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それは、冬のせいだ。


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記事:白樺いつき(ペンネーム)(ライティング・ゼミ ライトコース)

 
 
「肘の関節が痛むけれど、寒さのせいかしら」
「うん、そうかも。今年は特に寒いしね」
「早く暖かくなってくれるといいんだけど」
「そうだね。今は、お風呂で温めたりして冷やさない方が良いかもね。私も前に痛めた膝がいまひとつだな……」
 
2月の寒い日、私は母と話をしていた。母は働き者のために、身体を酷使しがちだった。家事や家庭菜園などに集中しがちな事に加えて冬の寒さで、肘の関節が痛むようだった。寒い地域の生まれだが寒さに弱く、毎年耳などに霜焼けを作っているくらいだ。寒波の影響などで冷え込んだこの冬の寒さは、一層身に染みるのかもしれない。
 
そして私は、学生の時の部活で痛めた、膝の調子がいまひとつだった。歩くと違和感や軽い痛みがあり、膝の裏を手で押したくなるような時もあった。寒さで膝周りの筋肉が強張ったりしているのかなと軽く考えていた。湯船に浸かりストレッチをして、できるだけ歩きやすいスニーカーを履くようにした。
 
関節の痛みは、冬のせいだった。
 
2月が過ぎ、3月になった。少しずつ寒さが和らいできて、なんとなく膝の調子も良いような気がしてきた。
 
普段通勤で通る駅ビルも、すっかり春物に入れ替わっている。押入れの奥から引っ張り出した春物のズボンが痛んでいたので、新しい物を買おうと某ショップへ向かった。何回も色や柄違いで買った事があるズボンがあるので、今回もそれにしようと決めていた。少し細身で、すっきり見えるのが良い。早速、商品を手に取り、試着室に入った。私は必ず、試着をして買う事にしている。これが良いと思って手に取ったものの、試着してみると何かイメージと違う、となる事が多々あるからだ。試着せずに買って帰り、家で着てみたところ、イメージと違う、サイズが合わない、持っている物と合わない、などの理由で泣く泣く返品に行った事もある。
 
そのショップは、試着室は入り口にスタッフがいるが、中はセルフサービスのようで、気が楽だ。見てもらいたい時や、いろいろと教えてもらいたい時は、スタッフが試着の前後に声を掛けてくれるようなショップが助かるが、今回はすでに買う事がほぼ決まっているし、仕事帰りだ。さっと用事を済ませて帰りたい。コートやマフラーを取って、試着してみた。
 
「ん?」
ズボンは履けたものの、身体のラインが強く出ているように感じる。ああ、少し太っちゃったかな。しょうがない。ひとまず今回は、1つ大きいサイズを買って帰ろう。そう思ってズボンを脱いだ。ズボンと一緒に、冬の間は毎日していた腹巻も足元に落ちた。
 
そう、それは冬のせいだった。毎日していた腹巻は、目隠ししならぬお腹隠しをしていて、変化に気づかせなかった。
 
腹巻で隠れていたお腹が、明るみになった。試着室の大きな鏡に映った私のお腹は、いつのまにか大福のようにふくれていた。それは、某スポーツクラブのCMに出てくる、before画像のようだった。
 
私は密室の試着室の中で、自分の目を疑った。
「これが自分のお腹……」
 
手でお腹を触ってみた。目の錯覚ではなく、そのふくれたお腹は、私の物だった。少しの間、途方にくれた。その後、ズボンを買うという当初の目的はとうに忘れ、さっさと品物を元のあった場所へ戻して、帰路に就いた。
 
太った原因は、検討が付いている。運動不足と食事だ。10代の頃は運動部で毎日のように動いていた。20代も遊びくらいのレベルで、身体を動かしていた。それが30代に入り、仕事関連の用事や身体を休めるという名目で、運動から遠ざかっていた。知り合いから誘われた事もあってヨガに通い始めたが、少々アクロバティックなポーズを練習している時に怪我をしてしまい、この冬の間はお休みしてしまっていた。
 
食事は、仕事の日のお昼が外食で、お昼休みの時間が決まっているために、早食いになる事も多かった。量が多く出てきた時も、全部食べないと作ってくれた人に申し訳ないのではと、少し無理をして食べきる事もあった。
 
実際に現実を直視すると、少し笑いが出てきた。ああ、こんなに太ったの、生まれて初めてだ。こんなお腹に、私もなっちゃったのかと。ありがたい事に今までダイエットとは無縁だった私だが、とうとうチャレンジする機会がやってきたようだ。
 
この状況に、なぜか私はさほど落ち込んでいない。もしかしたら、身体の変化をうすうす感じていたのかもしれない。むしろ、身体を動かす事が楽しみになっている。タイミング良く、知り合いにおすすめのエクササイズを教えてもらい、また他の知り合いに健康関連の話を聞いたばかりだ。
 
寒さが和らいできて、春が来て、夏が来るまでには、少し身体が軽くなっていたい。きっとその頃には、心も軽くなっているような、そんな予感がしている。
 
 
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2018-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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