天気を持ち歩いてみよう
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:なつき(ライティング・ゼミ平日コース)
「なんでも好きに書いてねー」
「はーい」
一斉にみんなが作業に取り掛かる。中学での美術の授業。
すぐに手を動かす人、頭で段取りを組む人、先生に矢継ぎ早に質問する人、様々だ。
そんな中で、私はなんでもいいという言葉に囚われる。
なんでもいい。
先生の例を2,3最初に見せてもらっている。
じゃあ、この形は?
こっちのケースは?
囚われる。
書き出してみても使っていいのかわからなくなる。
そして時間ぎりぎりになってなにかがやっと見えてくる。
急いで書き出すが間に合わない。
時間がないので、中途半端なものが出来上がってしまう。
自分に納得がいかない。
なぜ、こんなにも「なにか」に囚われるのか。
先生が例を出してくれているので、それと似たように作ればいいではないか。
それではいけないと思ってしまう。
違うものを作らなければいけないんだと思ってしまう。
考えて、考えて。
必死にしぼりだす。
「なにか」は私にとって魔物なんです。
頭が真っ白になるんです。
社会人になってある講習でのこと。
ここでも、なんでもいいよ、との言葉が来た。
なにか。
なにか。
またこれか。
また考えなければ。
これはどうだろう、あれはどうだろうと考えを巡らす。
でも、違うよね、とその考えにふたをする。
そんな時、先生の「こんなのもありだよー」の言葉が聞こえてきた。
途端に気持ちがほぐれる。
それでいいの? と正直驚いた。
もっと難しく考えていた。少し心が軽くなった。
軽くなったはずなのに、また次の瞬間、その例とは違うことを考えなければ、とまた「なにか」を探している自分がいる。
また「なにか」に囚われる、とても疲れる。
ええい、こうなったら言われたそのままを真似っこしてみよう!
なぜか、この時は真似ることがいけないことだとあまり思わなかった。
真似てみる。
ずっしりと重たいと思っていた課題が少し軽くなった。
いくつか真似てみた。
「なにか」を考えなければという思いが少し消え、ゆとりが生まれた。
心にゆとりが生まれたからだろうか、「なにか」に固執しなくなった。
更には真似たことで、その事柄の範囲が見えてきた。
これもいいかもしれない、あれもいいかもしれない。
「なにか」を必死に考えていた頃に比べると真逆になり、ポンポン考えが浮かぶ。
それもいい方に。面白い。
そして思いついたことを楽しく実行できる自分がいた。
今まで、違うことをしなければと思っていたのはなんだったのだろう。
「なにか」を必死に考えることは大事だけれど、考えすぎていた。
もっと肩の力を抜いてみよう。
私は、初対面でなくても自分から誰かに話しかけることが苦手だ。
やはり「なにか」に囚われてしまうからだ。
先日会社帰りのエレベーターで乗り合わせた上司とのできごと。
私「お疲れ様です」
上司「お疲れ様です」
……。
無言。
短いエレベーターの時間はあっという間。
これが気まずいしちょっと嫌だった。
こういう場で軽やかにふわっと会話できる人が羨ましかった。
私はここでも「なにか」に囚われていた。
なにか言わなければ。
そして時間終了。
よし、今日はなにかに囚われるのを止めてみよう。
私「お疲れ様です」
上司「お疲れ様です」
私「今日は少し暖かくなって良かったですね」
上司「そうだね、このまま春が来るといいのにね」
微笑む上司。
おおーっ! 会話できた! 微笑みまでもらえた!
たわいない天気話ではあったけれど、私には難関を突破できた様な嬉しさがある。
先日の講習以降、一日一回自分から話しかけることを課してみていた。
今までの私だったら天気の会話を出してもと思うところだが、出してみて良かった。
こんな些細な会話でコミュニケーションはとれるものなのか。
毎日当たり前に、何度も会話に出る天気。毎日同じ会話で嫌気がささないのかな、私はなにか別のことを話題にした方がいいと思っていた。
やっぱりついてまわる「なにか」なのである。
ただ、先日の講習以降、「なにか」は少し私にとって優しくなった。
急に話しかけられても、言葉を返すことができるようになった。
これはかなりの進歩だ。
「なにか」が必要になった時にあわてて探すのではなく、使ってもいいかもしれないと思える事柄があると、用意ができるようになる。
急にその場に遭遇しても、用意があることでゆとりが生まれ、緊張しなくなる。
天気、ありがとう。いつも持ち歩いていよう。
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