営業とはヒーローインタビューだ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:吉田順一(ライティング・ゼミ日曜コース)
あぁ、気が重いなあ……。何を話せばいいんだ?
一歩進むごとに、帰りたい気持ちがどんどん
高まってくる。でも、帰るわけにはいかない。
なぜなら今の自分の仕事は営業マン、
これから行く先のアポイントを取ったのも
自分なんだから……。
「そうそう、明日から営業やってくれる?」
ついでにお茶でも持ってきて、と言うような
気軽さで社長が人事異動を告げた時、
私の頭は真っ白になった。
10年前、私は北海道のプロバスケット球団の
スタッフとして働いていた。プロスポーツ球団
の中の営業は、企業とスポンサー契約を交わし
て協賛を得たり、試合のチケットを売り、
球団の運営費を稼ぐ役割だ。
正直、一番やりたくない仕事だった。
野球以外のプロチームはどこも資金に乏しく、
協賛どころかチケット一枚、簡単には売れない。
加えて当時の自分には、営業という仕事自体、
したことが無かった。
それからは、職場でのプレッシャーが増した。
いつ売上を上げるの?と聞かれても、答えられ
ない。売上どころか電話でのアポイントすら
簡単に取れないのだから。
「ウチは結構です」という返答を50件以上聞いた
ころ、1件だけ違う返答をした所があった。
「そちらのチームのことは新聞で読んだよ。
ところで君はウチの会社のこと、知ってるの?」
訝しむ電話の向こうの声に、
「はい、モチロンです!」と調子よく答える私。
会話が続き、翌日訪問する約束までこぎつけた。
Jリーグチームの協賛企業一覧から見つけた会社。
聞いたことない社名だけど、何の会社だ?
あれ、この会社、HPが無いぞ?
調べられない……。まずいぞ。
さっきの声の主、社長って言っていたような……。
何も見当がつかないまま、約束した会社に着いた。
恐る恐る玄関の扉を開けると、
「いらっしゃ~い! お待ちしてましたよ」
事務の女性がニコニコしながら迎えてくれた。
「おお、君かい。電話してきたのは」
案内された部屋に入ると、電話で話した社長
がいた。緊張のあまり、名刺交換と挨拶の後、
言葉が出ない。すると、その社長が言った。
「これ、ウチの商品なんだけど、知っている?」
見せられたのは、札幌の老舗焼肉店の名前が
付いた、味付ホルモンのパッケージ。
地元のスーパーで良く見かける商品だ。
「はい、美味しいですよね、この味!」
「おお、そうかい!」
すると、社長が軽快な口調で話し始めた。
この味を覚えるために社長自身もその焼肉店に
修行に行った事、店の名前を借りる以上は
迷惑かけられないからと、生産現場の衛生には
特に気を配っている事などだ。
「そういえば、この事務所の空気も
清々しいくらいキレイですよね」
「だろ、これを見に大手の食品メーカーも
ウチに視察に来るぐらいさ!」
いつの間にか、社長もニコニコ顔だ。
その後も様々な話を聞いた。迎えてくれた女性は
メーカーも驚くぐらいパソコンが得意なこと、
お取引先と社員の懇親に社長自ら企画する
ボウリング大会のこと、また身寄りの無い世界中の
子供たちのために、「ささやかだけど」と言いつつ
も毎年のように奨学金を送っていること。
「いや~、本当にいい会社ですね! 凄いなぁ!」
社長の話に私は心の底から感動していた。
それを聞いた社長は、ジッと私を見て言った。
「君のバスケ球団の協賛は、どういう内容なの?」
いけない、営業することを忘れていた……。
持ってきた資料を開き、たどたどしく説明をする。
「分かったよ。私のポケットマネーから出すよ」
え? 何が起きたか、一瞬、理解ができなかった。
「地元のプロ球団を応援するのも、地元のお客様
への還元だからさ。ところで、契約書はいつ持って
きてくれるの?」
え~~! もしかして、契約取れちゃったの!?
大して営業トークもしてないのに!?
今度は驚きのあまり言葉が出なかった。
10年を経て、今なら分かる。初めて営業した
のがこの人柄の良い社長だったことは、運が
良かった。だが、あの時の社長の会話にリード
された私もまた、知らず知らずのうちに社長の
信頼を得られる返答をしていたのだ。
売れる営業になるために大切なのは
上手く話すことではなく、まず相手の話を
きちんと聞くことだ、と言われている。
だが、きちんと聞くこともまた難しい。
相手に応じて聞くべきポイントや質問があり、
タイミングのよい相槌も欠かせないからだ。
それには必要な下調べができる知識と
ある程度の経験も必要となる。
だから特に経験の少ないうちは、
野球のヒーローインタビューのように
話す相手に対し自分が魅力的に感じた所、
感激した点などを伝えて質問する方が良い。
どんな人や企業にも、頑張って取り組んでいる
事やこだわり、想いがあるからだ。
もちろん、見えすいたお世辞や嘘は逆効果。
嘘の無い心で話す方が、相手からも信頼される。
ヒーローインタビューと思えば、営業は楽しい
仕事だ。あれから10年、会社が変わっても私は
今も営業マンだ。
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