おいしいチャーハン探しでたどり着いた先は?
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記事:小川泰央(ライティング・ゼミ平日コース)
「この辺でおいしいチャーハンのお店はありませんか?」
昨年、今の職場に着任するなり、同僚たちに聞いた。
「すぐ近くにチャーハンで有名なお店ならありますよ。プロ野球選手の〇〇もわざわざチャーハンを食べに来たことがあるらしいですから」
同僚の一人が教えてくれた。
私の職場周辺は、おそらく日本一と言ってもいいほどのグルメ激戦地だ。中華料理屋だけでもごまんとある。この地に赴任したことで、あきらめかけていた、おいしいチャーハン探しの旅への思いに再び火がついた。
ところで、なぜ、おいしいチャーハン探しなのか?
あれは昔、今から30年以上前。私が、確か高校生の頃だっただろうか。
週末になると、我が家から歩いて5分くらいのところにある中華料理屋さんに昼ごはんを一人でよく食べに行っていた。そのお店は住宅街にポツンと一軒ある、いわゆる「町中華」だった。
そこで、私が毎回のように注文していたのが店名のついたチャーハンだった。
もちろん、メニューは、他にもラーメン、中華丼や回鍋肉定食等、いろいろあったが、その中でもチャーハンは値段が安くボリューム満点で、なおかつ、おいしかったので、高校生の私にはありがたかった。
具材はきわめてシンプルで、見たところ、チャーシュー、卵、ネギ、ナルトにグリンピースくらい。しかも濃過ぎず薄すぎず、素朴でやさしい味なのだ。だからこそ、何度食べても飽きがこない。私のお気に入りのチャーハンになっていた。
そんな中華料理屋さんに通い始めて3年くらい経ったある日のことだった。
いつものように、チャーハンを食べようとお店の前まで来たが、定休日でもないのにシャッターが閉まっていた。するとドアのところに1枚の張り紙が。閉店してしまったのだ。
高校時代食べ続けた、お気に入りのチャーハンが、ある日突然、食べることができなくなってしまったのだ。今だと「チャーハン・ロス」とでも言うのだろうか。そんな気持ちから、この素朴で優しい味のおいしいチャーハン探しの旅が始まったのだった。
社会人になってからも、中華料理を食べる機会があると、必ずチャーハンを注文した。その中にはおいしいお店もたくさんあったが、いずれも私の求めていたものではなかった。
そんなあきらめムードの中での今回の日本一のグルメ激戦地への赴任なだけに、たまらず、同僚に聞いてしまったのだ。
「この辺でおいしいチャーハンのお店はありませんか?」と。
それからというもの、同僚から教えてもらった店も含め、少なくとも30店は食べ歩いた。さすが、グルメ激戦地だけあって、値段もリーズナブルで、味のレベルも高かった。
しかし、結局、求めている味には出会うことができないままだった。
そんなある日、実家に用事があり立ち寄ることがあった。
「せっかく、来たのだから、お昼ご飯でも食べていきなさい。まあ、あり合わせしかないけど」と母に促され、食べていくことにした。
そこで出てきたのが、いかにも冷蔵庫に残っていた、卵とハムとネギが具材のチャーハンだった。
「まあ、あり合わせだから仕方ないか」
とぶつぶつ独り言を言いながら、一口食べたその瞬間!
「ん! これは……」
素朴でシンプルで優しい味、まさに私が求めていたチャーハンだった。
さんざん食べ歩いて求めていたものが、まさかここにあったとは。
いや、むしろ、あの中華料理屋さんのチャーハンではなく、小さいころから母が手作りしてくれた、この母の思い出のチャーハンの味を無意識のうちに求めていたのだ。
それはまるで、「青い鳥」の童話のようだ。
2人兄妹のチルチルとミチルが、クリスマス・イブの夢の中で、妖精に導かれて、幸福の象徴である「青い鳥」を探しに過去や未来の国をさまよい歩くが、結局捕まえることができなかった。しかし、目を覚まして、目の前の鳥かごをみると、飼っている鳥に青い羽があることに気づく。実は目の前の鳥こそが「青い鳥」だったのだ。つまり、「幸福はすぐそばにあってもなかなか気づかないものだ」という教えだ。
振り返ると、母はよく、私や弟2人のために、料理を手作りしてくれた。チャーハンだけではない。子供が喜びそうな、ハンバーグやカレー、シチューやおでん、ドーナツやホットケーキ、フレンチトースト等々、数え上げればきりがない。
だけどそのどれもが、味付けが控えめで、子供心にどれもおいしいとは思わなかった。だから、それを嫌って、高校生になると自ら外食をすることが多かったのだ。
そんな時、母はいつも笑いながらこう言った。
「栄養士は必ずしも料理が上手いとは限らないわよ~」
でも大人になった今なら、そのありがたみが分かる。それは、栄養士である母が、我々の体のことを考えて、できるだけ調味料を使わないようにしてくれていたのだ。もちろん、あのチャーハンも。
こうして、私のおいしいチャーハン探しの旅は終わった。
これからは、今まで私の体に気を遣ってくれた母に感謝の気持ちを伝えよう。
そして、今度は私が、少し耳の遠くなった母のことを気遣って、親孝行をしていこう。
ちょうどお盆。久しぶりにゆっくり実家の両親のところに顔を出してみようと思っている。
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