女子高生の前で、ビデオで殴られた話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:斉藤★のり(ライティングゼミ・平日コース)
私は、プレゼンテーションが苦手だ。
たくさんの人が真剣に私の話を聞いている。間違えたらどうしよう、質問されたらどう答えよう、そんなことを考えているものだから、途中から何をしゃべっているのか分からなくなり、しまいにしどろもどろになるものだから、その場の空気といったら、そりゃあヒドイものだ。
まあ確かに、大勢の前とか会議で話をすることが大好きです! っていう人の方が少ないのかもしれないが、私の場合、もうほんとに怖いのである。
心臓が徐々に早くなり、音も大きくなる。さらに、まばたきをしなくなって、顔が徐々にかたくなってくるものだがら、相手からしたら、あなたの方が怖いよって思っているのかもしれない。
そんな人間が、作品やら商品を説明しているものだから、相手はとにかく白けているのだろうなと自己嫌悪におちいって、ああじゃなかった、こううまい言い方をすれば良かったと、帰り道に一人ブツブツ、お笑い芸人がネタを練習しているようなことをしてしまうのだ。
きっと、あのトラウマを、まだ引きずっているんだろうな……。
あれは20年以上の前の話である。
当時、私は、映画や音楽メーカーで働いており、毎月1回取引先に行って作品のプレゼーションをしていた。
1社15分程度ではあるが、私にとっては非常にプレシャーを感じる業務だった。
そしてある映画の主演女優が、といっても女子高生だったが、プレゼンテーションに出席していただけるということになった。
しかもプレゼンテーション後に、私が、その女子高生に質問をするということになった。当時、私も20代で、そんな掛け合いなんて初めてのことなもんだから、とにかくビビりまくった。
当然、上司に
「正直、非常に不安です。私、こういうの初めてなので、うまくできるか分かりません」
「何言ってるんだよ。お前が担当なんだから、しっかりやれ!」
今思えば、若手にいろいろ経験させてあげようという親心だったと思うが、もう心ここにあらずで、不整脈なのかと思うほど、ときたま心臓がドキっと大きな音を立てたりするのである。
というのも、事前打ち合わせなし、私のプレゼンが終わったら、女優さんに前へ出てもらって簡単な質問をする、というざっくりなものだったからだ。
もちろんいくつか想定問答を用意して、ひとり練習はしていたものの、不安でしかたがなかった。
ついに、その日はやってきた。
当日、私はプレゼン会場で主演女優を待っていた。取引先の社員は50名ほどはいただろうか。
女優は、高校生である。
セーラー服を着ている。
ドアを開け会場に入ってくる。
そしていきなり、プレゼン会場のモニター前まで、一人で歩いてきた。
おいおいおい、段取りと違うじゃないか!
俺のプレゼンが終わってから、前に来るんじゃなかったか?!
うわー、急に来られても……。
会場は、割れんばかりの拍手が鳴り響いている。
女優が、お客さんと対面する。そして、私の顔を見ている。
何か言えと……言ってるような刺す目線だ。
顔を引きつらせながら、何とか言葉を絞り出した。
「主演女優の〇〇さんです! 皆さま、盛大な拍手をお願いします!」
すでに盛大な拍手をしたお客さんに、また拍手をさせてしまう……。
このプレゼンは人生で一番つらく、そして長く感じた時間だった。
何をしゃべったかいまだに覚えていない。
文字通り、頭が真っ白になったのである。
もちろん原稿は用意していたものの、すでに私のすぐ横に女優がいるので、原稿通りになんて読めやしなかった。
プレゼンの途中に、いきなり想定問答の質問をぶつけたりして、そうとうメチャクチャなやり取りになってしまっていた。
しまいには、会場から笑い声が漏れだす。
もうたまらず上司が前にやってきて、いきなり私の頭をその主演女優がでている作品のビデオテープで殴ったのだ。
そしてこう言い放った。
「皆さん、こんなどうしようもない作品説明で誠に申し訳ありません。私の方からあたらめてご説明させていただきます……」
主演女優(女子高生である)と、取引先50名の前で、放置プレイを受けたのである。うなだれて端っこに立ったまま……。情けなかった。今すぐにでもその場から逃げ出したかった……。
いまだにその辱めや辛さは鮮明に覚えているのだが、話した内容はどうしても思い出せない。辛い出来事があると覚えてないというのは本当なんだ。
もう二度とこんな思いはしたくないと、それから私はプレゼン関連の本を何十冊も読んだ。プレゼンがうまい先輩や評判が良い他社の営業マンのプレゼンを聞きに行ったりした。
マインドマップで原稿を作り、テープレコーダーに自分の声を録音して、声のトーンや速さ、間が良いかどうか、何度も何度も練習を行った。
そして、数年があったある日、業界最大手のクライアントの懇親会で、私の名前が呼ばれた。
「それでは、今月の最優秀プレゼンテーション賞は……
〇〇社の斉藤さんです!」
100名以上いる会場前方の檀上にあがり、溢れんばかりの大きな拍手の中、表彰状と目録をいただいた。
信じられなかった。少なくとも競合他社が40社以上プレゼンテーションをしている中で、こんな私が最優秀賞をいただける日がくるなんて……。
その後も、定期的に行われるプレゼンテーションの表彰式に、最優秀賞もしくは優秀賞を獲得するようになった。
あきらめずにやってきて良かった。
もう大丈夫、立ち直った! と思ったものの、なぜか人前に立つといまだに緊張してしまう。
失敗は人を成長させる……。そして人を強くする。
それは確かに事実だと思うが、記憶がなくなるようなストレスはもうなるべく感じたくない。
ストレスとうまく友達になれるようこれからも頑張っていきたいと思う。
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