コーヒーは飲むよりも現像液にした方があなたの記憶もセピア調
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:本多俊一(ライティング・ゼミ平日コース)
「君の淹れるコーヒーは日によって味がまるで違うね」とあの人に言われた。
そうかな、豆は特にいつもと変わらず一緒なのですけどね……賞味期限はちゃんと守ってるし。
非難されているわけでもなさそうな言い回しをどう答えてよいものかと迷いながら適当な返しをする。
「いや、そうではなくてもっとこう、感情の起伏のような波を感じるよね。もちろん豆の種類や焙煎の具合、お湯の温度や抽出時間など要因はいろいろあるだろうけど、もっと根本的なところの味わいかな。たとえるなら君がSNSに日々上げてる写真のように同じものがないような感じ。もっと言えばデジタルじゃなくてフィルム写真のようなアナログ感……そんな生っぽい雰囲気を感じるよね」
「タイムラインを写真で振り返るように、それが記憶をたぐる要素としてこのコーヒーの味や匂いも記憶のフックになり得るとしたらこれもまた今日の一枚……いや、一杯か」
と付け加える。一体なんのことか測りかねていると。私の頭の上のハテナが見えたのか、苦笑しつつ「毎日を何気なく過ごしているとしても思い出したり考えたりできるきっかけはいろんなところにあるってことさ」「考えてみれば写真はコーヒー的であると言えて、コーヒーもまた写真的と言えるかもしれないよね」などと言う。
なんてややこしいことを言うのか。
でもたしかに自分はほぼ毎日スマホでなにかしら写真を撮ってネットに投稿しているし、コーヒーも毎日飲んでいる。コーヒーは主に仕事をしながらのシーンばかりだけど、自宅だったりカフェだったり、自分が淹れるものやお店の人に淹れてもらったものとか、1人だったり数人とだったり大勢とだったりさまざまな場面が思い浮かぶ。
いい思い出もあれば苦い思い出もあった。
達成感のあった日は味わい深くて、一緒にちょっと奮発して高めのケーキを食べた、とか。
どうも上手くいかなくて悔しい思いをした時は、やたら苦くて、注意力も散漫で注いだばかりのことを忘れていきなり口をつけたら舌を火傷した、とか。さまざまなシーンを振り返ってみれば自分にとってコーヒーという存在は大きいのかもしれない。
日常を取り巻くさまざまなコトの中で記憶の引き金になるアイテムは人によってきっといろいろあるだろう。自分にとってそれはコーヒーがそのひとつであるということで。加えて自分自身が記憶を結びつけているそんなコーヒーを誰かが一緒に飲んでいているとしたら、その感覚を共有していることにもなるのかなとも思えて、一杯ごとの存在が大切に思えてきた。
そしたら今日のコーヒーはどうですか? 苦いですか? まろやかですか? ふと先程の「味がまるで違う」が気になって聞いてみる。
「どちらかというと少しムラっ気があるかな。なにかに迷っているか悩んでいるのか、そんな感じがする」
なるほど。我ながらわかりやすいのかもしれない。確かにここ数日はプレゼンのアイディアがまとまらず悶々としていた。納得すると同時にその事実を実感することで自分の中になにかが受け止められたのか、頭の中のイメージが少しクリアになったような気がした。
コーヒーから見えてくる自分という存在の形。
飲んでしまえば自分の中に消えてしまう。それが身体の中に吸収されて蓄積されている目には見えない存在であったり、まして思い出なんてものはキレイになるものだ。そんなものだとしても良いシーンはできるだけ長く感じていたい。でも冷めてしまったコーヒーは美味しくない。最初からアイスコーヒーだったら許せるのに。いや、アイスコーヒーでも氷が溶けて味が薄れてしまってぬるくなったらやっぱり美味しくない。
適温を味わいたいものだけど、日常が平穏過ぎるのも面白みに欠けるな、と思ったりもする私はつくづくわがままな生き物だなぁと思う。
この感覚をもっと具体的にする方法はなにかないのだろうか。写真のようなものだと言うなら印画紙に焼き付けるように物質的に残すことはできないのだろうか? そんな質問を投げかけると「コーヒーを使ってフィルムの現像液の代わりにもできるよ?」と教えてくれた。プリントした紙をコーヒーに浸して色味や質感を演出するという手法もあるらしい。コーヒーだけでなく紅茶やビールでもワインでも、似たようなこともできると。
色がセピア調になったりすると懐かしさを感じるのはもしかしてそういうことなのか……そこに香りがつくならなおさら感慨深いかもしれない。それはぜひ額に入れて壁に飾ってみたい。時系列に並べてアルバムに納めてみても良いかもしれない。こういうのはデジタルではできないことだ。
そんなことを考えながら明日は今日よりも少しだけ丁寧に淹れてみようと思う。
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