私の持っている爆弾は花火なのか、それともただの灰なのか
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:末原 静二郎(ライティング・ゼミ平日コース)
人はみな、体に爆弾を抱えているとおもう。
ケンドーコバヤシがよく言う、「プロレスラーが膝に爆弾を抱えている」
とかいうその爆弾ではない。
ただその爆弾は、大体爆発することなく、静かにまるでなかったようにふるまい、大体の人は死んでいく。
でも、今日、その爆弾が爆発したひとを見たのだ。
それは横眼から見ても、うらやましいものだった。
26歳、遅めの新卒1年目の社員。お盆明けの月曜日、だるいなんて思わない。
今日も元気に行ってきまーす!というわけにもいかず、やはり集中力を欠く。
脳みそがクラゲのようになってぷかぷか空中を漂い、席についているが、なんだかがんばる気がしない。
さてはともあれ定時になって帰る。ルンルン気分をおさえてさっそうと会社の外に出る。
エレベーターを待っていると、コツコツと革靴が床をたたく音。
この音は、と思いふりかえると
「よお」
「おう、おつかれ」
同期の伊賀がそこにいた。重たげな革靴の音は、会社の中でもひときわ大きな音たてる。
無人のエレベーターに乗り込むと、いつも通り今日も仕事進まなかったな、とか
軽口たたき合うのかと思いきや、彼の開口一番にずいぶん驚いた。
「おれ、仕事やめんねん」
なにーーー!!!
仕事、やめるだと!!!
しかし、わたくしもういい大人である。
そんなことで驚くわけにはいかないのだ。
「えー! ほんまに! あ、そーなん」
「うん、やりたいことができてな」
「そうか、そうか。で、やりたいことって?」
「小説かきたいなって。前にも言ったけど」
たった3階のビルを下るエレベーター。このわずかな時間に、彼なりの
覚悟や考えを読み取った。
それは漫画でよくある回想シーンのようだった。
それでいて彼の話をきき、私は偉く心をゆざぶられていた。
返事の言葉は緊張で少し震え、興奮していることを悟られまいと
精一杯になり、言葉遣いも少し変になった。
どうやら彼の方も打ち明けた緊張やら興奮やらで少し言葉が詰まっていた。
私はその時見たのだ。爆発するのを。
人のなかで爆発したのが結局夜空に打ちあがる花火なのか、
人を巻き込むテロ的衝撃なのかはわからない。
でも、わたしはその花火をみて興奮を抑えきれなかった。
下馬評を覆した今年のワールドカップ日本代表を見たような。
初めて太陽の塔を見たときのような。
初期衝動。
心臓の映像が出てきて、ドクンドクンとしている。
まさに人間の心臓部にあるはずの『爆弾』
人はみな、この爆弾を持っていると思う。
私の場合は、ロックだったり、アニメだったりした。
スピッツやBUMP OF CHICKENをきいて、驚き、憧れ、「自分も」とギターを買ったあの時。
宮崎駿の『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』を見て、その繊細な映像に驚き、
アニメに詳しくなりたい、と思った時。
血沸き肉躍るとはまさにこのことだ。
サッカー部なら2010年ワールドカップを見た次の日の朝。
野球部ならWBCで優勝した次の日の朝。
自主練に力が入っただろう。
中学生くらいの時。自分にはなんでもなれる、という夢や希望があふれていた。
あの衝動を私は社会人1年目の同期に見せつけられたわけだ。
私はいつの間にかその爆弾をうまく手なずける方法を知ってしまっていた。
26にもなると、こざかしく欲望をごまかす術を覚えてしまっている。
大学、就活、入社後。
「ほう、どうやら自分はこんな感じでお金を稼ぎ、こんな感じで幸せを感じ、こんな風に人生を送るのだな」
と、そろばんをはじいてしまっている。
そしてそろばんで計算した結果不必要だと思われる欲望を抑え込むようになる。
「これぐらい安定できて、仕事もまあまあ、恋人もいる。恵まれている。幸福だ。
この調子で、やりすぎず、安定、安定」
自分に言い聞かせることで、泣きわめく狂犬のような欲望は少しずつ静まり返る。
もちろん、これは大事なことである。
欲望の抑えられないとオトナにはなれない。お金を稼ぐにも、異性と接する時も、自分の欲望をさらけ出してしまってはうまくいくはずがない。
昨日、ニュースをつけると、
「ナイフを持った中学生が通りかかった40代女性を刺した」
という事件が流れていた。犯人の動機は「いらいらしして、ストレスが溜まっていた」
これも欲望の処理を身につけないからこそ起きてしまった事件だ。
人間社会で生きるには最低限爆発に備えた水は必要ではある。でも、あまりにも爆弾に水をかけすぎると、自分がなぜ生きているのかわからなくなってしまうのではないだろうか。
就活を経て仕事をしている。クリエイティブな仕事にではあるし、面白さはある。
でも、なんだか世間体とか収入とか、すべてにおいて安パイな気がするのだ。
会社に通う電車の中で、「果たしてこれでいいのか」とふと考えることがある。
同期以外にも、大学の友達は転職したり、職につかなかったり。
就職はするもんだ、とおもって就活をしていたが、自分はただまわりに流されているだけな気がしてくる。
同期の彼が爆発したその爆弾は、打ち上げ花火な気がする。
たとえ彼が小説家として成功しなくても、会社を辞める彼は人生と向き合い、一つの結論を出せたのだ。彼はしばらくバイトをするという。その日々はつらく苦しくも、輝く日々あろう。
私も、打ち上ろう。
そのためにも、今は天狼院という書店のライティング・ゼミをやる。こつこつと。
いつか、彼のような輝く花火になれるように。
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