「勉強したくないから高校には行きたくない」と言った息子は、どうやって高校に行くことになったのか? ヘンテコ親子の夏休み~入試までの珍道中記
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記事:一条かよ(ライティング・ゼミ平日コース)
「ここはヘンテコな生徒と、ヘンテコな先生がたくさんいる、ヘンテコな学校です」
入学式で、その後担任となる先生の挨拶がそれだった。当然、会場からはどっと笑いが起きた。
この春高校生となった長男。その道のりは、簡単ではなかった。
「別に、高校に行かなくてもいいよ」
その選択肢を持つことをまず決めてから、取り組んできた半年間だった。
勉強が嫌い。大嫌い。嫌いで嫌いでたまらない。15年かけて、私はやっと理解できるまでになった。
正直いって私は学生時代、勉強がそれほどキライではなかった。親に喜んでもらいたいという計算があったことは否めないが、いい点数を取りたかったし、宿題をするのもさほど苦痛ではなかった。だから、彼の「異常なまでの勉強嫌い」の度合いが、なかなか理解できなかった。
丁寧に、かみ砕いて、時間をかけて教えたりもした。それでも彼の頭には残らない。解けてもその場限りのことで、次の定期テストではキレイさっぱり忘れている。おそらくは、翌日にはもう消えてなくなっていたのだろう。何回も繰り返し教えるものだから、後ろで何とはなしに聞いていた弟と妹たちが「それ、この前も言ってたじゃーん」と言ってくる始末。
いいかげんあきらめがついたのが、彼が中一の終わりごろ。
「いいんだ。この子には、勉強に使う脳みそはないのだ」
そう納得できてしまえばこちらのもの、と言っていいのか若干の迷いはあるが、おかげで、彼に教える時間とエネルギーは節約することにした。私もラクになったし、息子はもっとラクになっただろう。しばしの平和がおとずれた。
しかし困ったのは中三になってから。「進路」だ。まわりがワサワサし始める。勉強をするのが当たり前という雰囲気に包まれ、塾に行くのが当然、いや、すでにみんな行っている。塾に行っていないのは、ガラケーを使うよりもガラパゴス化しているこのご時世。塾に行かなくても、通信で自宅学習はしているのだ。完全ノーケアなのはもしかしたら学校では彼だけ、なのかもしれない。
「で、どうする?」
夏休みの後半。たしかそろそろ、県内・近隣の高校が集結するフェアがあったような。参加するのかどうかを尋ねたのだ。待てど暮らせど一向に打診がこない。このままほおっておいてもいいとも思った。彼の人生だ。自分で失敗しながら体で覚えて進めばいい。
が、世間体はやはり気なった。私がシビレを切らした。
聞くと、勉強はしたくないから高校へは行きたくない。それが本音。けれど高校に行かないっていうのもカッコつかないから、行かないということではなくて……。
なんともハッキリしないが、それが彼の本音だというのは受け取れた。これでハッキリした。「高校へは行く」という意志はあることを。そこが決まれば次のステップだ。「どこに行くか」。
いや、「行くか」だなんておこがましい。どこに「行けるのか?」という話なのだ。勉強をしたくないけれど、高校に行く。そんな道があるのだろうか?
単純に考えて、普通科はムリ。中学となんら変わらない。じゃぁ専門科? 近場で、普通科以外で興味があるもの、という範囲で絞った結果、工業系高校のブースをフェアでは回ることにした。
実際に話しを聞いてみると、どこもやることはだいたい同じ。長男の興味としても、まぁないわけでもない。印象的だったのは、「営業」のように、先生が私(親)に必死に説明をしてくることだった。
ふと。工業系ではないが、なんとなく思い出して気になった高校があった。そこはいわゆる偏差値が低く、自由な校風。そんなイメージしかなかったが、試しにと行ってみた。
必要事項を記入して、説明を受けるという流れ。お話してくれる先生らしき人が、長男の目の前に座った。
「お名前は、〇〇さん(長男)っていうんですね。○○さんは、この高校のことを知っていましたか?」
「母からも話しを聞いて、あと学校でも□□さんの出身って話題に」
えっ? そうだったの? 知ってたの? 私には何も言わんのに……。しかも”□□さん”って、あのテレビで歌ってる人? 私は一気に、いい意味でだがプチパニック状態。長男とその先生の会話がどんどん進んでいくのを、不思議な気持ちで横から見ていた。
その先生は、担当教科を例に話しをしようとしていた。「〇〇さんは、英語は好きですか?」ところが英語は長男が最も苦手な教科。「いえ……嫌いです」と遠慮気味ながらもハッキリ言った。こんな時に意志を出してくれるなよ、と私は内心ハラハラ。「そうですよねー。 英語嫌いな生徒さん、多いんですよ」そう受けとめてくれたので一安心。
「”cut”って単語知ってますか? ”切る”ですね。この単語に”e”がつくと何になるか分かりますか? “cute”。”かわいい”っていう意味になるんです。なんで”e”がつくだけでカワイイになっちゃうんでしょう? っていうようなことを、うちの学校では学んでいくんですね」
それはもしかして、彼の中で「勉強」という概念が変わった瞬間だったのかもしれない。
cut=切る、cute=カワイイ、そう覚えなさい、というのがこれまでの彼のイメージする「勉強」。日常的に使われるcutは分かっても、cuteは分からない。だからテストでは×になる。点数はいつも50点満点のテストかと思う(私がそう思いたい)ほど。当然、授業は分からない。つまらない。だから嫌い。そんなパターンが出来上がっていたのかもしれない。
けれどその会話で、「本当だ、なんで”e”がつくだけで変わるんだろう?」という自発的な何かは確実に彼の中から出ていた。帰り道でも、面白がってその話をしていた。
その”好奇心”に私は、光を見出したような気がした。どうやって彼の進む方向性をつけていったらいいのか、彼の中にあるその答えを見出す一筋の光が入ってきてくれたようだった。
その後は、案外すんなりと方向性がついていった。彼の脳は興味あるものにしか発動しないようで、口でいくら「別の高校の見学も」と言っても、身体は動かない。単細胞なのか、素直なのか、正直なのかは分からないが、その仕組みを理解しつつあった私には、毎月1時間半以上かけて足しげく通うその高校には、頭では分かっていなくても、彼の全身が、細胞が、魂が行きたがっているのだろう、そんな気がしてならなかった。
そういえば、ヘンテコ先生の一人が、ヘンテコな入学式で、こんなことを語っていた。
「この学校では、定期テストはいたしません。点数で評価を付けたりしません。そのかわりに、課題、部活、行事など、自分たちで1から創り上げていくことを、人とのかかわりを通じながら学びます。そこには衝突も当然あります。人との違いの中から、多くの学びがあるのです。今日の入学式も、先月行われた卒業式も、すべて生徒たちが自分たちで創り上げたものです」
彼はこの3年間で、どんな「ヘンテコ」に成長するのか。
人とともに、人にもまれ、大笑いしたり、落ち込んだり。時にはイヤな思いをして、思い悩む日々もあるだろう。でもそれがあるから、成長できるのだと思う。
授業は明日から。今から楽しみでならない。
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