かわいいだけではない、教育者のミーアキャット
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記事:おしごと社長(ライディング・ゼミ日曜コース)
「わかんないから、もう辞める」
幼稚園の年長である息子がそう言って、隣の部屋に行ってしまった。時計の読み方を学ぶためにドリルを使って、何問か解いていたのであるが、息子にはどうも難しかったようである。あまりにも問題が解けないので、息子はやる気をなくしてしまった。
息子は来年の春から小学校に上がるため、入学準備の一環として、アナログ時計の読み方を学んでいた。私は幼稚園年長向けのドリルを選んで買ってきたのであるが、時計の読み方がなかなか理解できないでいた。
例えば、時計の針が「7時10分」を指しているとき、7時とは読めても、長針が2の数字を指しているので、2分と読んでしまうのである。何回か教えているが、短針から何時とは読めても、長針から何分とは読めないでいた。
「このドリルを解いたら、いいものをあげよう、チョコボールだ」
私はお菓子で息子を釣って、もう一度ドリルを解いてもらおうとしてみた。だが、息子からの返事は「難しいから、もうやらない」であった。結局、息子のやる気は戻らず、何かのおもちゃで遊びはじめてしまった。
「さて、どうしたものか」
そのようにつぶやきながら、一人テーブルに残された私はこれからどのように時計の読み方を教えるのがいいのか思案していた。
何かBGMがほしいとテレビをつけたところ、私の目にかわいらしい動物の姿が飛び込んできた。野生動物を扱った番組が放送されており、二本足で立ちすくむミーアキャットが画面に映し出されていた。
「ミーアキャットって、どんな動物なんだろう?」
ミーアキャットのことをあまり知らなかった私は、この動物についてちょっと調べてみたところ、これが子どもへの教え方を見直すきっかけになったのである。
ミーアキャットとは、アフリカ南部の石や岩の多い荒地やサバンナに生息している、マングース科の哺乳類である。2本足で直立する仕草がかわいいと動物園では子どもたちからの人気を集めている。だが、その愛くるしい顔とは裏腹に、気性が荒く、サソリを主食にしているとのこと。
「かわいいふりしながらも、君はわりとやるね」
しばらく感心していたのであるが、実はミーアキャットはなかなかの教育者でもあることがわかった。
彼らの主食はサソリであるが、サソリは毒をもっている生き物である。サソリに刺されでもしたら命にかかわる。だから、親が子どもにサソリの捕り方を教えるときは、安全を意識しながら、段階を踏んで子どもがエサの捕り方を覚えられるようにしている。
ミーアキャットの教育スタイルとして、次のような解説がなされていた。
「まずは子どもに危険がないように、死んだサソリを与える。それで子どもはサソリのかたちと味を覚える。次は毒針を取り除いた生きたサソリを与える。それで子どもは安全の中狩りの仕方を覚える。最後に生きたサソリをそのまま与えて、実践レベルの狩りを体験させる」
この解説を知ったとき、私は自分の教え方が間違っていたことに気がついた。
息子と同じクラスの子が時計の読み方どころか、1日は24時間と時間の概念まで理解していたことに私は焦ってしまった。
「わが子にもこの段階に早くいってもらいたい」
そのように考えた私は、息子の理解の段階を飛び越えて、高度なことを教えようとしていたのである。ドリルをよくよく見てみると、表紙には「ハイレベル」とかかれていた。
この程度は理解してほしいと思ってドリルを買ってきたのはいいが、「基礎」「応用」「ハイレベル」と難易度が三段階あるうちの一番難しいドリルを選んでいたのである。
ミーアキャットにならうと、子どもにサソリの捕り方をはじめて教えようとするときに、私は毒針を持った生きたままのサソリを選んで、子どもに与えていたことになる。
「ごめん。お父さんが買ってきたドリルは一番難しいものだった」
私は駅前の本屋に出かけて、「基礎」とかかれた時計のドリルを手に入れて、また、お詫びのチョコボールも買って自宅に戻った。
息子にはお菓子を食べてご機嫌になってもらったあと、もう一度時計のドリルを解いてもらった。もちろん、表紙には「基礎」とかかれた一番簡単なドリルである。
すると、息子は楽しそうにドリルを解きはじめた。ドリルを解き終わった息子がすっかりとやる気を取り戻したことは、その笑顔が物語っていた。
わが子に笑顔が戻ってきて、お父さんはほっとしている。そして、今度の休みの日にはドリルを解き終わったご褒美に動物園に行こうと息子を誘ってみた。
「動物園に絶対に行く!」と、息子はたいそう喜んでいる。
もちろん、動物園でのお目当てのひとつはミーアキャットである。教育者である彼らに出会ったら、私の教え方の間違いを気づかせてくれたお礼を是非とも伝えたい。
「ミーアキャット先生、ありがとう」
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