辛いことを忘れる方法
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:牟田貞治(ライティング・ゼミ平日コース)
「もう私どうしたら良いか分からない!」
両手で顔を覆い、泣き始めてしまった友人……
これは、ある集まりで知り合った友人達との会食での出来事です
30代前半のその女性は、6年以上付き合い続けた彼を2年前に残念ながら亡くしてしまったとのこと
その彼のことが忘れることが出来ず、形見の写真をいつも持ち歩いて、同居していた彼の部屋はそのまま……
いつも彼との楽しかった思い出を話しては、最後に泣いてしまう。そんな自分を変えたいと思っているが、変えられないまま月日が過ぎて、苦しんでいるとのことでした
何と声を掛けたら分からない……そんな重く長い沈黙が訪れたました
皆さんの中にも悲しい思い出をお持ちの方もいるかと思います
私も歳を重ねる中で、いくつか悲しい別れを経験したことがありました
話を聞きながら、幾つかの経験を心の中で反すうしているうちに、ふと口を衝いて出てしまった質問がありました
「本当に忘れたいのですか?」
しまったと思いました。こんな事聞いてはいけないし、聞くべきではないと分かっていたつもりでしたが、つい口が滑ってしましました……
当然、次のような質問が返ってきます
「そりゃ、忘れたいわよ、忘れたいに決まってるじゃない……どういうことなのよ?」
後悔の念もありましたが、唐突の焦りから咄嗟にある例え話をしてしましまいた
それは『何でも忘れられる赤いボタン』の話です
話は単純で、短くまとめるとこうです
目の前に「赤いボタン」を想像してもらう
そして、忘れたい人のありとあらゆる事を思い出す
楽しかったこと、辛かったこと……
めいいっぱい思い出してもらった後に、次のように聞きます
「そのボタン、押しますか?」と
この妙な例え話へ行き着くまでには、ある経験がありました
私の別れの原点の話です
それは、幼稚園の年長まで遡ります
当時の私は体も弱く、また怪我をするなど不運なことが続いたこともあり、その年に4度も入院することになります
その入院生活の中で、いつも会う小さな子供がいました
年齢は1つ下、何か重い病気を患っていたらしく、半年以上の長期入院を余儀なくされているようでした
その子は、小さく細めの体にも関わらす割と活発で、いつも小さなロボットやミニカーなどを取り合うように遊んでいました
私が1つ年上なこともあり、自分の親からは「面倒みてあげなさい」と言われてた手前、おもちゃの取り合いになっても最後は自分が折れる……
そんな遊び方をしていました
私は度々の入院、その子は長い入院をし続ける、そんな小さな別れと出会いを繰り返す中で、いつしか強い友情で結ばれる事となりました
ある日の事、彼が大きく長く泣き出してしまったことがありました
最初は、僕のお気に入りのロボットを取り上げてしまったからかと思ったので、そのおもちゃを渡しました
まだ泣き止みません。困り果てた僕は、持っている全てのおもちゃを、その子に渡してみました
それでも全く泣き止む気配がありませんでした。今まではそんな事なかったのに……
やがて、泣く原因がおもちゃではないことに気がつく事となります
「僕はきっと治らないんだ……」
不思議と衝撃を受けなかった事を今でも覚えています
無理に言葉にすると子供なりに何となく察していたというか、何というか……
そんな中、その子の親が病室に来るのが、廊下にいた看護師さんの会話で僕たちに伝わってきました
すると突然、その子が病室のドアの方へ僕を突き飛ばしました
「泣いてるところをパパやママには、見られたくないんだ!」
ゴシゴシと顔を拭き始めました
これまた不思議とあっけに取られることなく、私はその子の両親の元へ向かいます
「今、かくれんぼしてるんだ、まだ入らないで!」
確かそんな誤魔化し方をしたように思います
なんとか時間を稼がないと、そんな気持ちでいっぱいだったのを覚えています
そんな小さな抵抗も数十秒しか持たず、結局その子のパパとママは、子供の近くに行きます
当然、泣いていることにも気が付きます……
しかし、僕の行動が幸をそうしたのか、パパとママは僕が泣かせたのを誤魔化したと捉えたようでした
一応、セーフ。そんな事を思いつつ、僕が怒られただけで場が収まります
その時事を大人になって思い出すと、いつも思うことがあります
子供でも想像以上に色々な事を感じている……
そんな事を強く思わせる出来事でした
その数日後、その子との別れの時が来ました。私の4度目の退院です
自分のベッドを片付けて、両親と共に病室を出て行こうとした時、その子に手を引かれました
「今度はいつ来るの?」
何となくもう来ることはないと感じた私は、小さな罪悪感と共にこんな風に答えたのを覚えています
「また来るよ」
人生初めての大きな嘘でした
その後、その子がどうなったかは分かりませんが、当時の私は「死んでしまうんだ」そう思い込んでしまいました
何で嘘をついてしまったのか、何で彼は死んでしまうのか、自分もいつか死んでしまうのか……
頭がぐちゃぐちゃになって眠れずに泣く……、そんな事が小学校低学年まで、時折続くことになります
ある時、部屋に赤いボタンがあるのを見つけました。当時、兄が電気工作に夢中になっていて、その工作で使用するボタンの1つでした
これをみて何となく思いつきました
「このボタンを押せば、あの子の事を忘れられる」
そう思い込んで、何度も何度も押しました。何度も何度も……
ゴリッ。不意にボタンは壊れました。その時、子供の私はこう思いました
「忘れることはできないんだ……、忘れちゃいけないんだ……」と
そう思った時、少し心が軽くなったのを今でも覚えています
その思いがやがて、大人になっても訪れる別れの中で、出てきた言葉があります
「忘れなくて良いと分かった時、忘れられる」
これが「赤いボタン」の原点です
こんなお節介であつかましい例え話を、先の彼女は優しく聞いてくれました
そして優しく答えてくれました
「ありがとう」
安堵と共に、こう思いました。「もう、二度としません」と
ピューリッツァー賞の中に「追憶」という1984年に撮られた写真があります
戦没追悼記念日に亡き夫の墓を抱いている婦人の写真です
これを初めてみた時に、色々な事が頭を過りました
人生、立ち止まっても良いし、進んでも良いのです
どんな出会いや別れも、こう思うことにしています
「あなたに会えてよかった」と
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