プロフェッショナル・ゼミ

嬉しい「帰還」を、素直に喜べないでいる《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:よめぞう(プロフェッショナル・ゼミ)

「おお! マジか!」

リビングでひとり、ぼんやりとFacebookのタイムラインを眺めていた時だった。
ひび割れたiPhoneの画面上には、思いも寄らない知らせが描かれていた。

「おお……川代さん、福岡に戻ってくるんだ」

福岡に……「福岡天狼院」に、川代さんが帰ってくる。
おそらく、私を始め「福岡天狼院」を訪れたことがある人なら彼女の「帰福」は嬉しいニュース以外、考えられないだろう。
「天狼院書店」というお店を知っている人で「川代紗生」を知らない人はいない、と言っても過言じゃないくらい、彼女は「有名な女の子」なのだ。川代さんが「天狼院書店」のブログに綴る「川代ノート」に魅了され、アイドルでもない書店員の彼女に会うために「天狼院書店」を訪れる人も少なくない。もっとも、私も「川代さん」に会ってみたくて「福岡天狼院」の扉を叩いたひとりなのだ。ちょうど1年ほど前、川代さんが「東京」の「天狼院書店」へ戻ると知った時は本当に悲しかった。川代さんが「東京の人」というのは分かっていたし、彼女の今後を思えば「日本の中心」から遠く離れた「福岡」に、長いこといる理由はないのだ。頭では十分わかっていたつもりなのに、やっぱり「福岡天狼院」から「川代紗生」がいなくなる時は寂しかった。「あまロス」もなく「逃げ恥ロス」にもならなかった私が、たった一人の書店員のおねえちゃんが「福岡」からいなくなるだけで「川代ロス」になったほどだった。きっと私なんかより、もっと「天狼院書店」のヘビーユーザー達は、川代さんが東京へ戻ることをとても悲しんだだろう。
別に、川代さんは可愛いけれど「超絶美人」というわけではない。それに、26歳の女の子にしては、異常なくらい落ち着いている。川代さんからは「パンケーキ行ってきた」とか「このコスメ、パッケージ可愛い」とか、俗にいう「インスタ映え」しそうなキーワードは、ほぼ出てこない。それなのに、どうして30歳の私が26歳になる「川代紗生」が好きなんだろう、と考えたことがある。
確かに、川代さんは年相応の「キャピキャピ」だったり「キラキラ系」とはだいぶ違う。どちらかといえば「村上春樹」をこよなく愛する「文学少女」のイメージの方が強い。だけど、彼女には「CanCam系」の服を着て「パンケーキ」を食べる「キラキラ系」女子にはない魅力があった。その答えはやはり「川代ノート」にあった。FacebookやInstagramには「あえて」載せない「内なる女子」の声や、男性が「うっかり」騙されている「女子の本性」などが「ホンネ」で書かれているからだ。「ポジティブ」なことを上げないといけないような、最近のSNSの風潮を真っ向から「ぶった斬る」感じが、読んでいてとてもスカッとするからだ。「ネガティブ」と言えば、あまり良い印象では無いはずなのに、川代さんの「ネガティブ」はどうしても惹かれるものがあった。「自分が貧乳だ」とアツく語る女性なんて川代さん意外に見たことはなかった。「リア充」とは程遠いくらい「仕事」に打ち込む生活。側から見れば、十分すごいと思うけれど、いつも「他のスタッフに抜かれやしないかと」戦々恐々している。もうちょっと、肩の力を抜いたら「楽に生きられる」ような気さえしてくる川代さんの生き方は、いつもどこか不器用で、年の割には生き急いでいるように見えることだってある。だけど、川代さんの「泥臭い生き方」が、無理やり取り繕った「キラキラ」や、インスタ映えする「パンケーキ」なんかよりも、ずっとずっと輝いて見えるし、むしろカッコ良く見える。「川代ノート」はもとより、川代さん自身を見ているといつも「ちゃんと自分を生きてる」って感じがする。だから「川代紗生」という女性は、本当にカッコ良いんだと思う。私はそんな彼女が大好きだ。
Facebookに、川代さんが「福岡に帰ってくる」という知らせを見つけて本当に嬉しかった。

「福岡天狼院」のリニューアルオープンが5月17日らしい。ちょうど次の日は仕事が休みだから、早速川代さんに会いにいける。めちゃくちゃ嬉しいはずなのに、時間が経つにつれてどんどん「川代さんに会う」ことが怖くなっている自分がいることに気づいた。川代さんが「福岡」からいなくなるちょうど1年ほど前、私は、人に読んでもらえる文章を書く「ライティングゼミ」の上級コース、プロフェッショナルコースの門を叩いた。
「私も、福岡で頑張りますね!」

最後に川代さんとお別れした時、私は彼女にこう言った。
川代さんはこの1年、新しい店舗の店長をしたり、ライターとしての仕事をしながら「川代ノート」を更新したり……最近では「ライティングゼミ」の講師を任されたりと、本当に「頑張ってる」の一言じゃ片付かないくらいに頑張っていた。正直、この人いつ寝てるんだろう? と不思議に思う時もあった。

逆に、私はこの1年で何か変わったんだろうか?

育休が空けて最初の1年。慣れない仕事と育児の両立にヒーヒー言いながらも、大きな問題はなく「それなり」にやっていた。息抜きの「ゲーム」もできていたし、辛いこともほとんどなかった。じゃあ「書く」ことは? と聞かれれば、正直「頑張った」なんて胸を張って言えない。子供を寝かしつける間に「寝落ち」する事もあったし、何度も「諦めた」事だってあった。周りの人はどんどん「上達」しているのに、私は「取り残されている」のがよくわかっていた。そりゃそうだ、誰よりも「頑張っていない」し「書いていない」からだ。「書かないと!」と思って作ったブログも全く更新できていない。
結局のところ、私はこの1年、何にも変わってなんかいなかった。そんな私が簡単に川代さんに会いに行くのは、なんだかちょっと違うような気がした。とても後ろめたい気持ちになった。私が「頑張っていない」のは、きっと川代さんも良く知っている。だからと言って「全然頑張っていないじゃないですか!」と怒られることはない。「福岡天狼院」へ行けば「いらっしゃいませー」と、店員さんとお客さんとして接してくれるだろう。だからこそ、本当は甘えちゃいけないはずだった。学校や仕事みたいに「絶対にやらないといけない」ことではないからこそ、自分自身で「頑張らないと」絶対に先が見えないし、上手くなんてならない。わかっていたつもりだった。頑張っているつもりだった。
だけど、今「本当に頑張っている」人を目の前にして、私は自信を持って「頑張っている」なんて言えない。変わらなきゃ、変わらないといけないんだ。

5月17日に「福岡天狼院」は「福岡天狼院Style for Me」として生まれ変わるそうだ。「なりたい自分になるための書店」らしい。そして、その店長に「なりたい自分になるために頑張っている」川代さんがなるという。福岡、最高かよ。
運が良いことに、私は「福岡」に住んでいる。毎日福岡天狼院のすぐそばを通勤で通っているのだ。今も、川代さんに会うのは正直後ろめたい気持ちでいっぱいだ。どんな顔をしてあって良いのか、わからない。ただ、1つ言えることは「本当になりたい自分になるため」には「後ろめたい」とか言っている暇があれば、とにかく私は「書かないと」いけない。
福岡に「帰ってくる」川代さんに、笑顔で「おかえりなさい」と伝えたい。
それまでに、私も「なりたい自分になる」ためのアップデートを、そろそろ本気で始めないといけないと、そう思った。

【発表/リニューアルオープン】福岡天狼院が天狼院書店「福岡天狼院 Style for Me」として生まれ変わります!《2018年5月17日(木)OPEN》

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