出来事のとらえ方は自分次第
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記事:永輝(ライディング・ゼミ平日コース)
1年前、娘は病院のベッドにいた。
1か月前以上前から準備し、練習してきた保育園の卒園進級式に参加できなかった。式の1週間前からはあと何回寝たら、本番になると数えていた。それだけ楽しみにしていたのに、前夜に熱を出した。熱を出しただけならよかったのだが、ひきつけを起こした。
意識もうろうとし、私や妻の呼びかけにも反応しなかった。
救急車が到着するまでの10数分間が1時間以上に感じるほどだった。
総合病院に搬送されてから、意識がはっきりしてきたものの、経過観察のためそのまま入院することに。
意識は戻ったものの、点滴の影響からか体調が落ち着き、そのまま寝込んでしまう。
翌朝、目を覚ました娘は自分がどこにいるのかわからない様子だった。
「夜に熱を出して、病院に来たんだよ」と伝えると、入院していることにいつも以上の笑顔になるほど、回復していた。
点滴が効いた上に、一晩ぐっすり寝たおかげだろうか。普段と変わらない様子にホッとする。
会話や行動については普段通りでも記憶はあいまいになっているようだった。
前の晩に起きたことや病院に運ばれたことについて聞いてみても何も覚えていなかった。
あれだけ楽しみにしていた保育園の卒園進級式の当日ということもまったく消え去っていた。
表情だけでなく、話し方がいつもと変わらなければ変わらないほど、記憶が欠けたことが気にかかる。
「本当にこの子はどこも異常はないのか」と。
入院中、脳波検査しても異常なし。問題なしと言われれば言われるほど、不安が増していた。
親としては不思議な話だが、将来的に何かあっても、病気のせいだという証が欲しかったのかもしれない。
いろいろ検査しても何も異常が認められなかったため、熱性けいれんという診断結果とともに、退院した。
退院してから、娘の体調をずっと気にする日々が始まった。
すこしでも鼻水を垂らすと熱を測る。くしゃみしてはすぐに病院に連れていく。
免疫を高めることよりも、投薬して治すことを優先していた。
熱性けいれんは熱が上がる過程で起こる。そのため、ちょっとした風邪の症状でも熱が出ていないかを確認していた。熱が上がりそうな兆候を見せると、けいれん止めの坐薬を注入する。
その坐薬を入れても熱が下がるわけではない。熱が上がりきってしまえば、けいれんが起こる可能性は低くなる。
熱が上がっているときにけいれんをおこしても気づけるよう、夫婦交代で寝ずの番をしていた。
過剰といえるほどに気にかけていたにもかかわらず、退院してから半年後、発熱に気づくのが遅れ、
けいれんを起こし、再度入院することに。
入院しても発作がおさまった娘は普段通り。今回の入院中に行った検査でも異常は見当たらなかった。
今回も何も見つからなかったことで、熱の兆候に気づけなかった自分たちを責めた。
後悔しても仕方ないのだが、責めずにはいられなかった。
半年間何もなかったことで、心のどこかに「発作はもう起こらないのではないか」という気持ちがあったからだ。自分たちが油断したからまた、娘を苦しめてしまった。
「二度と体調変化を見逃さない」、その思いが退院してからの原動力となった。
前以上に娘の体調を気に掛ける日々が続き、今年は無事に保育園の卒園進級式に参加することができた。初めての参加に娘は興奮していた。1年前には参加できなかった念願の初舞台。
皆の前で、楽しそうに歌ったり踊ったりしていた。
一生懸命に練習してきた成果を発表できたおかげか満足そうだった。
見ているこちらは1年前に入院したことを思い出しながら見ていた。
そして、半年前にも入院したことをも思い出していた。
無事に参加できて良かったとホッとして帰宅。娘もイベントが終わって興奮が冷めやらぬ様子だった。
1年前の記憶がよみがえっていた上に、落ち着かない様子に何かがひっかかる。
気になって熱を測ってみると、微熱。慌ててけいれん止めの坐薬を入れる。
そのおかげか、けいれんをおこすこともなかった。
念願の舞台をふめたことで、完全に油断していた。
1年前の話をしていなかったら、娘の様子を確認することもなく、熱を見逃していたかもしれない。
思い出すのも嫌な記憶が引っ張り出せたことで、けいれんを未然に防ぐことができてよかった。
「気を付ける」という心がけだけでは、何もない日々を過ごすと意識がどうしても鈍る。
嫌な記憶とイベントが紐づいているおかげで、毎年その季節になると気持ちを引き締められる。
そう思うと、苦い思い出も悪いものでもないのかもしれない。
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