メディアグランプリ

スイッチを探す旅


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:都甲マリ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私にはADHD(注意欠陥・多動性障害)の傾向がある。社会生活に特別な困難を抱えているわけではないので通院したり、薬を飲んでいるわけではないが、私の性質の中にはその傾向が認められる。
大人の発達障害でよく言われるように、学生時代は成績も良く、それなりに勉強ができたので「なんだか性格がアンバランスだな」という多少の違和感を感じつつも、それが大きな問題になったことはなかった。社会人になった後も社会的使命に燃えてバリバリ仕事をしていたので、時々ミスをすることもあったけれど、それは「誰にでもあることなんだからしょうがない」と自分を励ましながら仕事をしていた。
 
私が自分のアンバランスな性質に向き合い始めたのは、自分の夢のために仕事を退職し、自分の裁量で時間を使うことが増えてからだった。仕事をしていた時には気がつかなかったが(何故だ)、私は時間に相当ルーズで自分のタイムスケジュールを組むのがめちゃくちゃ大変だったのだ。愕然とした。なんで他の人が当たり前のようにできることが、私にはできないのかわからなかった。自分の性質を理解してコントロールできるようになったのは、かなり時間が経ってからだった。
まず、起きれない。そこからか。自分で書いていて悲しくなる。「人として基本のことなのに」「大学生じゃないんだから」「仕事には毎日行けていたじゃないか」と、毎日のように自分を責めるところから1日が始まった。午前中に人と約束があったりすると、なんとか起きることができる。しかし「午前中は勉強をしよう」など、他者との責任が絡まない予定を立てていると、どうしても起きれない。せっかく「空いた時間を自分の夢に投資しよう」と思って仕事を辞め、生活スタイルを変えたのに、自分で自分の時間をコントロールできないことに愕然としてしまったのだ。結局自分に最適な睡眠のパターンを把握するのに2年近くかかってしまった。
もう一つには、自分の行動を時間でコントロールできない、ということだった。「時間が自由に使えたらやりたいこと」が山ほどあった私は、仕事をしていた時と同じように1日のうちにやることをTODOリストで管理しようとした。しかし、これがクリアできないのだ。「まとまった文章を書けるようになりたい」と思っていた私は机に向かって作業をする際、作業興奮を呼び込もうと思ってウォーミングアップ代わりに漢字の勉強をすることにした。別に題材は漢字でなくても英単語とかでもよかったのだけれど、「漢字が書けない」というコンプレックスを学生の頃から抱えていた私は「苦手も克服できるし、一石二鳥だな」と思って、漢字検定の問題集を少しずつ進めることにした。が。
これがやめられないのである。長年のコンプレックスが脳における漢字の習得の容量を増設したのだろうか。比較的簡単な級から勉強を始めたこともあり、「やればやるほど分かりやすく能力が伸びる」という状況が楽しくてたまらなくなってしまい「1日15分くらいできればいいや」と思っていたはずなのに、2時間3時間ぶっ通しで勉強する。そして「今日はもう脳が疲れたな」と思って机に向かう作業をやめてしまう。そのあとはネットを見ながらだらだら過ごす……。
時々ハッと気づく。「本末転倒じゃないか!」と。気がつけばもう夜だ。あーあ、今日も1日無駄に過ごしてしまった。最初のうちは「まあそれでも勉強したし、いいか」と思っていた。でも3ヶ月経ってもそのパターンは変わらない。いつの間にか目的が完全にすり替わっていて、他のTODOリストを消化することなく、漢字の勉強をすることが1日の最大の目標になっていた。(結局漢検2級を取り「人並みに漢字が書ける」という状況になって、私の漢字熱は治まった。)
 
例を挙げればきりがないのだが、万事こんな調子で生活していた。そのうち「人との約束を守ることや、時間通りに動くことは不可能ではないが、かなりの心理的な負荷がかかっている」という性質も発見した。要するにすごく疲れるのだ。
「何かの病気なのか」「人として最低だ」「もう人並みに社会復帰することはできないんじゃないか」とネガティブな考えばかりが頭の中をぐるぐるしていた。
そんな時ネットでADHDの記事を見つけた。ADHDとは不注意・多動性・衝動性の3つの要素が見られる障害のことであるが、私には程度の差こそあれ、どの要素にも当てはまる傾向があった。
その中で、私にとって救いとなった一文があった。それは「ADHDの人は切り替えが下手な傾向がある」というものだった。
 
そうだったのか。私は自分にその能力があるにもかかわらず、怠惰によって時間をコントロールできないのではなく、そもそも「時間をコントロールするのが下手な人」だったのだ。そう思ったらなぜか安心した。「寝ているモード」から「起きるモード」への切り替えが下手だからなかなか起きれないのだ。一度始めた勉強が楽しいから、次の作業へなかなか切り替えられないのだ。それがわかったことで、自分の周りに起きている現象は変わらないのに「前向きに対処しよう」という気になった。
調べていくうちに、同じような傾向を持った人たちは、それぞれ自分の気分を切り替えるための「スイッチ」を持って対処していることがわかった。例えば「食べる」ということをスイッチとして持っている人は、気分が切り替えられなくて、対人関係を壊してしまいそうな時に「自分の好物を食べる」。そうすると気分が強制的に切り替わって機嫌が良くなり、関係を改善することができる……。
この「スイッチ」は人によって、そして状況によって異なってくる。私の「スイッチ」はなんだろうか。しばらくは試行錯誤の日々が続いていたが、最近になって1つの「スイッチ」を発見した。それはBGMだった。耳から強制的に音楽などを聞かせることで、「頭の作業スイッチをON」にするのだ。朝、目が覚めたら、何も考えずに激しいダンスミュージックのプレイリストを再生する。そうすると起きることができる。頭を整理して次の行動にスムーズに移す必要があるときには落ち着いたトーンのニュース番組のラジオを再生する。集中して作業をするときにはクラシックを小さな音で流し、眠りにつくときにはヒーリングミュージックを流す……。
そんなこと、もしかしたら誰でもやっていることなのかもしれない。私も以前から「勉強に最適なBGM」などを探してかけたりしていた。でも「時間をコントロールできない」という悩みを解決する「スイッチ」として、改めて意識的に BGMを流すようになって、劇的に生活の質が向上した。時々失敗したり、うまくコントロールできないこともあるけれど、その時は「私はもともとこういう性質なんだから、しょうがない」と開き直ることで、精神的にとても楽になった。そうしてまたやり直せばいいのだ。また自分の行動パターンが変わってしまうこともあるかもしれないが、しばらくはBGMにお世話になりながら、生きていこうと思う。

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2018-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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