メディアグランプリ

リストラの先に  ~手放せたもの、手に入れたもの


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記事:きくち ともこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
もう7年になる。
20年近く務めた会社を希望退職した。
希望退職と言えば聞こえはいいが、実質はリストラだ。
 
期間限定で希望退職の条件が大幅に変更され、利用できる勤務年数や年齢に自分が該当するとわかったとき、おそらく自分にも声がかかるだろうと覚悟していた。
 
正直、その時の私は希望退職者の候補に挙げられてしまうような状態だったから。
 
だから覚悟した通り、希望退職をすすめられた時には交渉することもせず、最短の日程で退職を決めた。
 
仕事は25年ほど、同じ職種を続けてきた。
好きで続けてきた仕事だった。その間子供を2人生み、復職も果たしている。
家庭にとって大切な収入源でもあったから、こんな形で職を離れることになるなんて、考えてもいなかった。
 
状況が大きく変わったのは、2度目の育休明けだ。
復職後すぐに、状況によって深夜まで会社に残らなくてはならないような仕事に入ってしまったのだ。参ったが、やらないわけにいかない。私がやらないと誰もやる人がいない。
 
さらに追い打ちをかけるように、主人が単身赴任することになってしまった。
配慮を申し出ることで、さすがに日付を超えることはなくなったが、それでも残業は免れない。
園児2人を抱え、いつ寝ていつ食べたのかわからないような日々を送ることになった。
 
それでも頑張ってしまったのはその仕事にやりがいを感じていたから。
やり遂げたい気持ちでいっぱいだった。
 
でもやっぱり段々と、体調も気持ちも不安定になっていった。
マイナスな出来事への感度ばかりが良くなっていき、いつもピリピリした状態だった。
 
もともと良くはなかった我慢と主張のバランスが、どんどん悪くなっていったのだと思う。
何を我慢して、何を主張していけばいいのかわからなくなってしまっていた。
我慢しすぎて、冷静に主張しなくてはならない事にも感情がまざってしまう。
 
致命的だ。
扱いにくいと思われて当然だと自分でも分かっていたけれど、もうどうしようもなかった。
 
そのうちあまりにも体調が悪くなり、会社を休むことになる。
直属ではない、さらに上の上の上、くらいの上司から、「そんなに大変なら、帰ればよかったじゃないか」 と言われて呆然とした。被害感情が一気に膨らむ。
 
帰れるものなら帰っていた。放り出せなかったから頑張ったのに。
くたびれてよれよれの心に嫌な気持ちがいっぱいに広がった。
 
しばらく休んで復職したが、一度強くなった被害感情はなかなか消えない。
出産での休職に加え、体調不良での休職。ブランクが重なり仕事のスピード感にもついていけなくなっていた。仕事での向上心もなくなっていることに、自分でも気が付いていた。
 
だからこうなったのも仕方がない、と自分に言い聞かせ、どこかほっとしたような気持ちで退職を迎えた。
 
無職でいるわけにはいかなかったが、家計は主人が支えてくれている。
しばらくは体と気持ちを立て直すことを第一に考え、仕事はそれから探すことにしたが、年齢的に簡単に仕事が見つかるはずはないことも十分承知していた。
できれば長く勤められれば良いけれど、同じ職種で探すのは難しいだろう。
 
漫然と求人情報を眺める日が続いた。
勤めていた頃の出来事を反芻しては、自分のダメな部分弱い部分と向き合う日々でもあった。
 
ちゃんと勤められるだろうか?
そう思うと、勤めに出るのが怖かった。
 
しばらくして目が留まった求人は、半年ほどの有期雇用。
期限付きかぁ、と思ったものの、それまで経験してきた職種に関わる面白そうな内容がどうしても気になった。
 
期限付きでもいい、やってみたい。
そう思って応募したところ、採用になった。
 
仕事は思いのほかとても楽しく、やっぱり仕事があるっていいな! とつくづく感じた。
任期の半年を迎えたときには少しだけ自信が戻っていた。
 
まだ私が役に立つ場所があるかもしれない。
 
そう思うとそれからは仕事探しにも積極的になった。
任期のある仕事も悪くないと実感し、長期で安定という条件を捨ててみた。
そうしたら不思議なことに、面白い仕事に巡り合うようになっていった。
 
働き方を割り切っただけで、次々仕事が決まっていくことに驚いた。
 
なんだ、仕事はたくさんあるじゃないか。
安定にしがみついていた気持ちも手放せた。
 
年を重ねて以前のようにはできないことも増えてくる。その代わりにそんな私だからこそ、役に立つ場面があるということにも気が付けるようになってきた。
新しい学びに向き合う気持ちも生まれるようになった。
 
こうして書いてみて改めて感じている。
こだわっていたことを手放したことで、これからの私にとって大切なことを手に入れることができたのだ。あの時、退職したことで今の私を手に入れた。そう思えば救われるような気がする。
 
きっとこの先も何かを手放すことで、何かを手に入れていく。
手放す時を見誤らなければ大丈夫。
 
今はそんな風に思って生きている。

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2018-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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