コタツをめぐる冒険
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:羽田さえ(ライティング・ゼミ平日コース)
Webライターをやっている。
旅行情報サイトに記事を書く、トラベルライターというやつだ。実際に自分が行ってみて本当に良かったところ、素敵だと思ったところだけを紹介している。
書くからには、ひとりでも多くの人に読んでもらいたいと思うのだが、そううまくはいかない。Webには無数の情報があふれていて、自分の書いたものなど、全然読まれなかったりする。
競合するサイトや記事はたくさんあるが、中でも困るのはコタツ記事というやつだ。
実際に取材には行かず、Web上のさまざまなサイトから素材を好き勝手に拾って来て、コタツから一歩も出ないで記事を仕上げる。著作権もお構いなしで、文章も写真もいわゆるパクりだったりコピペだったりするから悪質だ。
そんなものを旅行記事として出して恥ずかしくないのか、なんて思うけれど、自分が現地を散々うろうろして一生懸命に書いたものがあっさり負ける。
どういう訳かコタツ記事がSEOにめっぽう強く、検索上位に上がったりするのだ。
自分の記事が鳴かず飛ばずなのは私自身の技量の問題も大いにあるので、こうして天狼院ライティング・ゼミをせっせと受講して課題となる文章を作成してみたりもするのだが、コタツ記事との戦いは簡単には終わりそうにない。まったくもって困ったものだ。
そんなある日、久しぶりに東京に行く機会があった。
バタバタと用事を済ませた後に少しだけ時間があったので、池袋まで足を伸ばした。
行き先は、東京天狼院。天狼院書店の第1号店である。
2月から天狼院ライティング・ゼミの受講を始めて2ケ月以上が過ぎたが、地方住まいの自分は天狼院書店の店に行ったことがない。ゆっくりする時間はなくても、ちょっとのぞいてみたかったのだ。
思ったより駅から遠い閑静な街並みの中に、ひっそりと東京天狼院はあった。
細い階段を上り、ちょっと重い扉を押して店内に入る。
噂どおり、狭い。壁際までびっしりと書棚が並んでいる。
ごちゃごちゃしているのに何だか心落ち着く、不思議な空間だった。
カウンターや小さなテーブルセットが置かれ、カフェとしての機能も持っている。
書棚の中を見れば品揃えは独特で、熱のこもった手書きのPOPが所狭しと並んでいる。
純文学、写真集、サブカル系、ビジネス書。トレンドに沿ったものから古典ともいうべき作品まであり、ジャンルもさまざまだった。意外な名著との出会いがありそうな雰囲気だ。
そんな店内の一番奥に鎮座するのが、コタツである。東京天狼院の象徴的な存在だ。
もっさりした手ざわりの、紺色のふとんがかけられている。
本屋にコタツ。意味が分からない。
夏には「冷やしコタツ」になるという。ますます意味が分からない。
天狼院書店がちょっとおかしい本屋として広く知られるようになったのは、このコタツが果たした役割も大きいのだろうなと思った。
こんな小さな本屋に、いや小さな本屋だからこそコタツを置いてみたのであろうことは想像できるけれども、やっぱり相当に奇妙な光景だ。
コタツに入ってお茶でも飲みながら本を選びたかったが、飛行機の時間が迫っていた。
小説を1冊だけ買って、あわただしく店を後にした。
短い時間だったけど、来てみて良かった。
東京天狼院は、思っていたよりずっと居心地が良くて楽しいところだった。
控えめな照明の加減や、ちょっとひんやりした空気感なんかは、実際に来てみないと分からない。店内の空間に対するコタツの破壊力だって、想像以上だった。
すっかり忘れていた。
トラベルライターの仕事で一番楽しいのは、現地に行った瞬間なのだ。
知らない土地をたずねて、初めてのものを見る。素敵な人たちに出会い、地元のおいしいものを食べる。空の色や風の匂いに、いちいち感動したりする。とんでもない絶景という訳でもないのになぜか泣けてくるような、じわじわと心にしみる景色に出会うこともある。
実際に行ってみないと分からないこと、実際に行ってみるからこそ楽しいことがたくさんあるのだ。
コタツ記事は、一番楽しいところを丸ごと、すっ飛ばしている。
私は、その楽しみは絶対にゆずらない。
旅先で出会う感動はなかなか言葉にならなかったりするけれど、それを表現するのがトラベルライターの仕事なのだ。Webからの切り貼りで作った記事には出せない、現地へ行ったからこそ見つけることができた何かを、私は書きたい。
次に東京天狼院に行く時にはコタツに入って、世界中から自分の足で集めた素材をたっぷり使って記事を書いてやろうと思う。
これがほんとのコタツ記事やね、とか言いながら。
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