メディアグランプリ

パフェという名のタイムマシン


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:原雄貴(ライティング・ゼミ平日コース)
 
(これはフィクションです。)
 

「早く行かなきゃ!」
友人はもう必死の思いで人ごみをかき分けるようにして早歩きしていた。
そう。アレを今日絶対に食べたいがために。
 

「ああ!これ、すごくおいしそう」
ある日、僕の友人はある雑誌をぺろりと開いた瞬間に目を見開いた。
そこには、食欲をそそるような抹茶パフェの写真がこれでもかというくらいに主張して、1ページを陣取っていた。
友人が出会ったそのパフェは、見た目もきれいなことながら、使っている具材はほとんどが店での手作りだという。
友人は滅多に雑誌で知ったお店には行ったことがないという。
一般的には、雑誌などに載るお店というものは玉石混合であって、自分の目がしっかりしていなければ全くのはずれを引いてしまうことが少なくない。
特に、食べ物屋さんに関しては、有名な雑誌に載るものになればはずれる可能性は高くなっていく。
友人も雑誌で話題のお店は「まずいかも」と敬遠する人のひとりだ。
でも、そんな友人をこのパフェは動かした。
「このパフェだけは絶対に食べる!」
なぜ友人はパフェを食べたい衝動に駆られたのか。
それは、もともと友人が生まれつきの甘党だということ。とにかく毎日15時には甘いものがどうしても欲しくなり、食事の後もデザートを欠かさない。おいしそうなスイーツがあれば用事があっても足を止めて見とれてしまう。本当に生来の「甘党組」である。
しかも、そのパフェに雑誌で出会った日は猛暑日で、雑誌を見た本屋の中もどうしたことか冷房が効いていなかった。
こんな好条件がそろっている中でおいしそうなパフェなんかを見かけた日には、「食べに行くしかないでしょ。何が何でも!」
 

「今日は絶対に食べに行きたい」
パフェを食べると決めた当日、仕事が忙しい中で、唯一その店に行ける時間がきた。友人は初めて行く場所に不安と期待をもって、必死に泳ぐかのごとく目当ての店がある商店街の人ごみをかき分けていった。やっとの思いで目当ての喫茶店に到着した。
ところが、長蛇の列。大小のグループが何組も待っていた。
おまけに今日は後に天狼院のゼミが控えている。
「パフェはどうしても今日食べたい。でも、ゼミはさぼれない……。どうしよう」
ギリギリまで待った。でも……こういう時にかぎってなかなか呼ばれない。
「どうしよう。本当にどうしよう!」
焦りのあまり、全身汗びっしょりになってきた。
そのときだった。
「1名様どうぞ」
その瞬間、友人はガッツポーズでもしようと思ったが、安堵と疲れが先行してふらついてしまった。おぼつかない足取りで入店。
店内は町家を改装したらしく、落ち着いた雰囲気の店だった。天井につき出した梁がまた何とも趣があり、静かなピアノ音楽が店の雰囲気に花を添えていた。
「お待たせいたしました。抹茶パフェです」
ついに対面の時。
そこには、写真で見るよりもさらにきれいなパフェが落ち着いた緑色を身にまとい、様々なフルーツや菓子を被って座っていた。
おもわず、ゴクリと唾をのみ込む。
じっくりとその姿を目に焼き付け、スプーンを手にもつ。
そして、ゆっくりとパフェが被っている抹茶団子をすくって口に含んだ。
その瞬間、抹茶の苦みと団子の甘さが共鳴し、団子の弾力が満足感を与えた。
「うまい」
つぎの花形の切り菓子にも手が伸びる。これまた弾力があって味もほどよい甘さ。
ゆっくりではあるけれど、食べる手は止まらない。
会いたいものに会えた、まさに至福のとき。
 

しかし、グラスの中央部分まで食べたときにそれは起こった。
「あれ?待てよ……。この味、どこかで食べたような」
今までの至福の時間が止まり、代わって何とも言えない違和感が漂い始めた。
「どこだろう、どこで味わったんだろう」
思い出そうとすればするほど、違和感は強まる。
そのまま食べ続けて、遂に最後の抹茶ゼリーの層にたどり着く。
抹茶ゼリーを一口ほおばったときだった。
「あ!これは」
ようやく思い出した。なんと、それは学生時代、まったく同じ店で同じ季節に食べたパフェそのものだった。そして、今食べた抹茶ゼリーはこのパフェの中で一番味を覚えていたものだった。
「ふふっ、はは、ははははっ」
おなかの底から笑えてしまった。
それとともに、当時の様々な情景が脳裏に浮かんだ。
当時の楽しかったこと、辛かったこと、この商店街にあった老舗の元気なおばちゃんのこと、商店街の近くでいつも一緒に飲んだ学生時代の友人。商店街の本屋でいつも立ち読みをしていた気になる同年代くらいの女性も。
友人はまさに現在にいながら学生時代に戻っていた。
本当に苦くて甘い学生生活だ。心地よい。永遠に漂えそうな気さえしてきた。
「もう一度戻ってこないかな。というか、一生このままでいたいな」
そう思ったとき、はっと我に返った。
そこは、もう学生時代の喫茶店ではなかった。
いつの間にか、満員だった店内はがらんとしていて、後には空になったパフェのグラスが目の前にぽつりとあるだけだった。
「やっぱり、今を生きなくちゃだめか」
すこし肩を落とした。
「でも、楽しい時間を意外なかたちで過ごせたな」
本当に不思議だ。思ってもいないところで奇跡のようなことが起こる。
これだから、世の中は面白い。
友人は顔をあげた。
「ありがとう、抹茶パフェさん。おかげで楽しかったよ」
そして再び頭を下げた。その拍子に腕時計が目に飛び込んできた。
「うわ、大変!もうこんな時間だ。ゼミに遅れちゃう」
友人はカバンをつかんで急いで会計を済ませると、店を飛び出していった。
テーブルに寂しく残されたパフェのテーブルに見送られながら。
 
***

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2018-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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