禅の公案のようなやりとりを一人繰り返し、張り切り、満ち溢れたあのやる気はつかの間、空気が抜けてしぼんでいく風船のごとく、一瞬で気持ちが萎えてていくことを経験するのも、一度や二度のことではなかった。
 
自分探しをきちんと卒業した感覚があったわけではなかったが、なかなかその答えが見つからないことに、諦めの気持ちも出てきていた。
 
そんな時期からしばらく経ってのこと。
ひょんなことから出会いのあった方の話を聞いてた時だった。
 
「お風呂に入ってちゃんと、“あったかいな”、と感じていますか?」
 
話の途中で、そんなことを言われたことがあった。
お風呂に入るんだもの、あったかいのは当たり前のことではないか。この人は何を言っているのだろう、と不思議でならなかった。
 
「案外私たちは、その瞬間感じていることを、きちんと“実感しよう”とはしていないものです」
 
続くその言葉を聞いて、それまでのふてくされた態度はどこへやら、ハッとさせられている自分を感じていた。
そしてなぜだか何となく、バツの悪さも感じていた。
直前までの、自分の態度を省みるような気分になったのかもしれない。
 
そのバツの悪さからか、その後の話はあまり覚えていないのだが、私は、だまされたと思ってやってみよう、とは思っていた。
「お風呂に入ったあたたかさを、ちゃんと実感してみる」ことを。
 
ちょっとアホらしいな、とも思った。
頭だけで考えると、あったかいことが分かっているのに、それをわざわざ「あったかいなー」と思ってみることに、何の意味があるのだろうか、と思っていたからだ。
 
しかし、どうだろう。
実際にやってみて、私は、非常に驚いたのだ。
 
カラダ足先からあごの下までが、ちょっと熱いかな、と感じるぐらいの温度のお湯でしっかり浸かって、疑う余地もないほどの「あったかさ」に全身が包まれる。
 
「あったか~い……」
そう声に出し、お湯が触れている肌の表面の全てが感じている、じわじわと染みてくるようなあったかさにも、意識を向けてみる。
 
それは、ほんの数秒の間のことだった。
しかしその、たった数秒のことが、なんと永遠に感じるようなあったかさっだたことか。
 
人生の半分は過ぎたであろう私の人生において、こんなにお風呂に入ってあったかいと感じたことは、未だなかった。
なんてもったいないことをしてきてしまったんだろう、という後悔の念すら湧いた。
 
もっと驚いたことは、自分がこの、当たり前に感じられる「あたたかさ」を、ちゃんと感じ取ることができていない、という事実だった。
 
その事実を突きつけられた私は、ある種の深い、ショック状態にもなった。
 
その時の「あったかさ」は、驚くべきものだった。
それは、単に「あったかい」と、温度的な感覚を表現するだけでは、到底物足りないような感覚ものだった。
 
カラダが感じているあったかさを、心でも同時で感じる、そしてそれを口に出す。
そうなった時に感じたのは、「あったかさ」の実感を通して得られるのは、「あったかいのだ」ということだけではなく、その感覚の先にある膨大な量の何かである、とことだった。
 
その何かが、実は残念ながら、明確に分かったわけではない。
分かっていないというよりは、言葉として表現に至らないのだ。
何か、とてつもなく大きな、膨大な量の情報を、その時私は感じ取った。
それは確かだった。
 
ただそれを説明してくれと言われても、言葉としては出てこない。
もどかしい限りだが、今の私には、ここまでの説明が精いっぱいの所なのだ。
しいて表現できるとすれば、希望に満ち溢れた、未だかつて遭遇したことのない喜びのような、誇らしさのような、深い深い何か……。
 
その気付きは、その後の私の毎日を、大きく変えた。
 
身体や心が感じたことを、改めて実感しなおしてみる。
その先には、何かがある。必ずある。
そうしてそのセンサーは、どんどん精緻になっていく。
今までは「ない」と思っていたものが、「掴めていない」だけだった、ということが分かってくる。
 
気が付いたら私は、毎日「あったか~い」お風呂につかりながら、今の一瞬一瞬を掴もうとしながら、生きている。
 
もしかしたらやっと、「今を生きる」ことに、多少なりとも触れられているのかもしれない。

 

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2018-02-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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