私の上司は魔法使いだった
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記事:関 妙子(ライティング・ゼミ日曜コース)
私は、新卒で入社した会社にいまだに勤めている。勤続15年以上のベテランになってしまった。
超氷河期と言われる時代に就職活動をし、ようやく入社できた会社だ。
教員採用試験を諦め、「どこかで働かなければ!」と将来像や、やりたいことなど全く考えず、業界研究もせず、仕事の内容も全く分かっていない状況で会社を探すものの、どの会社もピンとこない。
社会経験を1年くらい積んだという経歴が欲しくて、とりあえず、消費者としてファッションが好き、というだけで会社を選んだ。
何がやりたいか、自分にできることは何か考えもせず、仕事に就きたいという気持ちだけはあった。
そんな私がようやく入社したのは小さなアパレルメーカーだった。何のスキルも、将来ありたい姿も思い描いていない22歳の私に与えられたのは、生産管理という仕事だった。
協力工場に製品の生産を依頼し、品質、納期を管理するという内容だ。
当時は、パソコンは部に1台だけで、計算は電卓、伝票は手書き、商品の数量もデータ化されていなかった。商品の在庫を確認する時は、実際に倉庫に行ってカウントしなければならない。
倉庫の中は管理されておらず、確認したい商品を見つけるのも一苦労だった。
私は、一日の大半を倉庫で過ごすようになった。
そんな私に上司は「お前、仕事楽しいか?」と聞いた。
今でも覚えているが、半泣きで「楽しくないです」と答えた私に、上司は「お前工夫しろよ、やる気はあんのか?」と言い放った後、「俺だったら、倉庫の地図作るかな……」と呟いた。
「やる気は、在ります(号泣)」と答えた私は、言われた通り倉庫の地図を作り、自分のできる範囲で仕事を工夫するようになった。そうすると、今まで誰にでもできる仕事だと思っていたことも、自分の仕事になる。半泣きで一日中倉庫をさまよっていた私は、ようやく仕事に意欲的に取り組むようになってきた。
そんな頃、海外工場との仕事を任された。小さい会社の中で英語に抵抗がなさそうな、何か仕事をしたくてうずうずしているように見えた私に白羽の矢が立ったのだと思う。
上司からの指示で海外工場とやり取りし、その製品を輸入販売する。業務に必要なのは、英語や、製品知識だけではなく、貿易や銀行を通じた決済の知識も必要だと気付き、業務が終わった後も勉強を重ねた。社内の貿易システムの骨子を作り、遂行していくなど、自分が大きな仕事をしていると思えることが本当に嬉しかった。
やる気が見えず、毎日半泣きだった私の変化を一番喜んだのは上司だった。
国内の商談、工場視察、海外出張にも同行させてもらった。
自分に目をかけてくれ、期待してくれ、常に半歩前の課題を与えてくれ、達成したら手放しでほめてくれる。上司は私によく「お前は俺のそばでずっと仕事をしてきたのだから、俺の仕事の仕方を覚えて、自分のものにしろ」と言っていた。
尊敬する上司の考えに一番近いところで触れ、仕事をしていくのは本当に楽しかった。
私は、部下の義務である上司への「報・連・相」を欠かすことなく業務を遂行していった。
会社員であれば当たり前のことだが、自分の仕事は会社の名前を背負ってやっている。
当時の私は、自分の背後には頼もしく、全てのことは上司が俺が責任を取るから、と言ってくれる上司がいて、自分の意見も取り入れてくれる中仕事ができる環境は、本当にありがたかった。それは私に「私は、仕事がとてつもなくできる人だ」と、大きな勘違いをさせるに十分なものだった。
そんな中、私は異動を試みる。
今の業務は、「自分の仕事は、英語と貿易がわかれば誰にでもできる」、「私でなくてもできる」ので、今後は「自分の意思が大きく反映される仕事がしたい」「私にしかできない仕事がしたい」「自分の感性を活かした仕事がしたい」と、訴えるようになった。
そして、私は、企画部への異動を叶える。甘すぎる私の異動の後押しをしてくれたのも、上司だった。
しかし、輝いて見えた「自分の感性」「自分の意思」を活かした仕事、がことごとくうまくいかないのだ。美大などでデザインを学び、それを武器に仕事をしてきた方々の中では、英語も貿易も何もかも役に立たない。好きだと思っていたファッションも、消費者としての「ご意見」だけでは、業務にならない。
社内の異動なのに、別の会社に転職したような気持ちになった。英語や貿易を意欲的に学んだように、ゼロからデザインソフトの使い方を覚える日々が始まった。
上司の強い後ろ盾と、示す道標の正しさに安心しながら業務ができていたため、自分が仕事がとてつもなくできると勘違いしていた。
それは、上司が私にかけてくれた魔法だったのではないかと思う。
上司のかけてくれた魔法が解けたのに、異動してからやっと気づいた。
魔法が解けた今、当時得た小さな、多くの成功体験を糧に、今度は自分自身に解けない魔法をかけていきたい。
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